家にて
柏が家の裏手に消えていくのと同時に、子供たちの声が聞こえてくる。やはりエイミーの家族が帰って来たのだろう、と田宮は推測した。程なく、幼稚園児ほどの、色黒い褐色の肌の男の子と女の子がおしゃべりしながら走ってやってくる。やって来て、庭に見慣れぬ褐色の肌の異国人がスーツケースに挟まれて突っ立ているのが目についたのであろう、走ってくるのは止めないが、おしゃべりが止まる。田宮のところまで近づいて来て、田宮はなんと話しかけたら良いかと思って「Hello」と話しかけたが、二人とも一瞬田宮の方を向くと、すぐ目をそらして返事もしない。人見知りか、自分の発音がおかしかったか、田宮には分からなかったが、逡巡する間もなく柏と、メールでエイミーの写真として送られて来たのと同じ顔の女性、その後ろに長身だがまだ稚さの残る男子が歩いてやってくる。
「田宮さん、こちらがエイミーです。エイミー、ヒーイズヒロシ」
「こんにちは、田宮です。初めまして」
柏たちが玄関先までやってくると、柏は田宮をエイミーに紹介する。それに合わせて、田宮も挨拶をする。
「こんにちは、エイミーよ。この子がサヴィで小学生、そっちの男の子がスィディ、女の子がセンヴィよ。ちょっと待って、今ドアを開けるから」
多少早口と田宮には思われるスピードで、エイミーが一気に自分を含め家族を紹介すると、玄関の鍵を開ける。
「それでは、田宮さん、私はこれで失礼します」
柏は一仕事終わったかのように、そして田宮はこれで説明は全部終わりなのか、と呆気にとられながら、そう言うと、車に戻ってさっさと行ってしまった。
「ヒロシ、さあ、入って。荷物重そうね、サヴィ、ヒロシの荷物を彼の部屋に持って行ってあげて」
エイミーはそう言ったが、中身が中身なので小学生には無理だろうと思って、田宮は自分で持っていくと言おうとしたら、「OK」とサヴィは返事をして、飛行機に預けるときの計測で上限ギリギリだったスーツケースを、二つとも事も無げに持って行ってしまった。
「部屋はどこにあるのですか」
「下の階よ。あとで案内してあげる。何か飲み物でも飲む?疲れたでしょ」
「はい、お願いします。水がいいです」
「了解。靴は脱いでちょうだい。うちは脱がせてるの」
「分かりました」
玄関で靴を脱いで、中に入ると、外見から田宮が想像した以上に広い。部屋全体をカーペットで覆われたリヴィングには大きな白いソファが三つ、その奥に書類などが雑然と置かれているテーブルがあり、何十インチか分からない大きなテレビ、壁にはヒンディーの宗教色の強そうな絵が、何枚もの家族の肖像写真や集合写真と一緒に飾ってある。テレビの向かいには本棚があり、そこには本と一緒に象をかたどった用途のよく分からない金色の容器が飾ってある。一見平屋だと思っていたこの家が、二階建てであることと合わせて、田宮は、ソファに腰を下ろすと、自分の住んでいるのとは違う世界に迷い込んだのだ、と痛感した。