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【書籍化・コミカライズ】偽聖女!? ミラの冒険譚 ~追放されましたが、実は最強なのでセカンドライフを楽しみます!~  作者: 櫻井みこと
第一部

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 ミラは何も言えずに、ラウルの横顔を見つめていた。

 彼の決意は固い。

 きっとミラが何を言っても、考えを変えることはないだろう。それがわかっているから、ただ見つめることしかできなかった。

「まぁ、今はこの町を守ることが先決だ。ただ、先にお前に伝えておきたかった。それだけだ」

 ラウルはそう言って立ち上がると、ミラに手を差し伸べた。

 素直にその手を握って、ミラも立ち上がる。

「もう休んだ方がいい。教会まで送る」

「……ううん。ひとりで戻れるわ。ラウルも、交代したらちゃんと休んでね」

「ああ。お休み」

 ラウルと別れて教会に戻ると、礼拝堂にサリアの姿があった。

 ミラの不在に気が付いて、待っていてくれたようだ。

「よかった。戻ってきたのね。町の中だからそんなに心配はしていなかったけれど、少し気になって」

「ごめんなさい。ちょっと、話をしてきたの」

「……ラウルと?」

 サリアの優しい声に、こくりと頷く。

「今後の打ち合わせをしておきたくて。これからも協力してくれるって言ってくれたの。だから、安心したわ」

 動揺を隠して、笑顔でそう言う。

「そう。よかったわね。彼の剣の腕はバロックも認めていたわ。頼もしいわね」

「ええ、本当に」

 でも彼は、いずれミラの元を立ち去ってしまう。そして魔物の住処となってしまっている、危険な場所に行くのだ。もう彼が怪我をしても、癒してあげられない。それを思うと、泣き出したくなる。

「でも、悲しそうな顔をしている。何かあったの?」

「……そんなことは」

 慌てて否定するが、サリアにはすべて、お見通しだったらしい。ミラはしばらく沈黙したあと、何でもないことのように笑って告げた。

「この町にいる間は、一緒にいてくれるみたいだけど、その後はこの国を離れるらしいの。それを聞いたら、少し寂しくなって」

 正直にそう伝えると、サリアは慈愛に満ちた微笑みでミラを優しく抱きしめた。

「そうだったの。それで、そんな顔をしていたのね」

「私、どんな顔をしていたの?」

「とても悲しそうだったわ。こうして抱きしめたくなるくらい」

 ミラは自分の頬に手を当てた。

 ラウルにも、そんな顔を見せてしまっただろうか。

「まだ時間はあるわ。焦らずに、じっくりと自分の気持ちに向き合うべきね。私も、バロックのこと、最初は大嫌いだったのよ」

「え、そうなの?」

「ええ。出逢ったときのこと、今度教えてあげるわ」

 だから、今日はもう休みなさい。

 そう言われて、ミラは自分の部屋に戻った。

 サリアと話したお陰で、心も少し軽くなったようだ。

 この町が、結界なしで成り立つには、まだ時間が掛かる。それまでは一緒に居られるのだから、その貴重な時間を苦しい思い出だけにしたくはない。

つらくても笑顔でいよう。

 そう決意して、目を閉じる。


 けれど、平穏な日々は長くは続かなかった。

 それからひと月ほど経過した、ある夜のこと。

 見張りをしていたバロックが、非常事態の鐘を鳴らしたのだ。

 結界に守られたこの町にとって、魔物の襲撃は緊急事態ではない。

 鐘を鳴らすほどの非常事態。

 それは、町の近くで魔物の襲撃があり、大量の怪我人が運び込まれたときだ。

 ミラはすぐに飛び起き、身支度をして部屋を飛び出した。侍女とサリアも、その後に続く。

 怪我人は、教会の礼拝堂に運び込まれていた。

「……っ」

 駆け付けたミラは、目の前の光景に思わず息を呑む。

「これは……。ひどいわね」

ミラの背後にいたサリアも、震える声でそう呟いた。

 二十人ほどの人が、床に布を敷いた上に寝かされていた。かなり酷い怪我を負っていて、意識のない人もいる。すぐにでも治療をしなければ、助からないかもしれない。

「他にも重傷者がいる。応急手当を手伝ってくれ!」

 教会の外からバロックの声がして、サリアと侍女が駆けて行った。

 残されたミラは、ひとりひとり治療をしていては間に合わないと判断し、礼拝堂全体に治癒魔法を掛ける。

(……お願い、成功して)

 礼拝堂全体が銀色の光に包まれる。

 魔力をかなり消耗したのがわかった。急激に失われた魔力に、足がふらついて倒れそうになる。

(まだ、駄目。外にも重傷者がいると言っていたわ。癒さないと)

 魔力はまだ充分に残っている。体力にさえ気を付ければ大丈夫なはずだ。必死に外に出ると、ミラの姿を見つけたサリアが駆け寄ってきた。

「……王都が、壊滅したそうよ」

「!」

あまりの衝撃に、ミラは言葉を発することもできずに、ただ息を呑む。


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