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ゴッドキル・ザ・メサイア ~カミゴロシの救世主~  作者: 蒼露 ミレン
第二章 『竜と巨人とシカと』
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2-9 『追跡』

まさか二日続けて竜の巣に来るとは思っていなかった。


だけど、昨日と違って、僕は張り切っていた。


いや、別に濡れ衣を着せられたからじゃないから。

確かにそれも理由の一つに入るけど、それを除いたとしても、僕は守りたいものがあるからだよ。気を抜いてしまうと、いざ敵に襲われたときに守り切れない。


 要は、僕はそれほどに怯えているだけ。


「僕ならできる。僕ならできる。僕ならできる。僕なら(以下略)」


「なんて情けないのでしょう。そこまで警戒しなくてもいいのです。何しろ、私は私の子どもたちを思って、安全で快適な場所を住処に選んだのですから!」


「それって竜の基準でしょ?」


「はい。もちろん。ずばり、人間には適しておりません!」


「それじゃあダメじゃんか!」


「いかにも」


「いかにもじゃねえよ! 僕たち危ないじゃないか!?」


「いかにも」


「いかにもじゃないよ! 子どもたち助ける僕たちが助けられることになるじゃんか!」


「いかにも」


「いかにもじゃないよ! って、その台詞また続けるつもり?」


「いかにも」


「……」


「なぜ何も言ってくれぬ!? 寂しいではないか!」


「知るか! いいから、早いとこ見つけよう」


 でないと、獣がこっちを見ている気配がするんだよ! 最近になって、やっとその気配を探れるようになったけど、怖いなぁ、これ。


 師匠が前に言っていたけど、これを日常的に察しているのだとすれば、確かに騎士は人間じゃない。

 みんな眠っている間にも動きたくなるね、ここまで居心地悪いと。

 僕もそうして夢遊病に……。


 僕が騎士の気持ちを分かってあげている間に、竜の巣にたどり着く。


 湖畔の中心で隆起した小島の上には、確かに昨日あったはずの卵がなくなっている。


 竜が気づかない間に孵化してどこかへいったのかもしれないけれど、近づいてみると、卵の欠片すらもない。だから、卵は卵のまま、どこかへと消えていった可能性がある。


 それが人間の手で行われたことなのかどうかは分からないけれど、少なくとも、竜は僕たちを怪しんでいる。


「人間の臭いがするのです」


 竜は卵のあった場所に鼻を近づけて、そう言った。竜の嗅覚は、犬には劣るけど、人間よりは鋭い。だから、臭いがあるのは分かっても、追跡はできない。


「私は、竜の中でも嗅覚が弱いほうなので、これが誰のものなのかは特定できません。ただ、昨日私が会ったのは、あなた方二人だけ。そして、私と出会ったことのある人物も、両手で数えられるほどしかおりません。それも、昨日を除けば、その前に会ったのは百年以上前のこと。人間の寿命では、無理ですよね?」


「まあ、確かに……でも、あなたに会っていないだけで、この場所は知っている人はいるはずでしょ? 現に、クイムは知っていたわけだし」


「オデはあの宝石商のお客人に聞いたまで。それまでは、オデもこの場所は知らぬ」


「じゃあ、昨日の宝石商が怪しいってことになるけれど……」


「ここに来られるなら、わざわざ他人には頼まぬだろうな。もしくは、自分の顔を見られるわけにはいかなかった、ということだろうか」


「うん。僕たちに濡れ衣を着せるためっていうことにも考えられるね」


 だからといって、あの宝石商の女性が犯人だとは思えない。証拠もないし、大人の大きさもある卵を、彼女が持てるわけがないんだ。


 あの大きさの卵を持てるとすれば、男だ。


 何人か仲間がいれば、話は別だけど。それならそれで、顔を明かしてもいいような気がする。むしろ、そのほうが怪しまれなくて済んだかもしれない。竜だって、自分の子どもが彼女の華奢な体で持てないことくらい分かるはずだし。


