自分の価値
シアが元気に建物の扉を開いた。
「おじさん!また鑑定して欲しい物があるんだけど!」
中には店主と思われる大柄でそれでいて優しそうな顔の40代の男が座っていた。
建物の中も中々に煌びやかな感じだ。ゲームで見た事あるような武器やアイテムが陳列してある、心做しか僕の心もワクワクしているようだ。
「お!トラブル!今日もダンジョン攻略に精が出るねー」とおじさんは比較的大きな声で喋った。
シアも得意げな顔で「まあ私は期待の冒険者ですから!」と誇らしげに言い放った。
「で、どのアイテムを鑑定して欲しいんだ?」
「この杖を鑑定して欲しいんだけど」
「じゃあ1個で100ゼルになるぜ」
2人はやり慣れた調子で会話を続けていた。
シアは僕と多分お金だと思われる金貨をおじさんに渡した。
僕はおずおずとおじさんに向かって「よろしくお願いします」と声を発した。
するとおじさんは僕の突然の声にびっくりして金貨を落としてしまった。
ああ、そりゃ驚くよな、杖であることを完全に忘れていた。
「こりゃびっくりしたぜ!まさかユニークアイテムなのか!しかも意志を持つユニークアイテムなんて中々お目にかかれない代物だ、こりゃ真剣に見ないとな」
おじさんの顔がさっきのにこやかな顔から一気に真剣な顔になった。
まさか5分もおじさんにまさぐられるとは……僕はなにか大切な物を無くしたような気持ちになっていた。
「トラブル!鑑定が終わったぜ」
退屈そうに本を読んでいたシアがこの言葉を待っていたかのようにカウンターに飛びついてきた。
「どうだった!?ランクと名前は?」
おじさんは別段驚いた表情をするわけでもなく淡々と話を始めた。
「ランク自体は可もなく不可もなくのレアで、杖の名前は知識喰らいの杖だな。」
シアは若干物足りなそうな表情で「レアかー、ま、まあぼちぼちね」と僕にも伝わってくる残念そうなコメントをした。
「でも知識喰らいの杖っていうのは聞いた事ないわね。強いの?」
シアはランクの話題を早々に切り上げおじさんに質問した。
「この杖に関してはまだまだ分かってない事が多くてな、なんでも名前の通り知識を喰って力に出来るらしいぞ。手始めにシア、魔法の地図持ってるだろ?喰わせて見ればいいんじゃないか?」
おじさんはシアが腰から提げていたダンジョンを歩く時に使っていた地図を指差した。
僕は今から紙を食べるのかとちょっと冷や汗が出ていた。実際に出る汗は無いけど。
「じゃあシュウ、あんたちょっと食べてみてみなよ」
シアはずいっと地図を僕に寄せてきた。
「これどうやって食べるの?」
「いや、知らないわよ」
シアに即答されてしまった。
でも心の奥で食べ方を知ってるようなそんな感覚だ。
とりあえず意識を地図に集中させてみる。
頭の中の知識の部屋が扉を開けて情報がちらちらと入って来てるのが感じる、地図がどんどん白紙になっていく。
やがて地図がただの巻物になって僕の頭に全ての情報が収まった。
「お、おー!シュウすごいじゃない!」
シアが意味の無い巻物になってしまった地図を見ながら僕の身体を掴んだ。
「俺も初めて見たぜ」とおじさんも呟いた。
「あ、もうこんな時間じゃない。おじさん長居しちゃってごめんね」
「あー別にトラブルなら何時間居ても退屈しないからいいぜ」
やっぱおじさんとシアはかなり仲が良いみたいだな。
その後もちょっとした談笑をした後僕とシアは店を出た。
「これからどこに行くの?」僕は迷いなく歩いてるシアに尋ねた。
「今日はもう私の家に行って帰るわよ。まあ今日からはシュウの家でもあるけどね」
やっぱシアは可愛いな、杖だから何も出来ないけど。
日の落ちた街を5分ほど歩きやがてシアは立ち止まって僕に話した。
「さあ着いたわよ!ここが今日からあなたの家だよ」
ここから長い長い僕とシアの生活が始まっていくのであった。