表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化・コミカライズ】偽聖女!? ミラの冒険譚 ~追放されましたが、実は最強なのでセカンドライフを楽しみます!~  作者: 櫻井みこと
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/121

35

 窓から見えるのは、生い茂った木の葉だ。

 その木の大きさから考えると、ここはラウルが言っていた、森の中にある村なのだろう。

 見上げる空は思っていたよりもずっと近く、小鳥の囀りが聞こえてきた。

(……ラウルは?)

 ベッドの上で目が覚めたミラは、視線を左右に動かした。 

 体力の限界まで、魔法を使ってしまったようだ。

 魔力にはまだ余力がある。それなのに、体力が持たずに使い切れなかったのが悔しい。ラウルの傷も、おそらく癒しきれていなかったはずだ。

 彼の姿を探して、ミラはゆっくりと身体を起こす。

 頭痛が酷くて、眩暈がした。

 木造の小さな家で、部屋もそう広くはない。そんな部屋の片隅に長椅子が置いてあり、彼はそこで眠っていた。

 ミラよりも遥かに背の高いラウルが、広いベッドにミラを寝かせて、自分はこんなに狭いところで眠っていたのだろう。

(本当に、優しい人……)

 その身体にはいくつかの傷が残っている。

 やはり癒しきれていなかったようだ。

 もっと早く聖女であることを打ち明けていれば、彼が傷つくこともなかった。

「ごめんなさい」

 ぽつりと呟いて、彼の傷を癒そうとした。

「駄目だ」

 でもそれは、いつのまにか目が覚めていたらしいラウルに止められてしまう。

「ラウル? でも……」

「まだ起き上がるな。体力が回復していない。魔法を使うのも、当分禁止だ」

 そう言うと、彼はミラをやすやすと抱き上げて、ベッドの上に運んでしまう。

「待って、せめてあなたの怪我だけでも」

「必要ない。これくらい、放って置けばそのうち治る」

「でも……」

 もしかして、ラウルは自分に癒してもらうのが嫌なのではないか。

 聖女だと黙っていたことを、怒っているのではないか。

 そう思うと、涙が滲みそうになる。

 たとえ小さな傷でも、それによって動きがいつもと異なる。

 過酷な戦場では、それが命取りになってしまうことがあるのだと、兄がよく言っていた。だから、ふたりの姉もミラも、兄が僅かでも傷を負うと、すぐに癒すようにしていた。

 これくらいなら大丈夫だと兄は笑っていたが、国や家族を守るために、常に最前線で戦う兄のためだ。できることがあれば、何でもしたいと思っていた。

 ラウルだって、瘴気の浄化によって弱体化していたとはいえ、あれだけの魔物を倒したのだ。ミラよりも頑丈とはいえ、体力もかなり消耗しただろう。せめて、身体だけは万全にしていてほしい。

「私の魔法が嫌だったら、他の人に……」

 震える声でそう言うと、ラウルは驚いたようにミラを見た。

「どうしてそんなことを思った?」

「だって、私は聖女だから。それなのに、ずっとそのことを黙っていたわ。だから、怒っているのかと思って」

 ミラの言葉を遮るように、ラウルは手を伸ばしてその髪を撫でる。

「……ラウル?」

 その手つきはとても優しくて、それだけで彼が怒っているわけではないとわかるくらいだ。

「悪かったな。俺が最初にあんなことを言ったせいで、言い出しにくかったんだろう?」

 当然、その言葉も、ミラを拒絶するものではなかった。

 今度こそ涙を堪えることができなくて、ミラは俯いた。でも先ほどと違い、これは安堵の涙だ。

「わたしのほうこそ、ずっと黙っていてごめんなさい。ちゃんと言わなくてはと何度も思ったのに、あなたに嫌われてしまうのが怖くて……」

 ここで泣いてもラウルを困らせるだけだとわかっているのに、なかなか止まらない。

「……本当に、ごめんなさい」

「気にするな。今はゆっくりと休め」

「でも、ラウルの怪我を……」

 怒っていないのなら、癒させてほしい。そう訴えると、ラウルは困ったように笑う。

「俺の祖国では聖女はもちろん、治癒魔導師もほとんどいなかった。だから、このくらいの怪我なら自然治癒に任せるのが普通だった。それに、今の状態で魔法を使うのは、お前の身体の回復を遅らせてしまう」

 リーダイ王国は魔導師そのものが少なかったと、ラウルは言った。

「体力が回復すれば、遠慮なく癒してもらう。だから、もう少し寝ろ」

「……うん」

 ラウルの言葉に、ミラはおとなしく目を閉じた。

 彼の言うように、体力はまだ回復していなかったのだろう。安心した途端に、また頭痛が酷くなる。本当に、少し眠ったほうがよさそうだ。

 次に目が覚めたら、絶対にラウルの傷を治療させてもらおう。そう思いながら、眠りに落ちていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