表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化・コミカライズ】偽聖女!? ミラの冒険譚 ~追放されましたが、実は最強なのでセカンドライフを楽しみます!~  作者: 櫻井みこと
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/121

22 滅びの国Ⅷ

 ふと、空気が変わったような気がした。

 背筋がぞわりとする。

 アーサーは、思わず自分の首に手を置いていた。

(何だ? 何が起こった?)

 咄嗟にリロイドが連れている騎士を見たが、彼らに変化はない。むしろ彼らも動揺しているように見える。

 その様子を見て、ようやく理解した。

 この息苦しいほどの恐ろしさの正体。

 表面上はまったく変化がないが、リロイドはマリーレの言葉に殺気立っている。

 何が彼を、ここまで怒らせてしまったのだろう。

 マリーレがリロイドの言葉に反論したせいだと考えたアーサーは、慌てて彼女を下がらせようとした。

「マリーレ、お前はもう下がれ」

 けれど彼女にしてみれば、自分が役立たずになるかどうかの瀬戸際だ。アーサーの言葉を聞かずに、さらに言葉を続ける。

「その呪いさえなければ、私だって……。今、その罪人の偽聖女をお義父様が追っています。その女さえ捕えることができれば、何とかなりますから」

「マリーレ!」

 命令に従わない彼女に苛立ち、アーサーは声を荒げる。

 けれどリロイドはそんな彼を制するように前に出ると、マリーレに語りかけた。

「その、偽聖女とは?」

 いっそ、優しささえ感じるような穏やかな声。マリーレは、彼が自分の主張を認めてくれたと思ったのかもしれない。

 けれど、アーサーにはもう耐えられなかった。

 震える足で後退しながらも、この場から逃げ出したくなる思いを必死に抑え込む。

「私の前に、この国の聖女だったミラという女です」

「……そうか」

 リロイドはその名を聞くと、笑みを浮かべてマリーレを見つめた。

 獲物を見つけた獣を彷彿させるような姿。

「……っ」

 その肉食動物のような獰猛さに、マリーレはようやく気が付いたようだ。

 瞬時に青ざめ、助けを求めるようにおろおろと周囲を見渡す。

 だが、動ける者はひとりもいなかった。

 彼の護衛騎士さえも硬直してしまっている。

 そんな空気の中、リロイドはゆっくりと視線をアーサーに移した。

「この国を訪問した理由は、妹を探すためだ」

 アーサーはぎこちなく頷いた。

 本当は疑問を投げかけたかったのだが、声を出すこともできずにいた。

 たしか彼には、三人の妹がいる。

 三人とも聖女であり、エイタス王国の王城で大切に守られているはずだ。

 だが今、リロイドは妹を探すために来たと言っていた。

 それは彼の妹が、この国に滞在しているという意味なのだろうか。

 しかしエイタス王国ほどの大国の、王妹であり聖女でもある女性が、このロイダラス王国に滞在しているなどと聞いたこともない。

 それは、何かの間違いではないか。

 何とか気力を振り絞ってそう言おうとしたアーサーに、リロイドはさらに言葉を続ける。

「妹は聖女として、この国を魔物から守る手助けをするために、ロイダラス国王の要請に応じてこの国に渡っている。心配したが、婚約も決まったと聞いて安心していた。だが」

 リロイドは靴音を響かせ、ゆっくりとアーサーの前まで歩いてきた。

「急に婚約を破棄され、追放されたという報告してきた。それからまったく連絡がない。妹は俺と同じ銀色の髪をした、ミラという名だ。聞き覚えはないか?」

「!」 

 アーサーはとうとう立っていることができなくなって、その場に座り込んだ。

「ま、まさか……」

 あのミラが、エイタス王国の王妹だったなんて、アーサーはまったく知らなかった。

 父も、彼女を他国の聖女だと紹介しただけだったのだ。

 だが知らなかったとはいえ、アーサーは彼女を偽聖女だと言って婚約を破棄し、国外に追放した。

 さらに、マリーレに呪いをかけた罪人として、追手までかけたのだ。

 リロイドがここまで怒っていた理由を知り、取り返しのつかない事態になったことを理解したアーサーは、身体の震えを止めることができなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