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ゴッドキル・ザ・メサイア ~カミゴロシの救世主~  作者: 蒼露 ミレン
第二章 『竜と巨人とシカと』
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2-10 『異端』

 ここまで来た時には、木がなぎ倒されていて、分かりやすく道が出来ていた。だけど、崖の淵には木が生えておらず、からからに乾燥していた。足跡がついても、一度風が吹けば消えてしまいそうだ。


 足跡を追跡するのは不可能。


「……では、せめて臭いだけでも」


 そう言って、竜は地面に鼻を近づけた。臭いを数度嗅ぐと、困ったように顔をしかめた。


「臭いが……」


「ここにはないのか……」


『強い、風、吹く。すべて、飛んで、無くなる』


「確かに、ここは風が強いな……」


 崖があるせいだろうか。風が一か所に集まって塊となり、その一団が一気に押し寄せてくるような感じ。他のところで風が吹きにくいのは、風がここに集まっているからだろう。


 手がかりはすべて風に流された。


 詰んだ。


 その時、風に混ざってヒュッと何かが飛んできた。


 振り返りざまに、僕は模擬刀をふるう。


 飛んできたものは模擬刀に阻まれ、キンッと音を立てて地面に刺さった。


 弓矢だ。


 その狙いが、明らかに少女に向いていた! 


「くそっ……」


 呻き、少女の前へ出る。弓矢だから、辺りを見回しても、狙撃手の顔を見ることはできない。よりにもよって、一番小さな子を狙うとは……許せねぇ。


 飛んできた方向からして、狙撃手は高い位置にいることが分かる。木の上にでも上っているのかな。サルにでもなりたいのかな?


 狙撃手を探してきょろきょろしていると、ぞろぞろと、僕たちの通ってきた道から、次々に人が現れた。それも、どれも大きい……巨人族ご一行だ。


 僕たちは、全く気付かない間に、巨人族に囲まれてしまっていた。


「くははっ! まんまと騙されやがって!」


 その時、巨人の中から一際線の細い男が嗤った。


「騙された……ってことは、卵を盗んだのは、お前らだって考えていいんだよな?」


「それ以外に何がある? 小さき者」線の細い男の隣の、大柄な巨人が落ち着き払って言う。「そして、貴様に何の関係があるというのだ?」


「あんたたちのせいで、僕は疑われているからね。早いとこ、卵を返してもらわないと、いつまでも僕が……いや、僕たちが犯人扱いされなければいけなくなるんだ」


「人間は信用できませんから。そして、私はこの場にいる者すべてを許さない」


 竜が激情を瞳に宿して言うと、巨人たちは笑った。


「許さない? なら、我らをどうしようというのだ?」


「殺します」


「それはできんな。貴様の大切な大切な子どもは、我らの手にある」


「外道が……っ!」


「卵を盗んだ時点で、それも承知の上。否定しないよ」


線の細い男が言うと、竜は姿勢を正した。ただ、その瞳に宿る激情は変わらない。


「なら、問いましょう。私の子どもを奪って、あなたたちは、何をするつもりですか?」


「自分で考えなよ。自分の子どもがどうなるかくらい」


「じゃあ、僕たちはなんで、ここで待ち伏せさせられていたの?」


「待ち伏せ? 別に、貴様など待っておらんわ。ただ、竜は我らの邪魔ゆえ、ここで排除するがよしと考えたまでだ」


「っはは! 巨人ごときが、竜に勝てるとでも? 神と同等の力……いや、それ以上の力を宿す竜に、ただの巨人が勝てるわけないでしょう?」


「勝てるさ。こっちには卵がある」


「それが目的か……ッ!」


「いかにもいかにも! その通りでごわす!」一番の巨漢が、両手の花を食べながら言う。「竜を倒し、おらたちの主に認めてもらうだべ!」


「主?」


「主だ! 主だ! おらだちをすぐってくださった、主様でごわすわ!」


「……神、ですか」


 神?


