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ゴッドキル・ザ・メサイア ~カミゴロシの救世主~  作者: 蒼露 ミレン
第二章 『竜と巨人とシカと』
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2-19 『圧倒』

 しかし、僕の願いは通じず、それどころか僕の願いと裏腹に、クイムはそう言うのだ。ああ、僕とクイムは、最初から渡り合えない関係だったんだ……。


「主に従わぬ貴様らは裏切り者だ。この世界の裏切り者。背反者ども、罪人ども。あろうことか竜に忠儀し、かしずく……オデは貴様らを許さない。殺す……それが主の願いだ」


「でも、僕は間違ったことはしていない! 間違っているのは神の方だ! 僕らをどこかから見下ろして、おもちゃみたいに弄んで、壊れたら切り捨てる! 間違った奴にかしずいて生きる奴らのほうが、この世界の裏切り者だ!」


 間違っているのはクイムの方だ!


 歯噛みして、クイムを睨み付けた。こいつは倒さなくちゃいけない。震えている場合じゃないんだ、僕の身体! 


 クイムは得物を持っていないけれど、拳一つで巨人たちを殺した。だから彼に得物は必要ないのだろう。その拳一つでかなりの戦力になる。恐ろしい相手だ。


 けれど、間違っているのはクイムだ。間違いを是正するためにも、僕はクイムを倒さなくちゃいけない。


「できれば、嘘だって言ってほしかった。僕たちなら仲良くなれたかもしれないけど、それは幻想だったね」


「タグはそう思っていたのか。残念だったな。オデは最初からそんなことは一切思っておらぬ。期待もしておらぬ」


 街中を歩いたときに、クイムが言ってくれた言葉。それらも、全部嘘だったのか……。


「だが、タグが主に忠儀を誓うならば、話は別だ。さあ、まだ間に合う。まだ貴様は生きておるからな。そこで土下座し、懺悔せよ。さすれば、心優しき主は貴様を許すかもしれぬ。少なくとも、オデは貴様を許す。さすれば仲間だ。友だ。さあ、貴様はどうなのだ? 主に忠儀を示すのか、それとも、背反者として竜にかしずくのか……」


「何度も言わせないでよ。僕は神の味方なんて頼まれてもならない」


「そうか。そうだな……」


 無感情に頷いて、クイムは右手を引いた。左手を前に突き出し腰を落とすと、右手を握りしめる。


「やはり貴様は裏切り者。オデはそんなやつと関わってしまった。知らなかったとはいえ、言葉を交わしてしまった。ゆえに、オデは自らの罪を購うため、目の前の背反者を殺そうぞ」


 クイムが足を踏み出した――瞬間、僕は模擬刀を横へ薙いだ。


 薙いだところへクイムの拳がぶつかり、弾く。クイムの拳が見えなかった。当たったのは奇跡だ。 クイムの力のほうが強いので、僕はたたらを踏みながら後ろへ後退した。


 やはり、巨人の一撃を受けることはやめておいたほうがいい。あまりにも力の差がありすぎる。攻撃を受けようとしても、完全に受け止めることはできない。今みたいに弾かれてしまうか、もしくは、叩き潰されるかのどちらかだ。


 模擬刀を構えるけれど、クイムの一撃一撃を受けるつもりはない。クイムもそれを分かっているのか、模擬刀に対してそれほど警戒していないように見える。


 クイムが地面を穿つ。亀裂がこちらへ向かい、隆起した岩盤が四方から迫ってきた。たまらず前転して避けると、そこへクイムが両拳を組んで、振り下ろしてきた!


 巨人の頭蓋を握りつぶすほどの拳――当たればただじゃすまない。


 模擬刀を地面に突き刺し、それを軸にして無理やり身体を移動させると、避けたところへ拳が振り下ろされた。小さなクレーターが生じて、僕は戦慄を覚えた。


「避けるばかりか。立ち向かわなければ、オデは倒せぬぞ」


「っく……」


「? どうした? まだ本気を出していないようだな。そこまでオデは舐められているのか? ならば、こうすれば本気を出すのか?」


 クイムはしゃがみ込み、そして、そこにあったもの(・・)を右手だけで掴み上げた。


 クイムの足元で眠ったままだった少女は、命の危機に直面しても気づかず、呻くこともせず、静かに寝息を立てている。無防備な彼女の頭を掴んだクイムは、僕へ視線を送ると、ふっと笑った。


「【舌壊断】はオデの手中にあり――」


「ふざけるなあぁぁあぁぁああぁッッ!」


 模擬刀を袈裟懸けに振り下ろす。が、クイムは少女の体を投げ捨てると、腕を横へ振った。模擬刀が弾かれ、飛び込んだ僕の腹へ掌底が突き刺さる。


「ぐあぁ――ッ!」


 地面を転がった僕は、急いで立ち上がる。寝転んでいたところへクイムの足が下ろされ、ズゴンという鈍重な音と共にその周辺が陥没した。


 あっけにとられている間にも、クイムの連撃は止まらない。陥没してひび割れた岩を引き抜くと、無造作に投げつけてきた。一メートルはある岩を避けると、目前に迫った拳を顔面に喰らってしまう。


 首が引きちぎれるんじゃないかというくらいの衝撃に襲われながら、僕は脳震盪を起こして、数メートル吹き飛んで喘いだ。


「ぁっ……ぐぅ……ッ」


「ふん!」


 動けなくなった僕の顔面を、クイムは胸ぐらをつかんで何度も何度も殴った。殴った。


 巨人の力だ。一撃で屠ることもできただろう。しかし、クイムはまるで、日々の鬱積を晴らすかのように、もしくは、ただの快楽として、僕を殴り続けた。それは抵抗の一切を許されない一撃一撃だった。


「ぐふっ――ぐあっ……がはっ……」


 クイムの動きが早くて、力強くて、僕はなされるがままになることしかできない。クイムの攻撃に僕は反応できない!


