40 滅びの国Ⅸ
妹がいないのなら、こんな所に用はない。
エイタス王国の国王リロイドは、そう言い捨てて王城を立ち去った。
その迫力に、アーサーは彼の姿が見えなくなるまで、息を吸うことすら忘れていた。
(何ということだ……)
リロイドは三人の妹を溺愛している。
それは、アーサーでさえ知っていた。
その中でも一番末の妹姫は、二人の姉にも可愛がられていたのだ。
まさか、それがあのミラだったとは。
(知らなかった。そんなこと、聞いたこともなかった……)
アーサーは座り込んだまま、心の中でそう繰り返す。
こうなってしまったのは、父王がアーサーに何も言わなかったのが、すべての元凶である。
アーサーも、ミラがあのエイタス王国の王妹だと知っていたら、たとえこの国に聖女が誕生したとしても、このような扱いはしなかったのだ。
だが、そんな言い訳ですら聞いてもらえなかった。
これでもう二度と、エイタス王国がこの国のために力を貸すことはない。
たとえこの国がリーダイ王国のように魔物に滅ぼされようと、静観するだけだろう。
「わ、私は知らなかったわ」
甲高い声でそう叫んだのは、ロイダラス王国の聖女マリーレだ。
「偽聖女だと言われたから、そう信じていただけよ。まさか、本物の聖女様だったなんて……」
「黙れ!」
その声が癇に障って、アーサーは手を上げた。
ミラを追放したときのように突き飛ばすと、マリーレは悲鳴を上げて倒れ伏した。
「お前が余計なことを言わなければ、こんなことには!」
すべてはマリーレが、偽聖女の話をリロイドにしてしまったせいだ。
そうでなければ、ミラがエイタス王国の王妹だと知ったあと、ひそかに彼女を捜索することもできたのだ。
ミラは、間違いなく聖女の力を持っていた。
その力はとても強く、大神官も偽聖女だと発表しろと言った王命を拒否したほどだ。
その上、大国であるエイダス王国の王妹であった。
あのリロイド国王の義弟になることができていたら、この国は末永く安泰だったのに。
まだ、挽回する機会はあった。
アーサーはそう信じていた。
マリーレが、彼の目の前で偽聖女の話さえしなければ、打つ手はあったのだ。
(とことん、使えない女だ……)
聖女など、名ばかり。
力を使うこともできず、アーサーの言葉には逆らってばかり。
それに、些細なことだと目を瞑っていたが、その出自には少しばかり怪しいところもある。
いっそのこと彼女の方を偽聖女として厳しく罰し、すべての罪状を押しつけてしまえば、ミラとの復縁も望めるのではないか。
(一度は婚約していたくらいだ。すべてこの女に騙されてしまっていたと謝れば、あるいは……)
もちろん、父に何も聞いていなかったことを強調することも忘れずに。
「衛兵!」
アーサーは大声で衛兵を呼ぶと、彼らに命じた。
「この女を拘束しろ。地下牢にでも放り込んでおけ!」
「そんな! アーサー様、私は聖女なのに!」
マリーレの抗議に、アーサーは冷酷な眼差しを向ける。
「満足に力を使うこともできないくせに、何が聖女だ。すぐにディアロ伯爵も捕らえろ。反逆罪だ」
「いやああっ」
悲鳴を上げて逃げ出そうとしたマリーレだったが、すぐに衛兵たちに取り押さえられた。泣き叫ぶ彼女に背を向けて、アーサーは部屋を出た。
マリーレとその義父であるディアロ伯爵を、聖女を騙った偽物だと厳しく処罰しなければならない。