 なぜ、そこで神が出てくるのか、僕には分からなかったけれど、巨人たちはいかにもその通り、という風に笑った。


「ああ、偉大なる神よ!」大柄の巨人が叫ぶように天に向かって吠える。「あなた様の命を受け、我らは悪しき竜を、今一度制裁いたしましょう! ですから、どうか我らに救済を!」


「狂信者どもが、私に勝てると思って……」


 竜が言おうとして、現状を悟り、己の不利を知ると黙ってしまった。現状では、明らかに不利なのはこちらだ。


 奥歯をかみしめ、小刻みに震え、その衝撃で、地面が揺れる。


 それは、竜が人間とは全く別の、異次元の力を宿しているという証拠。


 しかし、その力を以ってしても、目の前の巨人を殴ることどころか、触ることすらできない。


 僕がこいつらと戦っても意味はない。こいつらにとって、僕はすでに竜の味方なんだ。僕がほんの少しアクションを起こすだけでも、こいつらは子どもを殺す。


 ここは逃げるしか……いや、僕たちは囲まれている。背後には崖があるし、竜なら空を飛べるけど、巨人たちとの邂逅で、弓矢が使われていることは分かっている。飛び上がろうとしても無駄だ。


 逃げることはできない。


 このクズどもを殴ることすらできない。


 くそ……なんて僕は無力なんだ。


 竜が今にも泣きそうな表情で、でも、必死に泣かまいと、拳を握りしめる姿が、目に焼きつく。


 自分の命より大切な子どもが人質にされて、そして、自分の命も狙われていて、天秤にすらかけられない状況を悟り、それでもなお、子どもたちを救うことを諦めていない。


 これは天秤にすらかけられていないんだ。


 竜が殺されれば、子どもたちも殺される。


 ただ、その順序を決める判断を、任されているだけに過ぎない。


 反抗して、子どもたちを先に殺されるか。

 反抗せず、自分が先に殺されるか……。


「さあ、竜よ! 我が主の命により、我が主のため、我らのため、我らが世界のために、その忌まわしき姿を、存在を、永久に消え去れいッ!!」


 巨人たちが一斉に剣を抜き放つ。


 二十人以上の巨人が、ゆっくり、ゆっくりと、竜を追い込むように迫ってくる。


 後ずさりしようにも、背後は崖。僕たちは追い込まれて、何もできない。


「子どもたちよ……子どもたちよ……」


 竜が涙をこぼして、ここにはいない子どもたちを呼ぶ。しかし、帰ってくるのはザッ、ザッという、息の合った足音だった。


「ふはははっ! 制裁だ、制裁だッ!!」


 そして、一気に巨人は走り出した!


 僕は模擬刀を巨人たちに向かってふるった。しかし、その巨躯とは裏腹に、巨人たちの動きは軽く、あっさりと避けられてしまう。


 僕の目の前に二人の巨人が立ち止まり、残りの巨人たちが、竜へ向かった。抵抗しない竜に、ためらいもなく、巨人たちは剣を振り下ろす!


「ギァァッァァァァァァァッッ!!」


 痛みで叫ぶ竜に、何度も何度も、巨人たちは剣を振り下ろした。助けに行こうとした僕に向かって、二人の巨人が剣を振り下ろす。


 剣を避けると、振り下ろされた剣はそのまま地面を穿った。僕の身長ほどある剣だから、とても防ぐことなんてできない。


 模擬刀を闇雲に振り回して見せても、全く当たらない。


 そうやっている間にも、竜は泣き叫び、抵抗しようとして向いた牙を、何とか収めて……子どもたちのために、必死に戦っていた。


「くっそ……ふざけんな……」


「ふはは! 何がだ、異端者よ! 神を信じず、竜に味方する貴様は、すでに異端者として、処刑されることは確定ぞ!」


「何が神だ……あんなもの、全部違うんだよ」


 僕は、拳を握りしめて、言う。


「神は何も救わない。神は、残酷な試練を残して、自分たちがそれを見て楽しむためだけに、人間をおもちゃにしているんだよ。お前らだって、その神に遊ばれているにすぎねぇんだよ。竜と敵対してる? なら、自分たちで戦えよ。人間に頼るなよ。全部人任せだ。そうやって人間が争うのを見て、神は悦楽にふけるんだよ」


「神を愚弄するか! 貴様はやはり異端だ!」


「ははっ。それでいいよ。神にすがることしかできないような弱虫に僕は成り下がるつもりはないし、僕はそんな神どもよりも、この、子ども思いの竜のほうが、ずっと好きだ。だから……」


 僕は剣を構えなおし、目の前の二人の巨人を睨み上げながら、宣言する。


「僕は竜の味方だ」


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