出会い
何も見えない。手足の感覚がまるでない。指一本さえ動かせる気がしない。
僕は生まれ変われたのかな。
ふと耳を澄ますと近くで騒がしい音がする。
女の子の荒々しい声とまるで狂った野犬のような耳障りな声。その声はだんだんと激しさを増していった。
刹那、一際大きな2つの声が衝突。辺りに静寂が戻っていった。
ため息混じりに女の子の声がフゥっと漏れた。どうやら女の子は無事のようだ。
小気味いい足跡がこちらに近づいてくる。
「さて、この階層のお宝はなにかな〜」
ガチャりと音を立てぼくの視界に光が差し込んでくる。
「お!杖だー!」
目を輝かせながら僕の方を見つめてくるブロンドの少女。僕の身体をガシッと掴んでひょいと持ち上げた。
軽々しく僕を持ち上げたブロンドの少女に思わず僕は悲鳴をあげてしまった。
「え?え?うわー!」
僕の悲鳴を聞いた彼女も僕よりも大きな悲鳴をあげていた。
「キャー!!な、なんで杖が喋ってるの!?」
僕も狼狽しながら答えた。
「つ、杖!?」
しばらくたって良く光に馴染んだ目で自分の体を見てみる。
スラッとした樫の木で出来た身体。頭には鏡のように反射している水晶。そう、僕の身体はれっきとした杖になっていたのだ。
なんてことだ……僕はハッとして気がついた。
僕の願いは俺TUEEEEしたいって願いだったが女神様が叶えてくれた願いは俺、杖したいだったのか!
僕は自分の愚かしい言い方に落胆していた。
ふと彼女の方に目をやるとなにやらブツブツ言いながら冷静さを取り戻している。
「あんた!噂のユニークアイテムね!」
突然大声で何を言ってるんだろう?
「まあいいや、とりあえず街に戻りましょ。話はたっぷり帰ってからしましょ!」
僕は手を引っ張られながら、いや杖となった身体を引っ張られながら彼女に着いていく羽目になってしまった。
これが僕らの出会いの物語。1人と1本の始まりの物語。