表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/121

15

 それは、崖崩れのために通れなくなった迂回路を回って、ようやく正規の道に辿り着いたときのことだった。

 迂回路だった山道は、元々別の方向に向かうためのものだ。

 そこを越えたあと、正規の道に戻るまでいくつかの町を通る必要があり、随分遠回りをしてしまった。

 だがここまで来れば、あとは正規の道を歩いていくだけでいい。

 兄に連絡も取りやすいだろう。

 そう思って安心していた、矢先のことだ。

「ミラ様!」

 すぐ近くにある町に偵察に行っていた、侍女のひとりと護衛のサリアが戻ってきた。ふたりの表情は厳しく、警戒するように周囲を見渡している。

 その只ならぬ様子に、何かあったのだとすぐに察した。

「道を戻りましょう。詳しいお話は、その後に」

「……わかったわ」

 だから、問い返したりせずに素直に従う。

 せっかく歩いて来た道を戻り、人気のないときを見計らって、裏道に入る。それからもしばらく歩き、周囲に誰もいないことを確認すると、ようやく足を止めた。

「ミラ様、事情を説明もせずに連れ出してしまい、申し訳ございません」

「いいの。何かあったのでしょう?」

 もうすぐ兄と連絡が取れると安心していた。

 町の前まで来ていたこともあり、今日は宿で休めると安心していただけに、いつもよりも疲労を感じてしまっている。

 でもそれをまったく顔に出さずに、ミラは侍女の言葉を促した。

「はい。実は……」

 侍女の話は、ミラの想像以上だった。

 予想していたように、町にも魔物が出るようになった。

 だが、瘴気で力を増した魔物に騎士団ですら苦戦し、討伐がまったく追いついていない状態らしい。

 冒険者に依頼もしているらしいが、サリアたちのように、この国を離れる者も多くなっている。

 頼りの聖女は力をうまく使いこなせず、焦ったアーサーは、聖女が力を封じられていると発表したようだ。

 封じられているというのは、ある意味正しいのかもしれない。

 まだ聖女に目覚めたばかりのマリーレの力はとても弱く、魔物の瘴気に負けてしまっているのだ。その状態で聖女の力を使おうとすると、抑え込まれているような感覚を覚えてしまう。

 マリーレは、聖女のいない国に何十年かぶりに生まれた聖女だ。

 その力は、もともとあまり強くはない。

 さらに、ミラが結界を解除したこともあり、魔物の瘴気が強くなっている。

 だが、アーサーはそれを偽聖女がマリーレに呪いを掛けたせいだと発表した。

 おそらく、国民の不満を逸らすために。

 王族や新しい聖女に向けられる非難をすべて、偽聖女に向けさせた。

(偽聖女……。つまり、私のことよね)

 追放して偽物の汚名を着せただけではなく、今度は冤罪まで被せようとしてきたようだ。

 ミラは平気なふりをすることも忘れて、思わず溜息をついた。

 さらにアーサーは自分で国外追放したミラを、凶悪犯罪者として指名手配したようだ。

 長い白銀の髪を魔法でブラウンに変えているとはいえ、今の状況で町に立ち寄るにはリスクが高い。

 これからは町に入ることはできず、兄に連絡をすることもできない。

 ひたすら人目を避けて、国境を目指すしかないのだ。

 一時は王太子であるアーサーの婚約者として、この国を守るために精一杯、聖女の力を使ってきた。それなのに、さすがにアーサーの仕打ちは酷すぎる。

(……嘆いていても、状況は変わらない。頑張るしかないわね)

 ミラは気持ちを入れ替えるように、首を振る。

 心配なのは、妹と連絡が取れなくなった兄が暴走すること。

 ミラが受けた仕打ちを知れば、兄は絶対にこの国を許さないだろう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