表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

101/121

2-28

 魔物退治に明け暮れながら、町を周り、目的地である港町を目指して進んでいく。

 魔物の数は多かったが、さすがにあのドラゴンほどの大物はいない。

 ラウルひとりでも十分だったので、ミラは瘴気の浄化に専念することにした。

 旅は順調だ。

だが、気にかかることがある。

「……魔物はそれほど強くないのに、どうしてこんなに瘴気が強いのかしら」

 あのドラゴンがいた地域以上に、ここは瘴気に満ちている。何度浄化しても、清浄な空気に戻らないことに、焦燥を抱く。

「ミラ、どうした?」

 魔物退治を終えたラウルが戻ってきて、ミラの様子を見て顔を顰める。

「ラウル」

 不安になって、彼の腕に掴まった。

「気を付けて。何だか嫌な予感がするの」

「わかった。ここからは慎重に進もう」

 二人は歩くスピードを落とし、警戒しながらゆっくり進むことにした。

 夜も結界を張った上に、ラウルが遅くまで見張りをしてくれる。

 けれど魔物は相変わらず数が多いだけで、それほど強くはない。

 こんな状況は初めてで、どう対応したらよいのかわからず戸惑う。

「ラウル、どうしよう……」

「大丈夫だ。警戒は解かずに、ゆっくり進んでいこう」

「うん」

 落ち着いた彼の様子に、不安が消えていく。何があっても、ラウルと一緒ならきっと大丈夫。そう思うことができた。


 こうして、二人はようやく港町までたどり着いた。

 大きな街だった。

 けれど今まで立ち寄ったどの場所よりも破壊が激しく、大通りがあったはずのところは、ほとんど更地になってしまっていた。

 港にはたくさんの船があったようだが、すべて沈められ、その残骸が無惨に浮かんでいる。

 この街の中央には、大きな屋敷がある。グリーソン公爵家の持ち物のようだ。公爵は、そこに娘がいるかもしれない、と言っていたようだ。それに、王城のようにその大きな屋敷に人々が避難しているかもしれない。

 そう思って向かってみたが、屋敷は徹底的に破壊され、まるで竜巻に襲われたかのような瓦礫の山があるだけだ。

「屋敷にある物は自由に使って、避難した人達を助けてほしいと言われたが、これでは無理だな」

 周囲を見渡したラウルがそう呟く。

「ひどい。これでは、生き残りの人なんて……」

 あまりにも慎重に進みすぎたせいで、間に合わなかったのではないか。

 そう思って青ざめるミラに、ラウルは言った。

「いや、この瓦礫は新しいものではない。おそらく王都崩壊と同じ頃に破壊されたのだろう。だとしたら、どこかに生き残りがいるはずだ」

 そうして、街中を探し始めた。

 気を取り直して、ミラもそれに続く。

 崩れかかった古い教会には、誰もいなかった。立ち去ろうとしたミラは、ふと人の気配に気が付いて立ち止まる。

「誰かいるの?」

「!」

 小さく息を呑む音がした。ミラはゆっくりと、声が聞こえた方向に歩いていく。

「助けに来たわ。もう大丈夫よ。出てきてほしいの」

「……」

 息を殺し、怯えている気配が伝わってくる。よほど恐ろしい目に合ったのかもしれない。

「ミラ、誰かいたのか?」

 声を聞きつけたのか、他の場所を探していたラウルが戻ってきた。

「ええ。でも……」

 状況を説明しようとした途端、崩れた瓦礫の裏から駆け出した人影があった。

「あっ」

 驚くミラの前を素通りしようとしたその人影を、入口にいたラウルが捕まえる。

「きゃあっ」

 悲鳴が上がり、その人影が若い女性だと気が付いたミラは、慌てて彼女をラウルから受け取った。

「ごめんなさい。ごめんなさい。殺さないで!」

 錯乱状態なのか、そう言いながら暴れる彼女に振り払われそうになる。

「落ち着いて。もう魔物はいないわ。ひとりで隠れていたの?」

 ゆっくりと背を撫でて優しく話しかけると、やがて少しずつ彼女の動きが緩やかになっていく。

「……殺さない?」

「もちろん。絶対にそんなことはしないわ」

 魔物と勘違いしたのではなく、人に怯えたようだと気が付き、ミラは言い聞かせるように、ゆっくりと告げる。

 どうしてこんなに怯えているのだろう。

 ミラは注意深く、彼女を観察した。

 長い金色の髪はぐちゃぐちゃで、焦げているところもある。

 白い肌は、瓦礫に当たったのか、魔物に襲われたのかわからないが痣だらけだ。足は裸足で、傷だらけ。緑色の瞳は何かに怯え、涙ぐんでいる。

「どうしてこんなところにいるの? 誰かとはぐれたの?」

「わ、わたしは……」

 怯える彼女の背を撫でていたミラは、彼女の服装に見覚えがあることに気が付いた。

(これは、もしかして神殿の……)

 だが、シスターにしては華やかすぎる。

 汚れてボロボロになっているが、もともとは豪華な装飾が施されていたようだ。

「あなたはもしかして、聖女マリーレ?」

 ミラが追放されたあと、真の聖女として迎えられたディアロ伯爵の養女マリーレ。

 ミラは対面したことはなかったが、噂は聞いていた。

 先代のディアロ伯爵のひとり娘で、両親とともに魔物に襲われた領地で行方不明になり、のちに遺児院で見つかったという。

 だが力が弱かったせいか、聖女の力を使うことができず、アーサーの怒りを買って投獄されてしまったと聞いた。グリーソン公爵によれば、王都が魔物に襲われた際に地下牢から抜け出し、行方不明になったらしい。

 その彼女が、ここまで逃れてきて隠れていたのだろうか。

「ひぃぃっ」

 ミラが名前を呼ぶと、マリーレは引き攣ったような声を上げて、がたがたと震え出した。

「ごめんなさい。ごめんなさい。私はただ、伯爵様に言われた通りにしただけです。どうか、殺さないで……」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