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町はそれほど大きいものではなく、町全体に結界を張ったとしても、そう負担になるものではなかった。以前は王都全体に結界を張り巡らせていたことを考えると、楽なものだ。
ジェイダーと子ども達は、町の広場を耕して畑を作っている様子だった。
「私も手伝うわ」
ミラは銀色の髪を動きやすいようにまとめると、そう言って子ども達の中に交じった。
広場だった地面は固く踏み固められているので、掘り返すのも一苦労だ。この国の王族であるジェイダーも、エイタス王国の王妹ミラも、こんな作業は初めてで、子ども達に教えてもらうような有様だった。
子ども達の小さな手ではなかなか作業が進まず、この日は地面を浅く掘り返しただけで終わってしまった。
時刻はそろそろ夕刻。鮮やかな夕陽が、瓦礫を照らしていた。
たくさん動いたせいで、子ども達はお腹がすいたようだ。
食事の支度も、当然のことながら自分達でしなければならない。
畑仕事同様、今までやったことはなかったが、ここで暮らすと決めた以上、できないなどと言っていられない。
ラウルとジェイダーと協力し合いながら、頑張るしかないと覚悟を決める。
だが教会に戻った途端、いい香りが漂ってきた。
「あれ?」
見ると、教会に残っていた数人の女の子が、みんなで協力して食事の配膳をしているようだ。
焼きたてのパンの良い香りに、食欲を刺激される。
「これは……」
少し遅れてきたジェイダーも、驚いて目を見開いている。
「おかえりなさい。ご飯できてるよ」
にこりと笑ってそう言った女の子に、ジェイダーは、危ないから子どもだけで火を使ってはいけないと諭している。
孤児院の子ども達は、働くことに慣れている。
でも、さすがに危ないことはさせられない。
ジェイダーは、瓦礫の山に子ども達だけで近付いてはいけない。そして、子ども達だけで火を使ってはいけないと教えていたようだ。
「大丈夫だよ。作ったのはわたしじゃないから。ラウルお兄ちゃんが作ってくれたの」
「え、ラウル?」
驚いて調理場を覘くと、ミラ達よりも先に戻っていたらしいラウルが、数人の女の子と食事の支度をしていた。
たしかに今までも、野営をしていたときはラウルが食事を用意してくれていた。でも、こんなにちゃんとした料理が出てくるとは思わなかった。温かいスープに、焼きたてのパン。森で採ってきたらしい果実もあった。
女の子達は、これから少しずつ料理を習うのだと嬉しそうに話していた。ミラもジェイダーも自分で料理をしたことがなかったので、子ども達に教えることができるのはラウルだけだ。
「ラウル、私にも教えてくれる?」
ミラの懇願に、ラウルは首を傾げる。
「必要ないだろう? ずっとここに住むわけでもない。お前はいずれ、エイタス王国に帰るのだから」
国に帰れば、ミラは王妹だ。たしかにラウルの言うように、自分で食事を用意する必要などない。
「でもここにいる間は、私はただのミラだわ。みんなと一緒に、協力し合っていきたいの」
「……わかった」
ミラの懇願に、ラウルは頷いてくれた。
ラウルだって必要に駆られて覚えただけで、人に教えるのは面倒だろうに、快く承諾してくれた。
ここはしっかりと覚えて、結界を張ること以外、固定した仕事がない自分の役目にしてしまいたいところだ。
料理ができるようになれば、ラウルと旅を再開したときも、きっと役に立つだろう。
「一緒に頑張ろうね」
女の子達にそう言うと、彼女達は嬉しそうに、こくりと頷いてくれた。




