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ゴッドキル・ザ・メサイア ~カミゴロシの救世主~  作者: 蒼露 ミレン
第四章 『顕現されたし神は――』
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エピローグ 『明日を生きし彼と彼女は』

昨夜、あれだけのことがあったにもかかわらず、街を歩く者たちはまったく気づいた様子もない。それどころか、慰労祭の最中に会った殺人に関しても、全く覚えていなかった。


 みんな、忘れている。


 まあ、だからと言って無理に思い出させようとも思っていないし、忘れているなら忘れているで別にいいと思う。


 この街の人たち、みんなバカだから忘れたんだ! 


 それにしても、今日は人が少ない。うん。昨日あれだけパズリィに殺されたからね。


 エーレンティカに殺されたパズリィのことも、みんな忘れているようだった。どうやら、エーレンティカの関わったことすべての記憶が失われたらしい。もしかすると、エーレンティカの存在は、イコール街の人々の存在、なのかもしれない。


 ゆえに、疎まれていた僕だったけれど、そんな雰囲気もなく、普通に話が出来た。街を堂々と歩くって、こんなにすがすがしいんだ!


 でも、この街にいるのも今日で最後。慰労祭が終わると同時に、僕は街を出て行くつもりだった。この街に未練はない。パズリィがいなくなったことで、剣を教えてもらう人もいなくなったわけだし。


 その旨を、ソルフに話した。


「……わ、たしも……行く……」


 即答だった。


 彼女に迷いはない。彼女は、ほかに頼る人もいないのだから当然と言えば当然なのだけれど、僕は悩んだ。だって、僕の目的は……。


「でも……カミゴロシの旅に、神を巻き込むなんて……」


「べ、つに……かまわ……な、い……わ、たし……タグと、一緒……に、い……いたい……だけ……だから……い、っしょ……に、行く……」


 正直、嬉しかった。


 僕だって、君と一緒にいたいんだ。ずっと、この先も……だから、一緒にきてくれるのはとてもうれしい。


 僕は悩んだ末、彼女を連れて行くことにした。


「……で、も……次……どこ、へ……いくの……?」


「うーん……まだ決めてないなぁ。この街に来たのも偶然だったし、とりあえず、東に向かって気ままに進んでみることにするよ。慰労祭が終わったら、荷物をまとめて行こう」


 そして、慰労祭が終わった夕方。


 街のはずれにあるテントにて、竜が降り立った。神の眷属となった竜は、しかし、この街からは離れられない。彼女がいてくれるだけでとてもありがたかったけれど、彼女には子どもがいるため、無理は言えない。


「すみません。本来なら、私も行くべきなのでしょうが……」


「いいよ。この街を守ったのだって、君がこの先もこの街で暮らすためでしょ? なら、無理についてきてなんて言えないよ。それに、子どもたちのこともあるしね」


「タグ……ありがとう。あなたの言う通り、私はこの街で子どもたちを守りながら生きていくことにします。ですが、何か困ったことがあればいつでも呼んでください。私は、ソルフの毛族なのだし、すぐに駆けつけます。遠慮なんてしないで、私を頼ってくださいね」


 そう、言い残して竜は立ち去る。

 

 これは今生の別れではない。だけど、しばらく会えなくなると考えると、なんだか哀しくなった。


「……じゃあ、行こうか」


「うん……」


 竜を見送った僕たちは、街から出るために森へと入って行った。


 どれくらい歩いたか分からないうちに、何とか森から抜け出すことが出来た。そのころには空に星空が広がり、ソルフも眠気眼をこすっていた。


 森の中は危険な生き物がいて野宿なんてできない。だけど、今は視界の限り広がる草原にいた。ここなら安全だろう。


 僕はそう判断し、パズリィの残したテントを張って野宿することにした。


 歩き疲れていたソルフは、軽い食事のあとですぐに眠ってしまった。僕は【霧銘】を携えながら横になり、暗闇を見つめた。


 ほんの二週間くらいの出来事だった。


 僕は様々な人に出会い、経験し、そして……神を殺した。


 目的の神ではなかったにしろ、それは僕に自信を与える。まあ、正確には殺せなかったわけだけど、僕の力が神に通じるものだと、そう証明されたみたいでうれしい。


 【霧銘】を握りしめる。そういえば、結局あの異形のシカの正体って……」


「――まさか、ラリウス、なのか……?」

 

 最高神ラリウス。僕の妹を殺し、ソルフの存在意義を奪い、エーレンティカに怒りを植え付けた神……そして、僕の復讐対象。


 さしずめ、この【霧銘】はハンデということだろうか。神の力を消す能力を持った剣を与え、暇な時間を潰せるほどに強くさせて……いつか自分に挑ませる。


 エーレンティカは、人間は神の『暇つぶしの道具』だと言った。なら、ラリウスも同じことを考えているんじゃないか?


 あの話し方だってそうだ。今思い出すと分かる。あの、人を馬鹿にしたような、妙な話し方はラリウスだ。


 僕の妹、ソルフ、エーレンティカときて、次は僕で遊ぶっていうわけか……。


「なら、それでいい。僕の復讐が完遂されるなら、お前を斃す」


 虚空に向かって呟いて、僕は眠る。



 夢を見た。


 妹が生きていて、僕も真っ当な生き方をしていたとしたら……そんな嘘の光景を反映した夢。


 僕と妹は笑いあって村を歩く。他に誰の邪魔をされるわけもなく、ただ淡々と歩く。それがどれだけ幸せのことだったか、いまなら分かる。


 ただ一緒に歩いているだけ。会話も大して面白くもなんともないのに、僕らは笑っていた。ああ、これが幸せというものなのか。


 それを陥れる影が一つ。


 神の存在が、それを蹂躙した。


 妹を殺した神に、僕は改めて復讐を誓い――。



 ソルフに手を握られた現実の僕が、目を覚ました。心配そうに見つめてくるソルフの姿がよく見えない。涙で目が曇っていた。


「だ、い……じょうぶ……?」


「う、うん……ごめん。心配かけて」


 ソルフは首を振った。彼女の小さくて優しい手が、僕の心を絆す。


 そうだ。


 今はソルフがいてくれる。妹はいなくなったけれど、今は彼女がいてくれる。妹の代わり、というわけじゃないけれど、僕は彼女を守ると誓った。


 ソルフの手を握り返して、僕は微笑む。


「絶対に、君は僕が守るから――」


 ソルフはほほを赤く染めて、静かに頷いた。


 朝日が昇ると同時に、僕らはラリウスを探して旅に出る。


 神はそんな彼らを見守って、今もどこかで笑っていた。



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