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【書籍化・コミカライズ】偽聖女!? ミラの冒険譚 ~追放されましたが、実は最強なのでセカンドライフを楽しみます!~  作者: 櫻井みこと
第一部

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 一刻も早く、逃げなくてはならない。

 ミラは周囲を見渡す。

 斜面が急すぎて、上に登るのは不可能だ。

 そして、真下は崖である。

 何とか別の方向に行けそうな場所を見つけて、慎重に足を運ぶ。

 前日は雨だったのか、斜面は濡れていて、足場はとても悪い。

 さらに追手の存在に焦っていたため、落ち着いて行動できるような心境ではなかった。

「……あっ」

 そのせいで、地面に張り巡らされた木の根に足を取られて、また転げ落ちそうになる。

「!」

 何度も必死に手を伸ばすも、転がり落ちる勢いは加速するばかりだ。

 もう止まることはできない。

 衝撃を覚悟して、ミラはぎゅっと目を閉じた。

 だが、急にふわりと身体が浮き上がった。

(え?)

 いつのまにか転がり落ちていたはずの身体は停止していて、誰かの腕に抱かれていた。

 片手でミラを支える、逞しさ。

 女性ではないようだから、侍女やサリアではない。だが、バロックでもなさそうだ。もちろん、兄でもない。

(誰?)

 困惑しながらも、足場の悪い山道である。ここで暴れたりしたら、ふたりとも危険だ。それに誰であろうと、転がり落ちてきたミラを助けてくれたことには変わりはない。

「……あの」

 けれど、お礼を言おうとした瞬間、口を塞がれてしまう。驚いて身を捩ろうとしたミラに、彼は囁いた。

「……静かに。近くに兵士がいる。お前を探しているのではないのか?」

「!」

 それは間違いなく、ミラを探していたディアロ伯爵の私兵だろう。

 声を出さないと頷いてみせると、彼は手を離してくれた。

 そのまま無言で、ミラが落ちてきた方向とは違う場所を指す。向こうに移動しろと言っているようだ。

 侍女達が心配しているかもしれないが、ディアロ伯爵の私兵に見つかるわけにはいかない。ミラはしばらく躊躇ったあと、その指示に従うことにした。

 山道を抜けると、彼はそのまま草原に向かった。

 背の高い草の影に身を隠すようにしながら、ミラは助けてくれた男性の後ろに続いて歩き出した。

 彼は全身を覆うようなローブを着ているため、年齢もどんな姿をしているかわからない。だがその身のこなしを見る限り、若い男性のようである。

(あの状況では仕方なかったけれど……)

 正体のわからない人と一緒に歩いていることに、だんだん不安を感じる。

 まして、今はミラひとりだ。

 遠くから、兵士達の怒鳴り声が聞こえてきて、びくりと身体を震わせる。

 彼に助けてもらわなかったら、斜面から滑り落ちて動けなくなっていたところを、あの兵士達に捕えられていたかもしれない。

「……」

 仲間達は無事だろうか。

 あの兵士達の姿に気が付いてすぐにその場を立ち去り、無理にミラを探したりせずに、隠れてくれたことを祈るしかない。

 心配だったが、兵士の数は次第に多くなっている。

 今さら戻るわけにはいかなかった。

 やがて草原を抜けて川のほとりに出ると、男性は周囲を見渡して安全を確認している。

(ここは、どこかしら?)

 斜面を滑り落ちたあと、ここまで歩き続けていたミラはかなり疲労していた。

 でもあの場は選ぶ余裕がなかったために黙ってついてきたが、男性の正体がわからない以上、あまり油断することもできない。

「怪我はなかったか?」

 危険はないと判断したのか、彼は振り返ると、ミラを気遣うようにそう言った。

 想像していたように、若い男性の声だ。

 ローブの合間から、浅黒い肌と鮮やかな紅い髪が見える。

(あの肌の色に紅い髪は……)

 この大陸で紅い髪をした人間が住むのは、かつてリーダイという王国があった土地だけだ。

 魔物の大量発生によって、数年前に滅びてしまった国。

 まるで未来のこの国のようだ。

 彼は、今はもう魔物の住処になっているリーダイ王国から、逃れてきた人なのかもしれない。

「……はい。大丈夫です」

 少し擦り傷と服が汚れた程度で、大きな怪我はしていなかった。

「助けていただいて、ありがとうございました」



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