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【書籍化・コミカライズ】偽聖女!? ミラの冒険譚 ~追放されましたが、実は最強なのでセカンドライフを楽しみます!~  作者: 櫻井みこと
第一部

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「駄目よ。自分の分は、きちんと払います。……後で」

 今までどんなに深窓の姫であっても、町どころか森の中に泊まるような生活を続けていれば、嫌でも変わる。

 そんな会話をしたことを思い出しながら、ミラがその部屋に戻ると、先にラウルが戻っていた。

彼も男性側の共同浴場に行っていたらしく、紅い髪がまだ少し濡れている。

「夕食を買ってきた」

 彼はミラの姿を見てそう言うと、テーブルの上を指した。

 町には多くの屋台が出ていたので、そこで買ってきてくれたらしい。

 ここには冒険者組合の支部があり、まだ残っている冒険者が多いようだ。そのため、魔物による被害は最小に抑えられている。

 だからこそ人が集まり、活気が出ているのだろう。

 テーブルの上にも、パンや新鮮な果物、サラダ。スープや焼いた肉などが並べられている。

「お姫様の口に合うかどうかはわからないが……」

「ううん、何でも食べられるわ。ありがとう」

 新鮮な野菜や果物が、何よりも嬉しかった。

 マナーをあまり気にせずに、好きなものを食べることができるのも、しあわせだ。パンに野菜と肉を挟んで、嬉しそうに食べるミラの姿を見て、ラウルは少し呆れたように笑う。

「世間知らずのお姫様だとばかり思っていたが、適応力はたいしたものだな」

「あなたのお陰だわ」

 ミラはそう言って笑う。

 逃亡生活の中では、不安ばかりだった。

 侍女やサリアに守られるだけで、これからどうなるかまったくわからずに狼狽えていた。

 ミラにできることは、なるべく目立たずに、守ってくれる彼女達の負担を最小限にすることだけだ。

 でも今は明確な目標があり、聖女の力を使うことができる。

「聖女としての誇りを取り戻すことができた。だから、強くなれたの」

 これからどうなるのか、まったくわからない。

 でも、できることを精一杯やるだけだ。

 夕食を終えたあと、それぞれの寝室に向かう。

 それほど広くないが、ひとりになるのは随分と久しぶりだ。

 ミラは寝台に横たわって、手足を伸ばす。

「うーん」

 思わず声が出てしまうくらい、気持ちが良い。

 もし侍女が一緒にいたら、はしたないと注意されてしまうかもしれない。

(みんな、無事だよね。心配しているかな。……ごめんなさい)

 崖から滑り落ちて行方不明になってしまった主を、心配していないはずがない。まして、周囲には兵士達がうろついていたのだ。

 兄にも、一度連絡を入れただけだ。

 一刻も早く、無事だということを伝えたい。それには、聖女としての名を上げるしかない。

「もう一度、この国のために力を使うなんて思わなかったけれど……」

 何度か探ってみたが、新しい聖女らしき魔力を感じることはできなかった。もし、彼女が聖女として力を使ったのなら、その魔力の残滓を感じ取ることができるはずだ。それがまったくない。

 新しい聖女は、ミラが思っていたよりもずっと、力が弱いのかもしれない。

(もしかしたら、この国の瘴気が強すぎるのかもしれない。そのせいで、ますます力が弱っている可能性があるわね。でも……)

 アーサーは、それを想定していなかったに違いない。

 自分の思い通りにならないことに苛立ち、それを力の弱い聖女のせいだと決めつけて、彼女を責めるような真似をしていないだろうか。

 会ったことはないし、ミラが追い出されるきっかけにもなった新しい聖女だ。

 それでも、自分ではどうにもならないことでアーサーに罵倒されているかと思うと気の毒になってしまう。

 もし姉が傍にいれば、お人好し過ぎると呆れられたかもしれない。

 でも彼女が何もしていないのなら、ミラがいくら力を使おうとも、新しい聖女の力の邪魔をすることはない。

「うん、もう遠慮せずに使うわ。早く、みんなと合流したいもの」

 そう決意したところで、ふいに階下が騒がしくなった。

 悲鳴や、叫び声が聞こえる。

 何があったのだろう。

 上着を羽織って寝室から出ると、ちょうどラウルも自分の部屋から出てきたところだった。

「様子を見て来る。俺が出たら、すぐに鍵を閉めろ」

「……うん」

 ラウルはそう言うと、すぐに部屋を出て行った。

 残されたミラは気配を探ってみたが、どうやら魔物が出没したわけではなさそうだ。

 複数の人間が争っている気配を感じる。

 人間同士の争いなら、ミラにできることは何もない。

 おとなしく鍵を閉めて、ラウルの帰りを待つことにした。

 そのうち外からも、怒鳴り声のようなものが聞こえてきた。

 窓からそっと覗いて見ると、もともとは冒険者であったと思われるならず者が、複数で宿を襲ったらしい。

 この国の治安も、かなり悪化しているようだ。

 今さらながら、ラウルが傍にいてくれて本当によかったと思う。

 魔物を退ける力を持っていても、あのような人達に襲われてしまったらなす術がない。


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