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ゴッドキル・ザ・メサイア ~カミゴロシの救世主~  作者: 蒼露 ミレン
第四章 『顕現されたし神は――』
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4-3 『阻止』

「さぁて、タグ。どうするのぉ? 戦う? でもぉ、負けるのはぁ、目に見えてるしぃねぇ……あはは! でぇも、ばぁかなタグには関係なぁいかぁ」


「分かってるならいちいち聞くまでもないでしょう? 僕は誰も消させない。神の現界なんて、させてたまるものか!」


 【霧銘】の剣先を地面に落とす。カンと音が鳴ったのを合図に、剣戟が始まる。


「ッらぁ!」


「ふふっ」


 パズリィはエーレンティカさんの心臓を握りながら【祟聖】を薙いだ。心臓がまるで大切なものなのかのように、握りつぶさないように。心臓はまだどくどくと動いていた。主のなくなったはずなのに、奇妙だった。


 【祟聖】を後ろに跳んで避けるが、あの剣の長さだ。パズリィとの距離は離れ、【霧銘】が届かなくなる。


 長く扱いづらいだろう【祟聖】を、パズリィはいともたやすく扱った。【霧銘】が届かない距離まで僕を離すと、【祟聖】を跳ね上げた。頬がしびれたと感じると同時に、熱いものが滴り落ちた。


 それに気を取られた刹那の時、パズリィが接近し、僕の顎を蹴り上げた。意識が半分飛びかけたが、追撃がそうはさせてくれない。【祟聖】の柄尻でドスッと後頭部を殴る。前のめりに倒れ、身体中の筋肉が緊張し痙攣を起こした。


 【霧銘】を握る手を踏みしめると、パズリィはケタケタ笑う。


「あはは。だぁめねぇ。まぁだまだ。そんなこぉとで、よくわぁたしに挑もうと思ったわねぇ」


「ぐっ……だ、だって……負けるわけにはいかないじゃないか……神を現界させるわけにはいかないじゃないか。みんな消える……僕が守りたいものが消える。そうなることが分かっているなら、止めるのは当たり前だろうが!!」


「ふぅん。でぇも、そぉんなんじゃあ、だぁれも守れないわよぉ? もぉっと強くならなきゃぁねぇ? あははぁ、そう言ってもぉ、もう終しまぁいだけどねぇ」


「ぎゃあああああっ!?」


 ぐりぐり。手を踏みにじる。痛くて痛くて、思わず【霧銘】を手放してしまいそうになる。手放さないように、力を入れてみる。が、余計痛みが増すだけだった。


「さぁて、そろそろ時間……はぁ、まぁた疲れなぁくちゃいけないのよねぇ……」


「さ、せ……ない……神の……現界なん、て……」


「うるさいなぁ……あと十分だけぇなのぉにぃ……ほらぁ、起き上がってみてぇよ。あと十分でぇ、わぁたしを倒して見せてぇよ」


「な、なめやがって……」


「あははぁ、そりゃぁあ、なぁめるでしょぉ? タグはぁ、弱いんだもぉん。ぜんぜぇん、まぁったく、これっぽっちもぉ、わぁたしに勝てる見込みなぁぁぁし♡」


 ダンッ!


 パズリィの足が、僕の手を一層強く踏みつける。指が砕けた。まともに【霧銘】を握ることが出来なくなる。


 歯を食いしばって痛みに耐える。パズリィはそんな僕を見下ろして面白そうに笑うだけだった。必死に生きようとする小動物を小ばかにしたような視線だった。


 まさにその通りだと、自分でも思った。だけど、必死にならなくちゃ、僕はまたあの子を守れないんだ。このまま、パズリィに負けるわけにはいかない。神が現界し、全てを消すわけには……!


 地面に拳を叩きつけ、ボロボロになっていた床を砕いた。破片が飛び散り、その中でも長いものを握ると、手を踏んでいるパズリィの足に突き刺した。


「ッ! いったいなぁ! もう!!」


 血のにじむ足を、それでも何事もなかったかのように軽やかに跳び退ると、パズリィは足に突き刺さった木の破片を抜き捨てた。恨めしげにそれを踏みつけると、視線は僕へ向かう。怒りの念がその瞳に込められていて、僕は全身の毛がよだつのを感じた。


 殺気――それも、最初のころにあったものとは比べ物にならないほどに大きな殺気。


 だけど、僕は怯えない。屈しない。パズリィは倒すべき仇敵で、怯えを取れば負けてしまうことは分かっていた。僕は初めてパズリィと出会ったころよりも、ずっと強くなっている。自分でもそれを感じていた。


 パズリィは恨めしげにこちらを睨みながらも、ふぅんと感心して息をついた。


「まぁ、さぁいしょよりは強くなぁったわけねぇ……最初よりはぁだけどぉ」


「当たり前でしょ? 強くならなきゃいけないから。守りたいものを守れないっていうわけにはいかないから! だから、今日、いまここで! あんたを超す! 剣を教えてくれたことには感謝するけど、でもそれだけ。僕の大切なものを傷つけようっていうなら、どんな恩があったとしても関係ない!」


