14 滅びの国Ⅴ
ロイダラス王国の不運は、それだけでは終わらなかった。
それから数日後。
アーサーは苛々と部屋の中を歩き回っていた。
あれから魔物の被害は、ますます多くなっている。
騎士団だけではもう対応できず、冒険者たちに魔物退治を依頼させているが、ほとんど成果が上がっていない。
彼らが言うには、魔物が以前と比べものにならないくらい強くなっているらしい。
さらにベテランの冒険者が、不吉な言葉を残してこの国を去ったようだ。
国が滅ぶとき、魔物が急に強さを増すことがある。
それを聞いて、国を出ていく冒険者が急増したようだ。
そのせいで、事態はさらに悪くなっている。
「縁起でもないことを……」
アーサーはその冒険者を探して罰しようとしたが、もう国外に逃亡しているようで、行方を掴めない。
さらに聖女のマリーレも、毎日のように無駄に祈りを捧げているだけで、まったく役に立たなかった。
神殿の改装は、もちろん中止している。
大神官は聖女を惑わせた罪で、地下牢に放り込んでおいた。
マリーレが正しく力を使えるようになったら出してやると言ったが、それまで生きているかどうかは知らない。
もうどうでもいい存在だ。
アーサーは神殿に向かうと、乱暴に扉を開いた。
中途半端に改装してしまったせいで、以前よりもみすぼらしくなっている。その神殿で必死に祈りを捧げていたマリーレは、アーサーの姿を見てびくりと身体を震わせた。
「お、王太子殿下……」
媚びるような笑みを浮かべて、マリーレは立ち上がった。
「まったく効果は出ていないようだな」
「……いえ、あの」
マリーレは言葉を探すように、視線をせわしなく左右に動かした。
「私の中に、力があることはわかるのです。ただそれを、うまく引き出すことができなくて……」
そう言うと、縋るようにアーサーを見つめた。
「誰かに力を抑え込まれているような。そんな感覚になるのです」
「何だと?」
アーサーは険しい顔をして、マリーレを見た。
彼女に聖女としての力があるのなら、さっさとそれを使わせたいところだ。
だが、マリーレは誰かに力を抑え込まれていると言う。
「……追放されたという偽聖女の穢れだと思うのです」
マリーレは両手を胸の前で組み合わせながら、アーサーを見上げる。
「私も、聖女としての役目を果たしたいと思っています。ですが、力を抑え込まれてしまっているので、どうしようもできません。どうか、その偽聖女を討伐してくださいませ」
「……ミラを、か」
アーサーは追放した聖女の名を呼んで、考え込む。
マリーレには伝えていないが、ミラは偽聖女ではない。
たしかに聖女としての力を持っていた。
追放した以前の大神官もそれを認めていて、だからこそ彼女を偽物だと証言することを拒んだのだ。
だが追放されたことを恨み、自分の後釜に収まったマリーレの力を、その強い力で封じ込めたのかもしれない。
ミラを偽聖女として捕え、今のこの国の状況をすべて彼女のせいにしてしまえば、国民たちの王家や新しい聖女に対する不満はなくなるだろう。
さらに、マリーレが聖女としての力を使えるようになる可能性がある。
「お前が力を使えないのは、ミラのせいなのだな?」
確認するように問えば、彼女は狼狽えたあと、それでもしっかりと頷いた。
「……はい。その通りです」
彼女のその言葉が、ロイダラス王国をさらに追い詰め、破滅への道を歩ませる原因となった。
「……わかった。引き続き、ここで祈っていろ。お前の力を封印している偽聖女は、必ず捕らえる」