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とりあえず保護した子ども達を、安全な場所に移動させなくてはならない。ミラとラウルは子ども達を連れて、一旦野営していた場所まで戻ることにした。
「大丈夫? 怪我はなかった?」
ミラが優しく声をかけると、子ども達はまだ怯えた顔をしながらも、こくりと頷く。
子ども達は、男の子が二人、女の子が三人の、全部で五人のようだ。
どうやらこの子ども達は、あの壊滅した町の孤児院に住んでいたらしい。あの日は数名で町の外にある畑に収穫に向かっていたため、運良く難を逃れたようだ。
そうして町が魔物の襲撃によって壊滅したあと、残された子ども達で協力し合って、あの山の中にある洞窟に隠れ住んでいたのだと言う。
そこを、あの蜥蜴のような魔物に襲われてしまったのだ。
携帯食を子ども達に配り、かなり大きいが、ラウルやミラの着替えを着せて、暖かい毛布を掛けてやる。
大人に保護されて安心したのか、子ども達は皆、毛布に包まったまま眠ってしまったようだ。
(……かわいそうに)
以前にも、村が魔物に襲われて逃げ出してきた姉妹と出逢ったことがあったと、思い出す。
でもあの子達には、頼れる親戚がいた。
だからこそ祝福を与えて別れたのだが、この子達には戻る場所も、身を寄せる親戚もいないのだ。
「どうしたらいいのかしら?」
隣にいるラウルに相談する。
「聖女の噂も充分に広がっただろう。昨日のような輩も増えてきた。そろそろ一か所に留まるべきかもしれないな」
侍女やサリア達はもちろん、もしかしたら兄もミラの行方を探しているのかもしれない。それに貴族達の勧誘や、ミラをエイタス王国の王女と知り、近付こうとする者も多くなってきた。
ここは彼の言うように、拠点を決めて仲間達と合流できるまで、守りを固くするべきなのかもしれない。
「だとしたら、どこがいいかしら。ここから近くて、人があまり近寄らなくて、生活できそうな場所は……」
ふと思いついたのは、子ども達が住んでいたという町だ。
あの町を襲った魔物はすべて殲滅し、瘴気も浄化したので、もう危険はない。魔物によって破壊された場所も多いが、もともと町だったので、山で野営するよりは暮らしやすいはずだ。
町が壊滅したという噂も広まっているので、人が近寄ることもないだろう。
「この子達が住んでいたあの町を、拠点にすることはできないかしら?」
そう思って提案すると、ラウルは少し考え込む。
「場所としては悪くない。エイタス王国の国境も近い。だが、子ども達をすぐに連れて行くことはできないな」
「怪我をしている子は、いないみたいだけれど……」
もう少し休ませたほうがいいだろうか。
そんなことを思って首を傾げたミラに、ラウルは少し言いにくそうに告げた。
「魔物は瘴気を浄化されて消えたが、魔物によって殺されてしまった人は、そのまま町に残されている。そんなところに、子ども達を連れていくわけにはいかない」
「あ……」
魔物によって殺されてしまった人の遺体が、町にはそのまま残されているのだ。
そのことに思い当たらなかったミラは、それを恥じるように俯いた。
「……ごめんなさい。配慮が足りなかったわ」
「いや、謝ることではない」
ラウルは落ち込むミラを慰めるように優しく言うと、立ち上がって周囲を見渡した。
「この辺りに結界を張って、誰も近付けないようにすることは可能か?」
「ええ。魔物も人も寄せ付けない結界を張るわ」
「だったら三日……。いや、二日でいい。ここで、子ども達を守っていて欲しい」
「え?」
子ども達を結界の中に残して、ふたりで町に行こうと思っていたミラは、彼の言葉に驚いて声を上げた。
「私も一緒に……」
「いや、こんな山の中に置き去りにされたら、子ども達が不安に思うだろう。それに、魔物に殺された人の遺体は無残なものだ。お前には見せたくない」
「……でも」
「俺なら大丈夫だ。一度、経験している」
ラウルはミラを安心させようとして、そう言ったのかもしれない。
でも、彼がそんな経験をしていたという事実に、胸が痛くなる。
「私も行くわ」
「ミラ? だが、子ども達は……」
「食料はたくさん置いておくし、必ず迎えに来るって約束する。絶対に、あなたをひとりで行かせたりしないわ」
それに、ミラは聖女なのだ。
犠牲になった人達のために、祈りを捧げたい。
そう言うと、さすがにラウルも、強く反対するようなことはできないようだ。
それでも子ども達が優先なのは譲れないようで、子ども達だけで待っていることができるのなら、一緒に行く。
そうすることに決まった。




