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ゴッドキル・ザ・メサイア ~カミゴロシの救世主~  作者: 蒼露 ミレン
第二章 『竜と巨人とシカと』
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2-12 『何者』

「……これは……っ!」


「上出来です。それで、巨人を倒すことが出来るかもしれません」


 僕は、竜からもらった知恵に驚き、自分の両手を眺めた。しかし、そこには何も変化はない。


 僕は生唾を飲みこむ。

 変化はない……でも、ここに何かがある!


 竜に教えてもらった知恵……これさえあれば、巨人に勝てるかもしれない!


「さて。ではどうしましょう? 洞窟の外は雨で、私は飛べませんよ」


 竜の言う通り、外では雨が降ってきていた。それも土砂降りで、視界も悪い。


「うん……仕方ない。雨がやむまでここにいよう。子どもたちを救うのは少し遅くなりそうだけど仕方ない……」


「そうですね。ですが、仕方ないこととはいえ、はぁ。なんてもどかしい……早く、子どもたちに会いたい……」


 竜はどこか遠くを見ている風に言って、悲しみに涙をこぼした。


 ああ、彼女を救える言葉を持っていたら……。


 彼女をなぐさめる言葉を探していると、僕の隣で眠っていた少女が目を覚ました。


「ん……」


「起きた? 怪我とかない? 具合はどう?」


「……(こくり)」


 少女は眠気眼をこすりながら頷いた。

 よかった。

 外傷もなさそうだし。


 少女を突き落したクイムの行動は、たとえ味方とはいえども許しがたいものがあった。


 だから、少女が無事そうでよかった。


 僕はこの子を守るって誓ったしね。それなのに、味方かどうかは分からないけれど、不意を突かれて、少女を崖から突き落とされてしまった。


 そのおかげで僕たちは助かったけれど、もしあの時、竜がとっさに助けられず、本当に少女が落ちて行ったならと思うと……ぞっとする。


 少女は辺りを見回すと首を傾げて、メモ帳に何か書いて見せた。


『ここ、どこ?』


「ここは洞窟の中。大丈夫。あの巨人たちは倒せなかったけど、僕たちは助かったんだ」


『ありがとう。助けてくれて』


「……お礼はいいよ」

 

 君を守るって決めたんだから、お礼なんていい。

 守ったのは僕じゃないし。


 少女は安心したように微笑むと、外を眺めて、うー? と首を傾げた。

 洞窟の外を指さすと、少女はあーあーと何かを伝えようとしてくる。


 僕は彼女の伝えようとしていることを悟り、ああ、と頷いた。


「雨が降っているんだ。だから、雨がやむまでは、僕たちは動けない。こんな中、ここから出て行っても僕たちは何もできないしね」


「うぅ……」


 少女は僕を見て、困ったような表情になった。


 この子も、竜の子どもたちを助けたいんだ。でも、それが雨に阻まれてしまってもどかしく思っているのだろう。


『雨、やむ、待つ?』


「うん」


『いつまで、降るの?』


「それは僕には分からないなぁ。僕が雨を降らしているわけじゃないからね」


「あーうー!」


 不満たらたらに、少女は両手を上げて外に向かって吠えた。なんてほほえましい怒り方だろうか。


「あうぇ! あうぇ!」


「あの……この子は大丈夫なのですか?」


「何が?」


 不安げに少女を見つめる竜に問い返すと、竜は肩をすくませた。


「この子、舌の半分がないのでしょう?」


「よく気づいたね」


「分かりますとも。噂で聞きましたから」


「噂?」


 竜の間にそんな噂話をする仲があるのだろうか?


 あまり竜の業界を知らない僕は、その時は、そう思っただけだった。


「まあ、現状が無事なら何よりです。噂話もあてになりませんね」


「噂だからね。ちなみに、その噂ってどういうこと?」


 興味本位で訊ねると、竜は困ったように眉をひそめて、静かに首を振った。


「聞いていい話ではありません。人間が知るべき話でもありませんので、これだけは勘弁を」


「そんなたいそうな話なの? この子がそんな噂話されるなんて思えないけど……まあ、話したくないなら別にいいや……」


 でも、そんな噂話があるなら、この子の正体が分かるかもしれない。


 街に捨てられた舌を半分失った少女……。


 この竜は、この子のことを本当は知っているんじゃないか?


「……この子のこと、君は知らないの?」


 一か八か、教えてくれるかは分からないけれど、僕は訊ねる。竜は首を傾げた。


「どういうことです?」


「この子は捨てられていたんだ。僕が見つけたから無事だったけど……だから、僕はこの子のことを知らない。この子自身も、自分の名前すら知らないみたいだしね」


「そうですか……」


 竜は瞑目すると、少し考え込んだ。


「……知らないわけではありません」


「本当!?」


「ですが、あなたがそれを知る権利はないのです。この子が自分のことを忘れたならばなおさら。それは、この子が自分のことを忘れたいと願ったからでしょう。私があなたにそれを話してしまうのは、彼女が忘れようとしているつらい記憶を思い起こさせることになってしまうのです。ですから、まあ、ないとは思いますが、この子が自分で自分の記憶をよみがえらせたとき、直接訊いたほうがよろしいかと」


「……この子は何者なの?」


「さあ? ですが、今の彼女は何者でもないのでしょう。何かになることすら許されないでしょう。何かになろうとすれば、彼女の存在は……って、私は何を言おうとしているのでしょうか。ふふっ」


 ごまかされた、かな。


 竜はそれ以上、僕の話に答えるつもりはないのだろう。


 結局、この子のことは何も分からないってわけか……。


「あーっ、うーっ!」


 竜と会話している間も、少女は雨に向かって吠え続けていた。雨に何か伝えようとして、でもそれが伝わらないで自棄にいるかのようだった。


「どうしたの?」


 少女の肩をつかんで訊ねるも、少女は答えず、両手を振り上げて大声を上げるだけだった。


 土砂降りなので、外にその声が聞こえるとは思わないけど、もしここに僕たちがいることを、巨人たちが悟ったら大変だ。


 僕は少女をなだめようと、頭に手を置いた。


 その時。


――――【止め】――――


 頭の中で、ここにはいない誰かの声が聞こえた。


 しかし、その声を聞いたのは僕だけのようで、竜は何も反応を示さないし、少女も叫び続けるだけだった。


 そして、その誰かの声に従うように、土砂降りだった雨は、次第に落ち着いていき、数分と経たずに雨は止んだ。


「……どういうことだ?」


「どうやら、夕立か何か、そういうものだったらしいですね」


 竜は起き上がって翼を広げた。


「さあ、行きましょう。私の大切な子どもたちを、今一度、助けに参るのです」


「う、うん……」


 かろうじて、僕は答えることが出来た。でも、頭の中で響いたあの声が反響して、なかなか離れない。


 誰の声だったのだろうか。

 

 そして、その声に従うように、雨は止んだ。


 これって……どういうこと?


 疑問はたくさんあるけれど、いや。今はそんなことを考えている場合じゃない。


 今は子どもたちを助けることだけを考えるんだ。


 竜からもらった知恵が役立つかどうかは分からないけれど、そのおかげで、僕は巨人に対抗できるかもしれない。


 その希望にすがろうじゃないか。


「……よし、行こう」


「うーっ!」


 雨に向かって怒っていた少女は、今度は元気な笑顔で返事をした。


 彼女の手を握って、竜にまたがると、竜は翼を一つはばたかせて、洞窟の入り口まで軽く飛んだ。


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