「……ま、考えても仕方ないよ。とりあえず、手がかりだけでも探そう」


「いや、闇雲に探していても無駄だ。オデは一旦、街へ帰ろう」


「え……?」


 クイムの提案に、僕は目を丸くする。


 だって、クイムに手伝ってもらおうとしたのは、その巨体を生かせばすぐに見つかるんじゃないかって思ったからだ。


 なのに、クイムが街へ帰るだなんて……。


「街へ帰って、何をするの?」


「情報収集だ。まずは、昨日の客人について調べることにしよう」


「なら、僕が行くよ」


 そのほうが、効率がいい。


 だけど、クイムは首を振る。


「それはいかん。タグは街の民から目の敵にされておるではないか」


「う……確かに……」


 あの人たちなら、僕の話を一切聞いてくれないだろう。僕が街へ戻って情報収集はできない。


 少女は話すことが出来ないから無理。


 竜は、まず行ってくれないだろう。


「――というわけで、オデが戻ろう。なに、心配せずともすぐに戻る」


「うん。じゃあ、よろしく」


「ああ」


 クイムは二カッと笑うと、踵を返して、元来た道を辿って行った。


 残された二人プラス一匹は、さてどうしたものかと頭を悩ませる。


「……ま、何より手がかりを探すことが先決かな」


「手がかり、と申しましても、何を見つければいいのです? 私は子どもたちがいなくなってすぐに探しましたが、どこにも何もございませんよ」


「用心深い犯人だな。でも、完璧ってこの世にはないんだよ」


『あなた、みたいに?』


「酷い……」


 いや、確かに否定できないけどさ。


 でも、聖人君子だって間違いを犯すし、国だって間違いだらけじゃん? 完璧なものなんてないんだよ。マスクだって、完璧に感染を予防できるわけじゃない。何さ九十九・九%予防って。あと0・一%がんばれよ!


 話は逸れたけど、僕が言いたいのは、完璧なんてないってことだけ。


 どこかに犯人につながる手がかりがあるはず。よく見れば、何か手がかりがあるかもしれないんだ。


「ありました。犯人の足跡」


「よく見なくてもあった!?」


 竜が指さすほうへ向かうと、確かに、人間の足跡らしきものがあった。少しくぼんでいて、そこだけ草が潰れていた。


 ただ、その大きさは僕よりもずっと大きい。たぶん、クイムくらいはある。


 しかし、クイムはここまで歩いてきてはいなかったので、これはクイムの足じゃない。だとすれば、犯人は巨人族、ということになる。


 ……戦いたくないなぁ。


 あのごつい腕で殴られた日には、僕の体は粉微塵と化すだろう。剣で受けても、折れてしまうかもしれない。


 クイムという巨人を見ているので、いざ戦ったときのシミュレーションができ、その結果、僕の敗北だけが残るという残念な発想しかできなかった。


 ……負けないよね?


 犯人はおそらく巨人。でも、まだ戦うかどうかだなんて分からないじゃないか!


 僕は戦わないほうを願いつつ、その足跡を追うことにした。


 足跡は、湖畔から離れていき、森の中を突っ切って行っていた。道なき道を通ったそうだけど、木々が邪魔だったらしく、雑駁になぎ倒されていた。


 ここまで目立つ足跡を残してくれた犯人は、まっすぐにしか進んでいないようだった。計画されたものだったのか、されていないものだったのか、それは分からないけれどね。


 僕は少女の手を強く握る。オオカミの鳴き声が聞こえたからだ。


 オオカミもいる、この危険な道を通って行くとは、犯人もなかなか度胸がある。それほど腕に自信があるのだろうか?


 やがてまっすぐに続いていた足跡は途絶え、その向こうに崖が見えた。


 二十メートルはある崖だった。崖の下には勢いのある川が流れていて、落ちたら大変なことになるのは一目瞭然だった。


 しかし、そこで足跡は途絶えているのだ。


「……どういうことだ?」


「ここから飛び降りるなら、かなりの度胸のある人物とお見受けいたしますわ。ですが、その可能性はまずないでしょう。こんなところから飛び降りれば、ただの怪我で済むはずがありませんから」


 それに、と竜は口を噤む。


 彼女が言いたいのは、考えたくない可能性だったからだろう。


――もし、ここから飛び降りたなら、子どもたちは決して無事ではない、という可能性……。


 僕だって、その可能性を信じたくない。だから言わなかった。


「なら、足跡はどこに?」


 僕は再度、辺りを見回してみた。


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