迎え
空港のロビーには、カナダの象徴的なモニュメントであるトーテムポールが立っている。通常の観光客であれば、友達と一緒に写真の一つも撮ったりするのだろうが、田宮は一人でバンクーバーに訪れたので、特段そのような気持ちは起きなかった。それに、田宮には、いくら象徴的とはいえ、荷物を拾ってすぐ出たところに全長何メートルかの巨大なトーテムポールがあらわれても、あまりに唐突すぎて、感動という印象を持てなかった。
それでも、待ち合わせの格好の目印には違いなく、田宮は、しばらくその前に立って、送迎の人物と思しき人を探してみる。事前に知らされていたのは、迎えにくるのが柏なる人物であることと、目印を持って立っているはずだが見つからなければトーテムポールのところで待つように、という留学代行業者からのメールでの指示だった。メールを受け取ったときにはさほど気にもしなかったが、よく考えてみれば、一体どういう目印を持っているのか全然分からない訳で、細かく問い合わせておけば良かった、と田宮は後悔した。
スーツケースが置き引かれるのを警戒しながら、それとなく送迎の人物を探していると、田宮が入管審査からロビーへ出てきた、その出入り口のところに一群れの人々がたむろしているのに気づく。出てきたときは何かの客引きかと思って、彼は気にも留めなかったが、よく見ると、パック・ツアーのガイドらが中心となって集まっているようである。
「ひょっとしてここにいるのか」
と一人ごちながら近づくと、一人の、若い細身の、しかしどことなく自信のなさそうな男が、田宮の頼んだ留学代行業者の名前を白紙に油性ペンで書いたカードを高く掲げて、「田宮さーん」と、ロビーに集まる人々の喧噪の中では多少かき消されてしまいそうなほどの声で入管出口の方を呼びかけながら、何となく自信なさげにあたりをきょろきょろ見渡しているのが分かる。
田宮は、どうもこの人物か、と思って、
「すみません、田宮と申しますが」
そう話しかけると、一瞬目が合って、
「あ、田宮さんですか。ICAの柏です」
と答える。
田宮は、ようやっと見つかったかと安堵しながら、
「いや、最初こちらにおられると気づかなくて、ずっと指示通りあのトーテムポールのところで待ってました。どうもすみません」
田宮がそういうと、
「あ、そうでしたか。こちらもお名前だけでどんな格好の方か知らなかったもんで」
と、柏の方も何となく見つかってほっとした、という気分で答える。
「外に車を止めてありますから、早速行きましょう。荷物はそのスーツケースと手持ちの鞄ですか。スーツケース持ちましょう」
と柏が申し出たので、田宮はそれに応じた。