「恩しぃらずねぇ……でもいいわぁ。その意気じゃあないと、わぁたしは倒せなぁいからねぇ。さぁて、あと少ししか時間ないけれどぉ、タグはどこまでぇわぁたしを追いコンでぇくれるのかなぁ? 倒してみせてよぉ。わぁたしを屈服させらぁれるほどのぉ、強さをみせてみせてよぉねぇ!?」


 瞬間――パズリィの【祟聖】が襲い掛かる。


 横なぎに振られたそれは小屋を破壊しながら迫り、僕は身を低くして避けた。と、同時に低い姿勢を維持しながら全身。長い【祟聖】は小回りが利かないので、近づけば【霧銘】のほうが有利になる。


 だが、パズリィ相手にそれはあまりにも楽観的だった。


 パズリィは【祟聖】を引くと同時に全身を使って剣線を変えた。近づく僕を切り裂こうと、【祟聖】は軌道を真逆に、襲い掛かってきた。避ける余裕がなく、【霧銘】で受け止めると、その衝撃で小屋の壁まで弾き飛ばされた。


「――がっ!」


 喀血。口の中の血を吐き出していると【祟聖】の風を斬る音が聞こえた。しゃがむとさっきまで首のあったところに【祟聖】が通過した。小屋の壁が砕かれ、ミシミシと嫌な音を立てた。


 もうじき、この小屋も崩れ落ちてしまう。が、パズリィはそれすら計算にいれているのか、小屋の壁を破壊しながら僕を狙ってきた。良ければ小屋が破壊され崩れる。避けなければ、僕はピンチに追いやられる。


 舌打ちし、振られた【祟聖】の腹を【霧銘】でなぞり、剣線をそらさせた。【祟聖】は長さゆえに天井まで届いた。天井が切り取られ、木くずがほろほろ落ちてきた。さらに小屋の悲鳴が強くなっていく。


 どうすればいい? ――考える暇を与えず、絶えずパズリィは【祟聖】を振るう。ここから逃げようにも、パズリィに背を向けた瞬間、僕は切られてお陀仏だ。


 リーチの長い【祟聖】は、たやすく僕を真っ二つにすることが出来るだろう。一瞬の隙が命取りだ。パズリィの動きを予測し、ひたすら【霧銘】を振るってチャンスを待った。


 僕如きでもパズリィに勝てる方法――騎士団に所属し、街の人たちからも敬われていた、街最強の剣士、パズリィ。神官にも選ばれた彼女を、ただの田舎者だった僕が、どうすれば倒すことが出来るだろうか。


 チャンスを待つしかなかった。その時を、パズリィが完全に油断するその時を。だが、その時は現れない。


 ふと、パズリィの剣戟が止まった。一瞬だけ、壁に掛けられた時計を見てため息を吐く彼女――いまだ! 


 僕は必死になって剣を振った。一撃でも当たれば、何か光明が見える気がした。パズリィはこちらを見ずして僕の剣を受けると、ちょいとふるって弾き飛ばした。僕は床に転がり、壁に叩きつけられた。整頓していなかった本棚から本がばさばさ落ちてきた。


「ぐふっ……」


「……あぁと五分ってところかなぁ? はぁ、うちの神様はぁせっかちだぁからねぇ。はぁやく現界させぇてあげなぁいと、すぅぐ怒っちゃうからねぇ」


「させない! そ、そんなことは……絶対に!!」


 本をかき分けて飛びだすと、パズリィに向かって【霧銘】を振り下ろした。パズリィは【祟聖】を跳ね上げて弾き飛ばし、同時に身を低くして僕の懐に入った。身を屈めた状態から平手に僕の胸を穿つ。


 一瞬呼吸が止まった。衝撃が身体中を駆け巡り、身体を動かせなくさせた。身体に力が入らず、僕は倒れる。


「ぜぇ……っはぁ……」


「んむぅ……まぁだまぁだ、わぁたしに歯向かってぇみせてよぉ。こぉのままじゃぁ、わぁたしが弱ぁいもののいじめしているみぃたいじゃないのぉ」


 あ、でもその通りかぁ、とパズリィは笑う。その笑い顔が気に入らなかった。


 どうして人を大勢殺したくせに、そう笑っていられるんだ? ふざけるな。みんな消えていいとでも思っているのか? 人の命をなんだと思ってやがる! お前にとっては軽いものでも、大切なものを失った人だっているんだぞ! 


 怒り、怒り、怒り――だが、この感情がパズリィに届くわけもなく。


「はあ……みぃんな弱いしぃ、張り合いなぁいのよねぇ。そろそろぉ、つよぉい人と()りあってみぃたいんだぁけどねぇ……」


「ふっざけるなよッ!!」


 殺した殺した殺した! 大勢、人を、子どもがおもちゃで遊んで壊すかのように、全く感謝も人情も何も感じないままに、ただ己の私欲のために殺した! なのに、まだ足りないって言うのか!? 


