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【書籍化・コミカライズ】偽聖女!? ミラの冒険譚 ~追放されましたが、実は最強なのでセカンドライフを楽しみます!~  作者: 櫻井みこと
第一部

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 かなりひどい怪我をしていたが、ミラの力ならば問題なく癒せるだろう。

 ミラは目を閉じて、回復魔法を使う。

 たちまち傷は癒え、彼らは呆然と立ち尽くした。

「……これは、いったい……」

「動けるようになったらさっと逃げろ!」

 小型ドラゴンの攻撃を大剣で防ぎながら、ラウルが叫ぶ。

「これ一匹ならどうにかなるが、群れが来たら終わりだ」

 その言葉にはっとして、ミラは空を見上げた。

 あの町の上空には、今ラウルが戦っている魔物と同じ種類の魔物が、まだ十匹近くもいる。あれがすべてこちらに向かってきたら、大変なことになるだろう。

 呆然と空を上げた冒険者達は、悲鳴を上げながら逃げていく。

 だがその悲鳴が、魔物を刺激してしまった。

「チッ」

 悲鳴に反応したドラゴンが、さらに二、三匹、こちらに向かってきた。ラウルは舌打ちすると大剣を構え直し、ミラに叫ぶ。

「お前も早く逃げろ!」

「でも……」

 聖女の力で瘴気を浄化すれば、魔物はかなり弱体化する。ラウルなら、数匹くらいなら楽に倒せるだろう。

 でも力を使えば、ラウルに聖女であることを知られてしまう。

 それを黙っていたことに怒って、もう一緒に旅をしてくれないかもしれない。

(……どうしよう)

 ミラが助けた冒険者達は皆、逃げてしまってこの場にいない。もし聖女の力を使っても、知るのはラウルだけだ。

 それなのに、動けなかった。

 ひとりになった困るということ以上に、ラウルに嫌われたくないと思っている自分に気が付いて、呆然としてしまう。

(どうして、私は……)

「ミラ、危ない!」

 庇うように抱き締められて、はっとする。

 今は戦闘中で、魔物が次々に迫っている状況なのに。

(こんなときに、考えごとをしてしまうなんて)

 謝ろうとして顔を上げる。するとミラを庇ったラウルの肩が、魔物の攻撃によって傷ついているのが見えた。

「ラウル、怪我を……」

「魔物の爪が引っ掛かっただけだ。気にするな。戦っていれば、これくらいよくあることだ」

 そう言うと彼は、傷ついた腕で大剣を構える。

「いいから早く逃げろ。街道から左側にある森の奥に、小さな村がある。そこに迎え」

 ラウルはそう言うと、もう振り返ることなく魔物に向かって行く。

(私のせいで……)

 ミラは一度だけ目を瞑って、覚悟を決める。

 迷いを捨て去って、ラウルの後に続いた。まずは治癒魔法で、ラウルの傷を完璧に癒す。

「お前……」

「瘴気を浄化するわ。魔物は弱体化するから、きっと倒せるはず」

「わかった」

 ラウルが驚きを見せたのは、ほんの一瞬だけだった。すぐに戦闘態勢に戻る。ミラの聖魔法によってドラゴンは弱体化し、ただのトカゲ型の魔物になった。ラウルは間髪入れずにすべて切り捨てる。

 だが。

 最後の一匹を倒した瞬間、町の方から凄まじい声が聞こえてきた。

 魔物の叫び声だ。

 ラウルは剣を構えたまま、ミラを庇う。

「今のは……」

「戦闘が長引いたせいで、気付かれた。町を襲っていた魔物が、こっちに向かってくるぞ」

 その数は、十や二十ではない。

 だが迷っている暇も、逃げる暇もなかった。

 ミラは次々とこちらに向かってきた魔物に対して、魔法を使う。そうして、弱体化した魔物をラウルが倒していく。

 魔物の群れは次々と押し寄せ、息をつく暇もない。

 徐々に魔物の数は減ってきたが、ラウルも手傷を負うことが多くなってきた。ミラはすぐに傷ついたラウルを癒そうとしたが、彼はそれを拒絶する。

「俺のことは構うな。魔物に集中しろ!」

「でも……」

「お前の魔力にはまだ余裕があったとしても、体力が持たない。魔物の殲滅が優先だ。また来るぞ!」

 押し寄せる魔物の瘴気を、浄化し続ける。

 どれくらいの時間が経過しているのか、もうわからなかった。

 やがて返り血と傷からの出血で血塗れになったラウルが、最後の魔物を切り捨てる。それを見届けた瞬間、意識が遠のいた。

「……よく頑張ったな」

 地面に倒れる瞬間に抱き止められ、労わるような優しい言葉が聞こえてきた。

「少し、休んでもいい?」

「ああ。あとは任せろ」

 ミラはゆっくりと目を閉じて、ラウルに身を委ねた。

 そっと抱き上げられる気配がする。そのままミラの意識は薄れていった。


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