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【書籍化・コミカライズ】偽聖女!? ミラの冒険譚 ~追放されましたが、実は最強なのでセカンドライフを楽しみます!~  作者: 櫻井みこと
第二部

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2-37

 神殿は数年前に改装したらしく、とても綺麗な建物だった。

 それなのに、なぜかまた改装工事をしていたらしい。それも途中で放棄されたらしく、あの美しかった建物がひどい有様になっていた。

 それでも聖女のための祈りの間だけは、元の姿を保っているようだ。

 その中では、ひとりのシスターを従えたオーリアが、こちらの到着を待っていた。

 彼女はミラ達を迎え入れると、深々と頭を下げる。

「お初にお目にかかります。わたくしはグリーソン公爵家の娘、オーリアと申します」

 そう名乗ると、わざわざここまで出向いてもらったことを詫びる。

 ようやく対面できたオーリアは、同じ黒髪でも、エリアーノとはまったく違う雰囲気の女性だった。

 深窓の令嬢のように清楚で美しく、儚げな容貌である。ミラがこの神殿で着ていた聖女の服と、似たようなものを着ていた。

 こちらに向けられた、澄んだ青い瞳が、僅かに怯えを含んでいた。

 何回も面会を希望してしまったので、怖がらせてしまったのかもしれない。

 そう思ったが、彼女の瞳は隣にいる兄の様子を伺っている。

(ああ、またお兄様……)

 きっと怖がらせてしまったのだろう。

 ミラは、彼女の緊張をほぐすように笑顔を浮かべる。

「突然訪ねてきて、ごめんなさい。ずっとあなたを探していたから、無事だったのか心配だったの」

 公式な訪問ではないと伝えるために、わざと砕けた口調で話しかけた。それなのに彼女は、ますます畏まって頭を下げた。

「ロリヤが差し出がましい真似をしてしまったと聞いております。まさか、エイタス王国の王妹殿下のお手を煩わせるとは思わず、わたくしも軽率でした。申し訳ございません」

 ロリヤとは、オーリアの探索をミラに依頼した、あの侍女の名のようだ。

「いいの。私達が勝手にしたことだから」

 慌ててそう答えたが、オーリアは頭を下げたままだ。このままでは埒が明かない。 

「お兄様」

 ミラは視線を兄に向けた。

「ゆっくり話したいから、お兄様は先に部屋に戻っていて」

「ミラ、何を言って……」

「ほら、お兄様にはしっかりと休んで回復してもらわないと、私達はいつまでも国に帰れないわ」

 兄の背を押しながらそう言う。何か考えがあるとわかったのか、兄はあっさり引き下がった。

「わかった。だがラウルは置いていく。ラウル、ミラを頼む」

「承知した」

 そうして、そのまま祈りの間を出ていく。

(ごめんなさい、お兄様。彼女に会わせてほしいと頼み込んだのは私なのに)

 勝手なことを言っているとわかっているが、兄がいると話もできないようだ。現に兄の姿が消えると、オーリアはあきらかにほっとした様子だった。だが緊張の糸が切れたのか、その華奢な身体がふらりと倒れる。

「!」

 崩れ落ちる寸前に、ラウルが彼女を支えた。

「ラウル」

 ミラも慌てて駆け寄る。

「も、申し訳ございません……」

 意識は失っていなかったらしく、オーリアは消え入りそうな小さな声で謝罪した。彼女に付き添っていたシスターが、泣き出しそうな顔をして狼狽えている。

「魔力の使いすぎだ」

 ラウルはそう呟くと、ちらりとミラを見た。

「何度も見たことがある」

「……ご、ごめんなさい」

 冷えた手足に、蒼白になった顔。自分もこんな状態だったのかと、ミラは思わず謝罪の言葉を口にした。これではラウルが、兄のように過保護になってしまうのも無理はない。

 まだ青い顔をしたオーリアを、ラウルに頼んで神殿にある彼女の寝所まで運んでもらう。

「エイタス王国の、ミラ王妹殿下」

「ミラでいいわ。結界に力を使いすぎている。少し、休んだ方がいいわ」

「ですが、魔物が増えているのです。結界を維持しなければ、王都はまた魔物に……」

 オーリアは王都を、この国を守るために心も身体も限界まで消費している。力の源はどうあれ、彼女の心は立派な聖女だ。

 だからこそ、そんなオーリアを利用しているエリアーノが許せない。

 このままでは、オーリアはエリアーノの思惑通り、魔力を消費し続けてしまう。

(どうしたらいいのかしら……)

 彼女を休ませるには、変わりにミラが結界を張るしかない。でもミラは、兄から結界を張ることを禁止されている。

「お兄様だって、事情を話せばわかってくれるはず。あなたが休んでいる間、私が結界を張れば……」

「いいえ!」

 ぐったりと横たわっていたはずのオーリアが、無理やり起き上がろうとした。慌てて傍仕えのシスターとミラが制する。

「駄目よ。まだ休んでいなくては」

「いいえ。これ以上、エイタス王国の方のお手を煩わせるわけにはいきません」

 オーリアは激しく首を振り、縋るようにミラを見つめる。

「それに、王妹殿下が王都を後にしたとき、結界を解除したのは次の聖女のためだと聞いております。王妹殿下のお力が強く、結界が残っていては、他の聖女が上手く力を使えない。そして、長い間聖女が途絶えていた国に生まれた聖女は、とても力が弱いことも」

「それは……」

 ミラからしてみれば、オーリアの力は聖女のものではない。だがミラが結界を張ったあと、オーリアが元通りの力を使えるという保障はない。

 むしろオーリアの力がエリアーノの、魔物由来のものだとしたら、確実に使えなくなるだろう。

 彼女にこれ以上力を使わせたくない。でもそれが、ミラのせいになってしまったら、またややこしいことになる。


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