2-15 『救出』
巨人たちは、いつまで経っても竜を見つけられず、苛立っているようだった。
あちらこちらへと動き回ってはいらだたしげに地面を蹴り、そのたびに地面が揺れて、木に止まって休んでいた小鳥たちが飛んでいく。
「なぜ見るからぬ!?」
巨人の中でも大柄な男が叫ぶ。そりゃ、そんな大声出されたら誰も近づこうとは思わないよ!
「くっ……子どもの命などどうでもいいとでも言いたいのか? わざわざ危険な賭けに出たのに、これでは無駄足だ。ふざけるな! おい! まだ見つからねぇのか!?」
男は仲間の巨人に問いただす。
しかし、返ってくる返事は見つかっていないの一点張りだった。
「はぁ……このまま見つからねぇなら、あのガキどもは邪魔になるな」
「でも、俺たちはあれを失うわけにはいかない」
線の細い男が言うのを、大柄な男は鬱陶しげに聞き流す。
彼らは分かっていた。
自分たちは、人質がなければ竜に一切歯が立たないことを。
卑怯だと思われても、彼ら人質を取るしかなかったのだ。そうでもしなければ、竜を殺そうとした彼らが返り討ちにあってしまうから。
だから、なおさらイライラする。
いつまで経っても見つからない竜。でも、人質を失うわけにはいかないから、彼らは竜を殺すまで、子どもたちを殺すわけにはいかない。
そして、それは同時に、竜を見つけるまで家に帰れないことを意味していた。巨人の中には家族がいる者もいる。子どもの姿を見たいと思っていた彼らは、竜よ……頼むから姿を現してくれ! と敵のくせに頼み込むのだった。
「くそっ! 見つけたらただで殺してたまるか! 苦しませて泣かせて、詫びらせて殺してやる!」
「落ち着けよ。いちいちあんな竜ごときにイライラしているなんざ、バカらしいとは思わないのか?」
「……分かっている。だが、こういつまでも見つからねぇと……」
竜ごときにとりみだすのは、彼らの性分には合わない。でも、ここまで姿を現さないとなると、取り乱さずを得なかった。もうじき夕暮れだし、早く帰りたかったのだった。
そんなことを考えているときだった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!」
「な、何だ!?」
巨人たちが集まる場所に、一人の少女の姿が大声で泣きながら歩いてきた。みすぼらしい恰好をした少女は、たちまち巨人たちの注目を集めた。
「ど、どうした!? なにかあったのか?」
「うわあああああああぁぁぁああぁぁぁぁん!」
「な、ちょ……ど、どうにか……な、泣かないで? お願いだから! な? な!?」
巨人たちはうろたえて、少女に駆け寄った。この場には女がおらず、彼らは子どもの扱いになれていなかった。家族がいても、男尊女卑。彼らは子育てなど一切したことがないのだった。
少女はやがて涙をこぼすのを止めると、ぽつりぽつりと話し始めた。嗚咽を漏らしながら、必死に話そうとする彼女に、巨人たちはかがみこんで聞き入った。
「あのね……ぐすっ……わ、わたし……ここがどこか分からなくなって……ねぇ……どうすれば、パパとママに会えるのおおおぉ!? うわああぁぁぁああ……」
「ま、迷子か! そうかそうか! なら我らが街まで連れて行こう!」
「本当に! ありがとう! 優しい巨人さん!」
少女は満点の笑顔を咲かせて、巨人たちは『ああ、この子可愛いな』『俺、もうロリコンでいいや』などと心で思っていた。
「さ、さあ、行こう! 街への道はこっちだ!」
巨人たちはぞろぞろと、そこまでの人数はいらないだろ! と突っ込みが返ってきそうなほどに大勢で、自分たちの役目をすっかり忘れて、少女を街へ続く道へと連れて行った。
彼らの様子を遠巻きに眺めて、僕は呆れ交じりの息を吐く。
「まさか、ここまでバカだなんて……」
『竜、バレる、心配、ない?』
「たぶん大丈夫だと思うよ。あの調子だと、巨人たちはあの子どもがまさか竜だなんて、思ってもみないだろうね」
巨人たちの前に突如現れた少女。
それは、巨人たちをここから引き離すために、囮となった竜だった。子どものためなら何でもするんだなぁ……そして、その演技力もすごい。
