表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/66

3-6 『神官』

「え……?」


 竜の指さす先を見ると、確かに人だかりができていた。ここからじゃ遠くてよく見えないけれど、狭い路地裏で、何やら騒ぎが起こったらしい。


 竜がそう言ってから数分後には、街にいた人たちは建物の中へ避難していき、誰もいなくなった。僕たちも怪しまれるのを回避するために、近くの建物に身を潜ませた。誰もいない、古びたコンクリートの建物だった。


 中には何もなかった。木の扉はそこらじゅうが傷だらけで、少し奥に行ったところある部屋にはガラス片が散らばっていた。誰も住んでいないようで照明もない。


「すこし、ここで身を潜めるしかなさそうですね。まったく……落ち着かない世の中になりました。それも、ここ数日で……」


「僕が眠っている間に、本当に大変なことがあったんだね」


 僕が眠っている間だけでも何人殺されたのだろうか。そして、これで今日二人目の犠牲者……現在進行形で、殺戮は続いている。


「――これは、数年前の慰労祭と同じなのですよ」


「数年前の慰労祭?」


 街の外へ出られず、じっとしているしかない僕たちに、竜は説明してくれた。


「はい。私は人間の寿命以上に生きているので、正確な数字は思い出せませんが、数年前に起こったことと似ているのは確かです。数年前の慰労祭でも、一週間に二十四人もの人間が殺されました」


「え……」


 二十四人もの人間が、この街で……しかも一週間で!?


「も、もし、本当に同じことが起きているなら、なんでみんなはそれに対処できていないんだ? だって、それほど殺されたなら、殺人者をこの街にいれようとしないだろ?」


「無理ですよ。殺人者を街に入れないなんて、無理なのです」


 竜はコンクリートの壁に背中を預けて腕を組んだ。


「数年前の慰労祭で、多数の死者が出た……ですが、これは何も珍しいことではないのかもしれないのです」


「珍しくない?」


「ええ。この街では、ですが。


 この街の人々は、そのほとんどが神の信奉者なのです。今日の剣舞でもあれだけ人がいたでしょう? しかし、今日の剣舞に参加できたのは、ある程度剣を学んだ強者だけです。あの百を超える人数に、街の戦えない人を足すのです。遠まわしになりましたが、要は、この街は神の信奉者だけでできた街なのです。


 それが、今日の慰労祭で祀られる神にとっては居心地がいいのでしょう。年に一回は必ず祭りが行われて、長くつまらない人生を面白おかしくしてくれる。


 しかし、どれほど面白おかしいとはいっても、そう長く楽しめるわけがないのです。いつかは飽きるのですよ。神だって、どこまでも、海よりも宇宙よりも、心が広いわけではないのです。つまらない人間は贖される。


 すなわち、殺されるのですよ。人間は殺されそうになると、必死になりますから。しかし、そこに神の名前を出すと途端に静かになる。神はそれを見て愉悦に浸るのです。自分を崇める者がいる、それが目に見えた形で証明されるのが、神にとってはとても気持ちがいいのです。


 しかし、そう毎年大勢の人間を殺すわけにはいきません。なので、数年に一度、気まぐれに殺すのかもしれません。


 まあ、これは私の仮説です。どこまで合っているか、どこまで間違っているか、もしかしたら、これは神に関係せず、たまたまだという可能性もあるのですよ」


「たまたまにしては……」


「そうです。たまたまにしては、明らかにおかしい……そこで、私はもう一つの可能性を考えるのです」


「もう一つの可能性?」


「ええ」竜は頷いて、何もない虚空を睨み付けながら、もう一つの可能性を話した。


「――神を現界させる生贄です」


「い、生贄……って、神が殺すのか?」


「いえ。神はこの世に現界しなければ力を使うことが出来ません。神は人間の姿で生きていることが多いですが、力は別の空間に置いているのです。その力を現界させるために、生贄が必要になるのですよ。力がなければ、たとえ神でも、一人の人間でしかないのです。力を現界してこそ、神は現界したということになるのです。


そこで、この世界に生きる神は、一人以上の神官が選びます。神官たちは神の世話をすると同時に、神の信奉者を増やすための宣伝をする役目があるのです。


彼ら神官の役目は、主に神のサポート。ですが、それも過ぎれば人をすら殺すのです。神が望めば、彼らは何でもします。


 この街で起きている数々の殺人も、神官たちが噛んでいるのかもしれません。この街に住む神の名を、残念ながら私は知りません。ですが、神は現れるでしょう。


 実際、数年前の慰労祭でも神は現れました。一週間に二十四人もの人間が殺されたとなれば、街の人間たちは、さぞ神が助けにきてくれたと信じたでしょう。


――しかし、その期待は裏切られることになります。


 その年の慰労祭の翌日のことでした。私はたまたまその慰労祭の翌日にほかの街からやってきたのですが……」


 竜は言いよどむ。言いたくない、と言った風だけれど、唾を呑みこむと、呼吸を落ち着かせて言った。


「翌日の慰労祭……この街の人は――いませんでした」


「人がいなくなった……?」


 一週間のあいだに二十四人殺されたなら、まだ殺人事件として片付けられたかもしれない。数は多いかもしれないけれど。


 しかし、街全体で人がいなくなったとなると、それは殺人事件なんかじゃとても片付けられない……!


