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【書籍化・コミカライズ】偽聖女!? ミラの冒険譚 ~追放されましたが、実は最強なのでセカンドライフを楽しみます!~  作者: 櫻井みこと
第一部

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 料理は思っていたよりもずっと楽しくて、ミラはすぐに夢中になった。

 最初は教わった通りの材料が揃わなかったら作れなかったのに、少しずつアレンジができるようになっていた。

 食事は基本なので、誰でも作れるようにした方がいい。

 そう言って、最初はジェイダーも一緒に習っていたのだが、彼の方はあまり向いていなかったらしく、貴重な食材を無駄にするだけだと、ラウルに参加を禁止されてしまった。

 たしかにミラから見ても、彼はあまり器用ではなさそうだ。

 しばらくは落ち込んでいたが、そのうち畑を立派に作ってみせると、男の子達を連れて熱心に広場を耕しているようだ。

 そこで収穫できるようになるのはまだまだ先だろうが、ミラ達と違って彼がこの町で過ごす時間は、きっと長くなる。

 そのうち立派な畑ができるだろうと、期待していた。


「うん、上手に焼けたわね」

 この日もミラは、三人の女の子達と一緒にパンを焼いていた。

 小麦粉などは、廃墟となってしまった店から分けてもらった。

 町はこんな状況だし、支払うべき相手はもういない状況だが、それでもミラは、何を持ち出したのかすべて書いておくことにした。

 いつかその店の関係者に会うことがあったら、きちんと支払うつもりだが、こんな状況ではきっと難しい。

 でもこうしないと、子ども達のためだとわかっていても、罪悪感が勝って店に残されたものを使うことができなかった。

 畑はまだ苦戦しているようだが、ラウルが近くの森まで行って、色々なものを採取してくれる。

 今日は少し遠出するらしく、夜遅くまで帰らないと言っていた。森には魔物も出るらしいが、ラウルなら大丈夫だろう。

 そう信じていたが、夜明け近くに戻ってきたラウルは、複数の怪我人を連れてきた。

 どうやら森の中で魔物に襲われていた人に遭遇して、助けたらしい。

 自分の部屋で休んでいたミラは手早く着替え、銀色の髪を動きやすいように纏めて、礼拝堂に駆けつけた。

 怪我人は、老夫婦と孫娘らしき子どもの三人だった。

 三人ともひどい怪我で、ラウルもここまで連れて来るのにかなり苦労したようだ。

「もう大丈夫。すぐに治してあげるからね」

 そう言って、祈るように両手を組み合わせる。

 祈りが聖女の魔力を強めると知ってから、こうして魔法を使うことが多くなった。

 淡い銀色の光がミラの身体を包み込み、老夫婦の傷がみるみる消えていく。そして負った傷のせいか、高熱が出て喘いでいた小さな女の子の顔から、苦痛の色が消えた。

 慌てて駆けつけたジェイダーは、その奇跡のような光景を目の当たりにして、言葉もなく立ち尽くしていた。

「ああ、ありがとうございます、聖女様」

「この子を助けてくださって、本当にありがとうございました」

 老夫婦が涙ながらに感謝をしてくれて、ミラも聖女にふさわしい慈愛に満ちた笑顔で微笑んだ。

「怪我は治っても、体力はまだ回復していません。今夜はゆっくりと休んでください。明日の朝、また怪我の回復具合を見ますから」

 ジェイダーと子ども達が、老夫婦と孫娘を開いている部屋に連れて行ってくれた。

 それを見送ってから、ミラは教会の入り口で見守っていたラウルの元に駆け寄る。

「ラウルは、怪我をしていない?」

 三人があれほど重傷だったのだ。彼らを守ったラウルも、無傷ではないだろう。

 だが、彼はあっさりと言う。

「これくらいはかすり傷だ。気にするな」

「駄目よ、ちゃんと治療しないと!」

 ミラは、そのまま教会の敷地内にある小屋に戻ろうとしているラウルの腕を、思い切り引っ張る。

「魔物から受けた傷を、甘く見ては駄目。どんな小さな傷でも、ちゃんと癒さないと」

 ラウルとミラの体格差では、彼を強引に連れ出すことは難しい。

 それでも必死になって腕を引っ張っていると、ラウルは呆れたように笑って、ミラの頭を優しくぽんと叩いた。

「わかったから、そんなに引っ張るな。まったく、これが先程の聖女と同じだとは思えないな」

「だって、今さらラウルに取り繕う必要はないもの」

 彼の前では聖女ではなく、素のミラでいられるようになっていた。

 ようやく軽くなった腕を引っ張って、治癒魔法をかける。

 消費した魔力から考えると、ラウルの怪我はそんなに軽いものではなかったようだ。

「もう無理はしないで。痛みは残っていない?」

「ああ、大丈夫だ。相変わらず、すごい威力だな」

「すぐに治せるからって、無茶は駄目よ?」

「わかっている。お前も魔力の使い過ぎには注意しろ。おそらく、これからはもっと、こういうことが増えていく」

 町の外に出ているラウルには、状況が悪化しているのがわかるのだろう。



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