「巨人たちは、まずこんな森の中にあんな少女がいることを疑うべきだと思うよ。こんな山奥まで来て迷子はないでしょ」
僕は呟いて、ここから離れていく巨人たちの背中を見ていた。
恩を仇で返すがごとく、彼らは少女を案内し、ここから離れたところで、竜が彼らを捕まえて足止めをする、という算段になっている。
僕たちはその間に子どもたちの救出へと向かう。
監視がいなくなったおかげで、卵があるだろうプレハブに近づくのが簡単になった。
けれど、まだ油断はできない。
あのプレハブの中に、さらに巨人がいるはず。しかも、その人数は明らかになっていないんだ。
だから僕と少女は次の作戦のために、木々に身を隠しながらプレハブの建物に近づいた。
今のところ巨人には見つかっていないから、近づくのは容易だった。みんなロリっ子りゅうたんについて行ったからね。うぇ、我ながらに気持ち悪いネーミング……。
プレハブの外から、中の様子をうかがおうと窓を覗くと、いた。巨人たちが中心に集まって話をしていた。
窓越しなのでその内容までは聞こえない。しかし、集まった巨人たちは、一人の巨人を囲んでいるようだった。その巨人が見覚えのある人物であったことに安堵する、と同時に、不安になった。
「クイム……」
無事、だとは思う。だけど彼が危機的状況なことに変わりはなく、竜の子どもたちだけでなく、彼も助けなければならない。
「卵は……奥の方か」
『巨人、守る、卵。近づく、難しい』
「だから、君の力が必要なんだ。ちょっと危ないけれど、協力して」
『もちろん』
少女は頷くと立ち上がり、プレハブから離れていった。
離れていく彼女の後ろ姿を見守りながら、僕も移動を開始する。プレハブの壁を伝って、窓の反対側へ行くと、木の陰に身を潜ませた。
それから少しして、
――ガシャンッ!
「なんだ!? 窓が割れたぞ!」
「敵襲! 敵襲! ……って、おい。外で警備してたやつはどこに行ったんだ!?」
「っち……今は卵を守ることが先決だ! 行くぞ!」
プレハブにいた巨人たちが仲よく出て行くのを見守って、僕は木の陰から飛び出す。確かに団体行動は大切だと思うけど、巨人は頭が悪い。効率を考えないだけかもしれないけれど。
プレハブの中にはまだ二人の巨人がいた。でも、二人とも窓ガラスの方を向いていて、反対側にいる僕に気づいていない。ラッキー。
慎重に模擬刀を抜き、足音を潜ませて巨人の背後に近づくと、その頭めがけて振り下ろす!
「がっ!」
「なん……ぐあっ!?」
「ゴメンね。ま、君たちが悪いんだけどね」
気絶した巨人たちから視線をそらすと、プレハブの中を見回した。
中には何もなかった。ただ、卵を外から見つからないようにするためだけに建てられた……そんな雰囲気があった。
クイムはその殺風景な中、ぽつんと椅子に座らさせられていた。太い手首を鎖でグルグル巻きにされていて、彼は身体の自由を奪われていた。
「タグ……」
「助けに来た。さ、巨人たちが戻ってくる前に、卵持って逃げよう」
僕はクイムに話しかけながら、彼の手首に巻かれた鎖を外しにかかる。しかし、巨人たちの結んだ鎖は、その握力で握りつぶされて変形し、なかなか外れない。
「ちょっと待ってて……これ、どうやって外せばいいんだ?」
「タグ、オデのことはいい。だから、早く子どもたちを助けて逃げよ」
「そんなことできないよ。クイムを犠牲にして子どもたちを救うわけにはいかないよ。もう少し待って。絶対に外すから」
どこかにこの鎖を断ち切る方法はないかな?
斧があればそれで斬れるかもしれないけれど……やっぱりどこにもないか。
殺風景なだけに、探すのには手間取らないけれど……くそ。何もなさすぎる。斧も、さっき出て行った巨人たちが持っていったのかもしれない。
「タグ、オデのことは心配するな。だから、子どもたちを助けよ!」
彼も、自分の鎖を断ち切れないことを分かっているらしい。
でも、諦められるかよ。
僕は少女を守れなかった。
クイムのおかげであの、巨人たちに追い込まれたあの崖から抜け出すことが出来た。彼が自分を犠牲にして、僕たちを救ってくれたんだ!
その結果、彼が今の状況に陥って……それを救わないわけにはいかないだろ!




