死亡、そして転生
(―――体が痛い。熱い。)
とある地下に生成するダンジョンの上層。
入り口付近に生息するスケルトンは、1万回目の死に、ないはずの痛覚を感じていた。
全身が焼けるように熱く痛い初めての感覚に戸惑いながら、スケルトンは砕かれ地面に転がった自分の下半身を見つめる。
普段ならば、砕かれて1時間以内に再生するはずの体。
しかし1万回目の今回はいつもとは違い、2時間を過ぎたとしても再生しない。
(いつかは来ると思っていたが、こうも早く本当の死が訪れるとは……)
ダンジョンに生み出されて10か月。
マイナーなほうのダンジョンのため、一日に50人と比較的少なく楽な死に仕事だった。
何回も何回も殴られて斬られて壊されて砕かれて、硬い地面に倒れて。そして壊されては治され、また立ち上がって―――
いつから生まれていつから同じようなことを繰り返しているのか分からないが、楽しい時間だった。
いつも来ては軽々と倒していく様々な顔を持った者たち。
人やエルフ、獣人からドワーフまで。
たまに落としてくれる外の物は、顔を見るときとはまた違って、細い指を使ってゆっくりと触り観察でき良かった。
しかしもうそんな日々は一生来ない。
ここで死にさえすれば、もうこの自我を持った私は生まれないだろう。
例え同じ外見をしていたとしても、中身はまた違ったものになるから。
死を迎えることは、別に怖くない。
はず。
でも、何故か、スケルトンのはずの私は、なぜか今迎えようとしている完全な死を怖く感じている。
何故怖いが分かるのだろう。
いやそんなこと、今は関係ない。
何故私風情の、モンスターが死を怖く感じているのか、こうやって声のない心の中で話せているのだろうか?
―――怖い。
ダンジョンに吸収されるようにして溶け始めた顔が怖い。
段々と溶けていくにつれ失っていく感覚と視界に、とてつもなく死の恐怖を感じる。
スケルトンは、ないはずの自我でないはずの恐怖をその身で感じながら、体が完全に消えるその時を、死の恐怖に支配された中で、ただひたすらに待つ。
―――体がもうなくなり、左手だけが溶けるようにして液状となり地面に吸収される中、スケルトンは最後の力を振り絞って、天井に向かって手を伸ばすと、左手が完全になくなるのと同時にその命を失った。