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ラウルが調べたところ、ミラの部屋を襲撃したのは、やはりあのとき会った女魔導師だったようだ。
最初は知らないと言い張っていたようだが、ラウルが詰問するとすぐに白状したらしい。
彼女は、ラウルが連れていたミラのことが、どうしても気になってしまったらしい。彼が帰ったあとに訪ねてみたが、どんなに扉を叩いても返事がなく、かっとなって魔法を使ってしまったようだ。
「結界が、張ってあって。あまりにも強靭な結界で、私にはどうしようもなかったわ。とても敵う相手じゃないとわかったから、逃げたのよ」
彼女はそう言っていたらしい。
そこまでするなんて、よほど親しい間柄だったのだろうとミラは思っていた。でもラウルが言うには、昔、相棒になってほしいと言われて断っただけのようだ。自分を相手にしなかったラウルが、少女のような年齢の魔導師を連れているのを見て、文句のひとつでも言ってやろうと思った。
それが、彼女の言い分だった。
「どうする? 不法侵入、もしくは強盗未遂で訴えるか」
「そんな!」
冷たい声でそう言ったラウルに、女魔導師は悲鳴を上げる。
「ごめんなさい。もう二度と、あなた達には近寄らないわ。だから、許して」
まさか、魔力を辿れるようなすごい魔導師だとは思わなかった。そんな魔導師が実在するなんて思わなかった。そう言われて、ミラは慌てて彼女の言葉を遮る。
「私は、鍵さえ弁償してくれたら、それでいいから」
やはり魔力を辿るような行為も、簡単にできることではないようだ。
今度から気を付けようと思いつつ、要求は鍵の弁償だけだと強調する。扉をすべて交換しなくてはならないので、かなり高額になるようだが、最初のラウルの脅しが効いたらしく、彼女はすぐに同意した。
「ええ、もちろん。壊してしまったのは私だもの」
こうして一連の事件は無事に解決して、ミラとラウルは宿を引き払い、町に出た。
しっかりとした街道を歩くのも、随分と久しぶりだ。
王城を追い出されたばかりの頃は、こんな道でも歩くことに苦労していたのに、今では山道よりもずっと歩きやすいことに感動すらしている。
周囲に人は多いが、ほとんどが冒険者のようで、剣士と魔導師の姿をしているふたりが変に目立つこともない。
それぞれのペースで歩いているが、周囲の話し声が意外と良く聞こえることに驚いた。
(やっぱり、この国を出ようとしている人が多いのね)
魔物が多く出るようになれば、仕事も増える。
腕に覚えのある冒険者ならば稼ぎ時ではないかと思うのだが、どうやらそう簡単ではないらしい。
魔物が増え始めた国は瘴気が強くなり、普段よりも何倍も強くなる。
それなのに、討伐したあとの報酬は変わらない。
同じ報酬で魔物を退治するのなら、命懸けで強くなった魔物を倒すよりも、他国で楽に倒したほうがいい。
そう考える者が多いようだ。
報酬を上げるなどして対応する国もあるようだが、残念ながらアーサーにそういう思考はないだろう。
この国は、ゆっくりと滅びようとしている。
ミラは思わず立ち止まり、振り返って町を見つめた。
「どうした?」
ラウルも立ち止まって、そう声を掛けてくれた。
「この町にも、こんなにたくさんの人が住んでいるのに」
「魔物が増え始めた国は、よほどうまく立ち回らない限り、遠くない未来に滅びる」
彼の言葉には、体験した者でしかわからない重みがあった。
「噂を聞く限り、ロイダラス王国の王太子は、あまり有能ではなさそうだ。この事態を乗り切ることは難しい。商人や冒険者達もかなり他国に移動しているようだ」
そういえば、サリア達もそう話していたと思い出す。
転がる石は加速し続けて、もう止まらないのだろう。




