2-14 『作戦』
なるほど!
確かに、そうすれば巨人たちを一網打尽だ!
「いやいや、無理だから。そんなハッピーエンドになるわけないから。人質とられていること忘れないで」
「ですから、私の子どもを穢すまえに、それを認識する前に、跡形もなく、攻撃されたと認識する余地もなく、一瞬のうちに消してしまうのです」
「もしあそこに子どもたちがいなかったとき、フリダシに戻ることになるよ。それに、別働隊の巨人たちがいたら、子どもたちに危害が及ぶよ」
「くっ……なら、どういたしましょう?」
「焦らず、確実に、だよ」
僕はうむと考え、巨人たちからどうやって子どもたちを救うかを竜に話した。
「まずは子どもたちを助けることを優先させよう。無駄な争いなんてしたくないし、それに、あの巨人たちに確実に勝てるとは思えないからね」
「そうですね。子どもたちを助けさえすれば、私は持てる力の限りを彼らにぶつけることが出来ますから。彼らの一族郎党一切合財を根絶やしにし、金輪際、私たち竜に関われないようにしてやりますよ。ふふっ、ふふふ……」
「……」
根絶やしにしたら、竜に会うこともないと思うんだけど、とは言えなかった。
目が怖いよ。
「ま、そういうわけだからさ、僕たちができることは二つ。巨人の目から逃れて子どもたちを助けるか、巨人たちの数を減らして、子どもたちを助けるか」
「待ってください。さっきは巨人たちと戦いたくないと申したではございませんか。なら、私たちが選べるのは、巨人の目から逃れて、という方法しかないのでは?」
「戦わなきゃいいんだよ。僕は強くないし、この子はもちろん、何もできない」
『なにも、できない、違う。やりたい、私、協力、したい』
少女はむぅと頬を膨らませて反抗してきたけれど、君を危険な目に遭わせるわけにはいかないでしょ! その表情すらかわいいんだから、そのかわいい顔を汚させたくないんだ!
『危険、承知。でも、私、無力、違う。何か、できる、はず。何か、できない?』
「……まあ、そこまで言うなら」
少女にできることがないわけじゃない。危ない目に遭わせたくはないけれど、この子がいたほうが作戦の成功率は上がる。
まあ、もしものことがあれば、僕が守ればいいだけだ。
絶対に守るから。
そう誓いを、心の中で立てると、僕は少女の頭をなでた。くすぐったそうにはにかむ少女は、自分が頼られた喜びを惜しげもなく表面に出していた。
ああ、かわいいなぁ!
君の顔に、僕の胸がどきどきするよ!
変態か、僕は。
『私、何でも、する。助ける、竜。私、理不尽、嫌い。だから、正しいこと、私、信じる、こと、何でも、する。頼って、お願い』
「うん。じゃあ、その前に確認しておきたいんだけどさ」
僕は竜に向いて言う。竜は首を傾げると姿勢をただした。
「なんでしょう? 無論、私にできることはなんでもいたします。私の子どもたちを助けるのですから、私が何もしないわけにはいきませんし」
「ちょっとした確認。君はどんなものにでも化けられるの?」
僕は街に現れた彼女の姿を思い出して訊ねた。あの時、目の前の竜は女性に化けていたけれど、ほかのものに化けられるなら、と思ったのだ。
「化ける、という言い方は少し違いますが、できなくはないです。なるものによって時間がかかるかもしれませんが。それが何か?」
「簡単に、早く化けることが出来るものって何があるの?」
「そうですね……ざっくり言えば、生物は構造が複雑なので時間がかかります。ですが、植物とかなら一瞬でも。まあ、生物が難しいとは言っても、竜に戻るのは一瞬ですが」
「そう。ならよかった。じゃあ、こんな作戦で行こう」
僕は頭の中にある可能性に期待し、それを話した。
「……い、いえ。反対はしませんが、そんな単純に引っかかってくれるでしょうか?」
「大丈夫だと思うよ。巨人は図体がでかいだけで、頭の中はほとんど空っぽみたいなものだし。すぐに騙されてくれると思う」
僕が知っている巨人はクイムだけだけど。
たった一人の知り合いを、しかも会って間もない彼を基準に考えるのは、どうも信用に足らないとは思った。
それでも今はクイムを基準に考えて行動しないと、僕たちが持っている巨人の情報が少なすぎる。僕たちの命綱は、クイムだというわけだ。
そのクイムも敵か味方か分からないまま。
味方だったなら、彼はどうしているのだろうか。
少女を崖から突き落としたのち、無事に生きているのだろうか。
いまの僕たちには、それを予想することしかできない。
無事を願おう。
そして、もし彼が生きたまま、捕まっていたとしたら、助けてあげないと。子どもたちと一緒に。
僕が立てた作戦を、訝りながらも、竜は認めてくれた。
「まあ、今はあなたを信頼しましょう。ですが、もし裏切ったりしたならば、あなたの一族郎党は――」
「いないよ。僕に家族なんて」
僕は自虐的に言い返し、竜に向けて笑いかけた。
「大丈夫。僕は裏切らない。僕があの街にいるのだって、神を殺すためなんだから。僕はどちらかと言うと、竜の味方だよ。神の味方なんて頼まれてもならないね」
「信じていますとも。ですからどうか……」
竜は頭を深々と下げて、
「子どもたちを助けてください。私の大事な大事な……唯一の心の支えを、どうか無事に助けてください。あなたを信用していますから」
「もちろん」
僕はそう答えて、巨人たちのいるほうへと顔を向けた。
木々が生い茂っていて、今は巨人たちの姿を見ることはできない。
頭の中にある最善の策を思い出して、僕は足を踏み出す。
絶対に、助けるから。




