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ファンタジー

虚しき伝説を歩みし勇者の物語

願いや欲望というものは、満たされてみると意外とつまらないものだったとわかる。


俺は勇者で、毎日頭を抱えながら魔物を殺戮し、人々を救い、そしてついには宿敵と決着をつけ、魔王を殺した。




人間の中には悪いやつが沢山いる。

平気で他人を虐げ、搾取し、それで誰かが泣こうと、困ろうと、死のうと。


関係ない。


むしろその話を酒の肴に、毎晩のようにヘラヘラ笑って、良い夢を見て眠ってるような奴等が。




魔物の中には良いやつが沢山いる。

仲間の為に、誇りの為に、信じるものの為に。泥水を啜りながらでも立ち上がり続け、相手に勝てないとわかっていても戦い続ける。


特に闇騎士ブラックサレナ。


俺の故郷を滅ぼし、俺を勇者として覚醒させてしまうも、何度も何度も責任を果たそうと戦いを挑んできた宿敵。


こいつは最後の戦いで、あろうことか俺を魔物側に勧誘してきた。


「貴様ならもう私の戦う意義はわかっている筈だ! 王家は魔物が煩わしい!滅ぼす為に貴様を利用している! 魔王様は魔物も人間も愛おしい!均衡を保つ為に人間への攻撃を続けている! 二つに一つならば、どちらが正義だ!? 答えろ勇者ァッ!!!」




―――最後の太刀筋には、致命的な“甘さ”が伺えた。

それは容易にかわして反撃に移れるほどの、絶対的な隙を伴う攻撃だったんだ。


最早攻撃とは言えないその剣を、俺はかわし、胸を一突きにする。


息絶える前の闇騎士ブラックサレナに、きちんとそうした理由を話してやった。敵同士、最低限の礼儀として。




「それでも守りたい世界があったんだ。…だって俺は、人間だから。」




ブラックサレナは苦い顔で笑いながら、崩れ落ちた。俺は自分の中に明確に“もやもやしたもの”があるのを理解しながらも、魔王討伐へと歩みを進めた。




ずっと。




ずっと迷ってきた。ずっと悩んできた。

それこそ最初は、ただ復讐の為の戦いだった。でも俺の心は沢山の出会いと別れを繰り返す内に平静を取り戻し、いつの間にか復讐心なんてものは無くなっていた。


闇騎士ブラックサレナが勇者の覚醒を防ごうと俺の村を滅ぼしたのは、俺が魔王を殺そうとしてるのと同じ理由だったし。


それを知って、だけど気づかないふりをして。

必死に戦って、沢山殺して、そして沢山失って。


そうして得られるのは、俺のものじゃない。




あくまで、“人間の平和”だ。




闇騎士ブラックサレナと同じようなことを言う魔王を、御託はいらないと急かして殺した。すると魔王の魔法で力を増していた魔物達は一斉に弱体化し、ただの人間でも武器さえあれば殺せるようになってしまった。


魔王城から国王の城までの帰りの旅路。英雄である筈の俺を出迎えたのは、どこもかしこも人間による魔物への殺戮という、血なまぐさい悪趣味なパレードでしかなかった。




あぁそうか、俺がこうさせたんだ、と思った。




だが後悔も反省も自責もしない。魔王が居なくなっただけでこんなにも弱体化する魔物も悪いし、人間だって俺が居なかったら、一過激派の魔物達に同じようにされていたかもしれないし。


でも、とんでもない虚しさは感じた。


俺は農具を武器に魔物を一方的に殺戮し、下卑た笑いを浮かべる善良な村人達も、言ってしまえば魔物と変わらない化け物だと思うようになった。




城に戻ると国王はたいそう俺を労い、褒美になんでもくれると言った。


試しに玉座と言ったらむしろ大喜びされ、城の最上階に姫と連れていかれた後、国を一望できる絶景を前に。




「この全てがそなたのものじゃ!」




と言われたものの、どこもかしこも血なまぐさい殺戮が行われている、糞みたいな景色にしか見えなかった。


だから俺は、ただ静かな場所で一人で余生を過ごしたいと願った。


すると国王は残念そうにしながらも、その願いを素直に承知してくれた。




与えられたのは深い深い森の奥にある、誰も知らない小さな湖と、その隣にある質素なログハウス。

国王は要望通りのものを俺に与えてくれたが、澄みきった湖の水面を見つめていると、虚しさが増してくるばかりだ。


あの頃はいつも血で濡れていた。別に剣を振らなければ濡れることなどないのに。


目の前に広がる湖は、俺が今まで殺した連中の血の水溜まりのようにも思えた。

この血は俺を濡らしたりしないが、いっそ自分からここに飛び込んで久し振りに血にまみれれば、俺はこの虚しさから解放されるのかもしれないと思ったりもした。




目的を達して得たものは虚無に過ぎなかった。




俺が最初にしたかったのは復讐で、勇者として願っていたのは平穏で、この剣で奪ったのは幾つもの命と願い。

つくづく勇者というのは罪深く、そして危うい存在なんだと思った。




「知ってるか? 魔王ってのはある程度の周期で、また“ポン”と生じるものらしいぞ。」

「存じております。そしてそれに合わせて、勇者も生じる。 そうして世界は生物が増えすぎないよう、上手くバランスが取られているのでしょうね。」




国から遣わされている侍女が、俺にティーカップを差し出してくる。それを受け取って僅かに啜ってから、小さくため息を漏らした。




「…はぁ。」

「どうかされましたか?」

「いやな、また誰かが俺みたいになるのかと思うと、可哀想で仕方なくて。 何よりやっぱり虚しいよ。こんなに色々犠牲にして頑張ったのに、また俺の居なくなった時代に同じことが繰り返されるなんてのはさ。」

「そうですね。」

「伝説かぁ。 “魔王あらわれし時勇者あらわる”…この一言の内に、どれだけの犠牲と、どれだけの繰り返しが含まれてるんだろうね。」

「少なくとも一度は確実ですね。」

「そうだね。俺の人生も、ただの伝説に過ぎなくなっちゃった、って訳か。」

「いっそ魔王になられてはいかがですか? 新たな伝説が残せますよ?」

「たまに考えるけどいいや。 自分で台無しにしたものを自分で直そうとするなんて、いよいよバカだ。どうかしてる。」

「なら一生その虚しさを抱えて生きていくおつもりなのですか?」

「まぁ人生なんてそんなもんでしょ。 あ、そうだ。今度国王に頼んで町で靴磨きでも始めてみようかなぁ。」

「勇者様が靴磨き? それはまた………新しいですね。」

「だろ? はっはっは。」




退屈はいっそ受け入れたほうが良いのかもしれない。

そしてそこから、例えまやかしでも、新しい何かにすがってみる。


騙し騙しでいい。人生に“なにか”を。


人生なんて、そんなもんだ。きっと、ずっと。

家族との団欒の後にびゃびゃっと書きました。


構想も校正もしてないので多々お見苦しいかと思いますが、なにとぞご容赦くださいませ。


夢が半端に叶うと、つまらないですよね。はぁ。

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