 やがて、クイムは飽きたかのように殴るのを止めた。僕の顔面は、鼻血と涎でぐちゃぐちゃになっていた。鏡なんて見なくても、今の自分の顔がどれほど醜いか自覚できた。


 全身の痛み、倦怠感……僕は立つことすらできなくなった。クイムに捕まれた襟首がぎりりと絞まった。そのせいで息さえしにくくなる。


「ふん。神に仇名す者よ。やはり醜い。醜い。恵まれぬ過去を持って生まれた反逆者。恵まれないことを主のせいにし、己が存在することが、主の恩恵だということを忘れ、竜に味方する……貴様の最期は、大切なものを守れず、己の未熟さを悔いながら、絶望を味わって消えてゆくのみだ」


 言って、クイムは僕を放り投げた。さながら道端にごみを捨てるがごとく。


 捨てられた僕は、かろうじて動けるだけだった。脳震盪からも立ち直ってはいたけれど、万全じゃない。クイムには、勝てない。


 クイムの相手は、僕には務まらない……だから、クイムはそれ以上僕に関心を持つのを止めた。


 代わりとして、関心を持ったのは少女だった。


「【舌壊断】……裏切り者よ。まだ生きていたとはな。だが、貴様に存在価値はない。否。存在価値は失われたのだ。必要とされない……まだこの世に未練があるのか? なれば、オデの手で貴様の人生、終わらせてやろうぞ」


 少女は――答えない。当然だ。彼女は眠らされているのだ。


 クイムの大きな手が、少女の小さな頭をわしづかみにする。殺される。少女の小さな頭がヒガンバナのように咲き散る光景が、浮かび上がった。無防備な少女を殺そうとするなんて!


「や、やめ……ろ……」


「貴様に何ができる、タグよ。そこで這いつくばることしかできぬ弱者よ。助けたいと願うなら、今すぐオデを殺せばいい。だが、貴様には無理だ。なぜなら、貴様は竜の、あの低俗で愚鈍な竜の味方なのだからな」


「そ、んなこと……関係、な、いだろ……その子だって……クイムと……い、いや……神の、味方と……何の関係が、あ……あるんだよ……なんで……殺されなくちゃ、いけないんだ、よ……ッ!」


「何も知らぬものが、口を挟んでいいことではない。貴様はまだ、人間なのだから、こちら側の事情を知らなくていいのだ」


 だが、とクイムは僕に振り返って無感情に言った。


「これだけは言っておこう。このモノは……【舌壊断】は、すでに存在価値をなくしている。いや、そう形容するのは少し妙だ。存在する価値を、我が主に奪われたと言ったほうがいい」


「奪われた……?」


「いかにも。そして、そのままこいつは消えるはずだったのだ。死ぬのではなく、ただ存在をなくすはずだった……だが、どういうわけか今もここにいる。死にぞこないだ」


 クイムはため息を吐いた。自分がつかんでいる少女が生きていることが、彼らにとっていかに都合が悪いことなのか、彼の行動の一端一端がそれを表していた。


 そもそも、クイムはどこまで少女のことを知っているんだ?


 クイムは少女のことを【舌壊断】と呼んでいるけれど、それって一体――。


「……それすらも……僕、には……し、知る権利なし……ってこと……か」


「いかにも。だが、それを悔いる必要はない。貴様はオデの手によって殺され、【舌壊断】も、今すぐに消えるだろう。その胸にある、悔しい気持ちもすぐに忘れる」


 クイムが、右手で少女の頭を掴み、左手で首を掴み、首をへし折ろうとした。


 ダメだ。


 このままだと、少女はいともたやすくぐちゃぐちゃにされてしまう! クイムの力は、あの巨人の体すらもぐちゃぐちゃに解体させたんだ! それなのに、ただでさえ華奢な身体の少女が、クイムの圧倒的な力に耐えられるわけがない!


「や、やめろ――ッ!」


 叫ぶが、クイムはこちらを見ようとせず、少女を殺しにかかる。ぽきりと首がへし折られ、顔面が潰された少女が数瞬後に目の前に転がる――そんなビジョンが脳裏に浮かび、悲痛に叫びながら、僕は必死に手を伸ばす。涙が滂沱と流れでて視界を妨げる。


「やめろ! やめてくれッ! その子を殺すな! 僕の大切なものを……これ以上失わせないでくれええ!」


 だが。


「な……っく……ぐぐっ……」


 様子がおかしい。クイムが顔を歪ませて、その両手に本気の力を入れている――そのはずなのに、少女の首は折れない。潰されない。まるで彼女が別次元に生きているようにも見えた。己の危機に少女はまったく気づいていない風に静かに眠っていたのも、そう思わせた要因だった。


 殺せない?


 巨人を一撃で屠る力を持つクイムでも殺せない少女。クイムの力は、どういうわけか少女には利かない。


 クイムは、少女を殺せないんだ!


 好機。


 これを見逃すわけにはいかない! 


 僕は立ち上がり、背を向けたクイムに向けて袈裟懸けに模擬刀を振り下ろした!


「ふん。貴様ごときが不意打ちなど、無駄だッ!」


 しかし、振り向きざまに振られたクイムの腕に、模擬刀は弾かれる。ふらふらとした足取りで僕はたたらを踏んで、転びそうになる。これだけよろよろなのに、クイムに一撃喰らわせられるほうがおかしいか……。


 クイムは少女を殺すことを断念して、少女を放り投げた。邪魔者を先に始末する魂胆らしい。


 その衝撃で、少女は目を覚ます。



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