「街の人はいませんでした。が、代わりに落ちていたのですよ。あなたは今日の被害者の第一発見者なのでしょう? 殺されたその人物の近くに、何か落ちていませんでしたか?」


「何か落ちていた……あ!」


 そうだ。


 バラバラにされた身体。その傍らに――。


「――幾何学の文字の書かれた、しおり……」


「はい。数年前の慰労祭でも、同じことが起きたのです。人がいなくなった代わりに、その人数分のしおりが落ちていたのです。これがどういうことを示すのか……それは、神が人々を連れ去ったと考えるべきです。事実、街に生き残りは一人としていませんでしたから」


「で、でも……一人もいないわけじゃなかっただろう?」


「? どういうことです?」


 竜の話を聞く限り、その中で少なくとも一人は生き残りがいるはずだ。いなかったとしたら、僕は本当に神を許してはおけなくなる。


 妹の復讐だけじゃなく、この街に現れる神は、この街の仇だ。敵だ。どれほど信仰されたとしても、殺されるべき対象なんだ!


「一人は……だって、神官は神の味方なんだろう?」


「神官が、生き残っているということですか?」


 神官が神のサポートをする役目なら、神官は生き残っているはずだ。そうじゃないと、神はこの世に現界できなくなるから。


神官がいなければ、神はつまらない日々を過ごすことになってしまうから。


 その神が、唯一殺せない人物……それは神官だ。神官は、神にとって必要な存在であると同時に、弱点にもなりえるのではないか?


 そして、その神官が生きていたからこそ、今年の慰労祭でも同じことが起きる。おそらく、今年もどこかで神が現界し――人は消え去る。


「……確かに、神官が生き残っている可能性もあります。が、神は神官を選ぶ立場なのです。つまり、神官は誰でもいいのです。自分に忠誠さえしていれば……もしくは、神が現界中に選ぶ者を洗脳するかですね。


 なので、必ずしも神官が生き残っているとは考えられないです。まあ、神官を選ぶのも面倒でしょうから、生きている可能性はありますが……神が非道なモノなら、神官もその時消え去っています。


 ですが、可能性はゼロではありません。私もできる限り手がかりを探してみましょう。きっとどこかに、穴があるはずです。完璧など、この世にはありませんから、きっと探せばあるはずなのです」


「ありがとう。一緒に探してくれるなら心強いよ」


「……って、あなたは犯人を捜すつもりなのですか?」


「その通りだよ。このままだと、おちおち出歩けないし、この子だって心配だ。いつ襲われるか……」


 街のはずれだとしても、少女と僕はテントで暮らしている。無防備なあの空間に迫られてきては、まして、僕がいない時に敵が現れたなら……そう考えると、ほかのことに集中できそうになかった。


「僕はどうしても剣舞に出なきゃいけない。師匠は騎士の仕事で忙しくなるだろうし……そう考えると、この子を守る人がいなくなる。だから、早く犯人を……神官を探さなきゃな……」


「……タグ、忘れていませんか?」


「え? 何を?」


 竜は困ったように眉根をひそめさせた。いや、どちらかというと寂しそうに。


「私が、この子をお守りいたしますよ」


「え……で、でも、子どもたちがいるんじゃ……」


「子どもたちだって守りますよ。もうあんな茶番には付き合ってはいられませんからね。ですが、あなたは子どもたちを助けてくれた恩人です。恩人を助けないで、どうして神と敵対する竜を名乗れますか? 


 あなたがその子を大切だと思うのなら、私がお守りいたします。ですから、あなたは目の前のことに集中してください。大丈夫です。心配しなくとも、私は裏切ったりなどいたしませんから」


「いや、それは心配していないけど」


 竜はくすくす笑った。


「そう言ってくれる人間は、おそらくあなただけでしょう。さて、外もどうやら落ち着いてきたみたいです。私たちも行きましょう」


 そう言って、扉を開きかけたとき、竜は思い出したかのように振り返った。


「ああ、そうでした。あと一つ、タグにヒントを与えましょう」


「ヒント?」


 竜は頷いて、そして、とんでもないことを口にする。


「この事件の犯人は、剣舞に参加しています」


「え――!?」


 それは、師匠から聞いた通りだった。その噂は、人間をあまり知らないという竜の耳にまで達している。噂とはいえ、信ぴょう性が増してきた。


「無論、今日の混合戦を勝ち抜いていることでしょう。ですから、気を付けてください。そして、犯人を見極めるのです。あなたが勝ち残れば、いずれその人物と戦うことになるかもしれません。その覚悟もしておいてください」


「神官が剣舞に……」


 今日はごたごたがあって、混合戦を勝ち抜いた八人を、僕は知らない。


 僕を抜いて七人……その中に犯人が、神官が潜んでいる。


 そして、僕はその人物と当たるかもしれない。その人物と戦う羽目になるかもしれない。勝ち進めば、必ず戦う!


 落ち着け……。


 これは好機だ。犯人と戦えるんだ。


 そして、僕はそいつを倒す。神の現界を阻止して、人を殺させなくさせる。僕が知らない数年前のことだけれど、同じ悲劇を繰り返すわけにはいかない――ッ!!


「では、心の準備はよろしいですか?」


 僕は唾を飲み下し、深呼吸した。どうせ戦うのは明日以降になるだろうけれど、緊張してきた。


 でも――犯人を見つけなければ、少女が危ない。


 少女を危ない目に遭わせるわけにはいかない。だって、彼女は神の敵だから。


 クイムが言っていたことだけれど、少女は記憶がないとはいえ、神の敵だった。その可能性がある。なら、きっと犯人は狙ってくるはずだ。

 

 竜が彼女を守ってくれると誓ってくれた。なら、彼女は安全なはずだ。


 だけど……なんだろう、この気持ち。


 不安だ。


 竜の力を以ってしてでも、倒せないような気がするのだ。少女は守れない。少女は、神官、もしくは神に殺される!


「どうかしましたか? 顔色が悪いですよ?」


「だ、大丈夫……だから」


 守らないと。

 守らないと。


 誰かに頼り切るんじゃなく、僕が少女を守るんだ!


 決心を胸に、僕は扉を開き、雑踏の中へと繰り出した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