 強いってなんだよ! 強いからなんだよ! 強くないから努力する。強くないから、弱いことが嫌で嫌で仕方ない! 死にたくないから必死に生きて、でもそれを強者が蹂躙するから、弱者は生きようと強くいようとしているのに!


 敬意を払うべきは強者なんかじゃない。弱くても必死に生きようとする人たちだ! 強いも何もあるか!?


「なんだよ、強いとか、弱いとか……そんなのどうだっていいだろ」


「どぉうでもいいわぁけなぁいじゃなぁい。強いやぁつが生きるのぉ。つよぉくないと、この世界、いきらぁれないのぉ。弱いままじゃぁ、なぁにもできない。よわぁいのは嫌? だぁったら強くなぁればいいだぁけじゃなぁいの。あぁ、惨めよぉねぇ……いつまぁでも弱ぁいままでしかいられなぁい愚民どもはぁ」


「だからって殺していいわけじゃないだろうが……強いなら、弱い奴を守れよ。弱い奴は弱いことに抗って生きているんだよ。それを、強者が蹂躙していいわけないだろ!」


「しぃらないわぁ。だぁって、弱ぁいのは自分のせいだもぉん。わぁたしにはかぁんけいないわぁ。弱ぁいのはつまらないしぃ、張合いがなくてぇ、もう死んじゃえ! って、思うのはぁあぁたりまえじゃなぁいのぉ」


「……じゃあ、あんたは弱いよ」


「……はぁ?」


「あんたと話をしていると、すごくつまらない。しょうもない。人殺しの話なんて、聞く価値もない……だからさ」


 明らかに苛立って眉をひそめたパズリィに、僕は【霧銘】の剣先を向けた――。


「もう死ねよ、クズヤロー」


「あはは! それを言えるのはぁ、わぁたしより強くなってからでしょうがああああああっ!!」


 怒りに任せて【祟聖】は小屋を破壊する。


 小屋の壁一周を横なぎに払うと、ついに小屋が崩れ落ちた。パズリィはその中で平然と立ち、怒りに瞳を炯炯とさせて僕を睨み付けた。


 肉薄する。パズリィに向かって【霧銘】を振るうと、その腹に拳を当てられて軽々剣線を外された。同時にしゃがみ、振り下ろされた【祟聖】を避けると、パズリィの足を払った。パズリィはそれでも何とか踏ん張り、たたらを踏むだけにとどめた。


 が、その一瞬の隙が命取りだった。


 一気に迫ると、【霧銘】を振り下ろした。反応しきれず、パズリィの頬を切り裂くと、鮮血が辺りに散らばった。この一撃で、片目が潰れた。


 目をまともに開くことが出来なくなったパズリィは、歯を食いしばり、鮮血の滴る左目にぐじゅぐじゅ指を入れて抜き取った。イライラしたようにそれを地面に叩きつけると、ぷちっと踏みつぶす。


「あああああ! もう! むかつくむかつくむかつく!! 時間もぉなぁいっていうのにぃ……はぁ……ったくぅ……めぇんどうな子を育てたわぁ」


「それは光栄! 僕はあんたに出会うために、あんたをイライラさせるために生まれてきたんだ!」


「……調子のらなぁいほうがいいわよぉ? こぉうかいしてもぉ、遅いんだぁからねぇ?」


 隻眼となったパズリィだけど、その強さは健在だ。片目でしかないから距離感もつかめないだろうに、彼女にはそれすら関係ないように思える。


 空いた距離を一気に縮めてきたパズリィは、僕の目の前で床を踏み砕き、散らばった破片を蹴り飛ばした。僕の足にいくつもの破片が刺さった。


「ぐあっ!」


 痛みに呻いたとき、風を切る音。身体を捩って【祟聖】による追撃を間一髪避けると、後ずさりした。近づきすぎた距離を取ろうとしたが、すぐに詰められ、腹を蹴り飛ばされた。


 壁のなくなった小屋の外まで転がり、隣のコンクリートの建物の壁にぶつかって止まった。ぶつかった衝撃で息が詰まった。詰まった気持ち悪い息を吐き出す。


「はぁ……はぁ……」


「さぁて、もぉう時間切れかなぁ? でぇも、まだやる気みぃたいだしぃ……そうだぁ! いま殺しちゃおぉう! あとでじぃっくり殺そうと思ってたんだぁけどねぇ、でもぉ、じゃまだからぁ、今殺してあぁげるわぁ。ほらぁ、感謝感激でぇ、むせび泣いてみせてよぉ。ああ、違うちがぁう。なくならぁ、瞳からながれるのはぁ、血の涙よぉ?」


「まだ負けたわけじゃ……」


「あぅ――――――ッ!!」


 パズリィに反論しようとしたときだった。


 あの子がやってきた。


 僕の天敵……僕が一番守りたい人物。だけど――。


「来るな!」


「だぁめじゃなぁい……ちゃぁんと相手を見ておかなぁいと」


 少女に気を取られた隙に、僕は袈裟懸けに斬られていた――。



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