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ゴッドキル・ザ・メサイア ~カミゴロシの救世主~  作者: 蒼露 ミレン
第二章 『竜と巨人とシカと』
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2-8 『濡衣』

「え……?」


 突然、この竜は何を言い出すのだろうか?


 竜はつかんでいた手を放すと、両手で顔を覆って泣き崩れてしまった。


「うっ……ううっ……人間を信じた私がバカでした。あそこまで来たなら、殺してでも追い帰すべきだったのです……」


「いや、殺したら追い帰せないでしょ?」


「なら土に還すまでです。なんなら、この街ごと土に還して差し上げましょうか?」


「え、遠慮しときます」


 竜とは、そこまで力を持っている者なのだろうか?


 確かに、竜と神が昔から争っていて、竜も神同様の力を持っていると聞いたことがある。


 目の前の竜がそこまで力を持っているとは思えなかったけれど、こうして、竜が人間の姿をしているのを見ると、それも否定できないなぁ……。


 まあ、神は人間の中に入ってくるんだけど。


 何、その寄生虫。


 早く退治してあげなくちゃ!(使命感)


 うーん……とは言っても、彼女に何があったのか、僕は知らないし、当然、彼女に何かしたというわけでもない。いや、彼女の話を聞いている限り、彼女と言うよりも彼女の子どもたち、かな。


 どちらにせよ、僕は何もしていないんだけど……。


 濡れ衣を着せられるのは嫌だったから、僕は彼女の話を聞くことにした。


「何があったの?」


「とぼけないで! さあ、私から奪った……いえ、盗んだ、子どもたちを返してっ!!」


「盗んだ……って、あの卵がなくなっちゃったってこと?」


「そうよ! でも、私はあなたたち二人以外、あの場にいたのを見ていないのですよ!? なら、あなたたちが犯人で間違いありません! さあ、返して! 私の命よりも生活よりも子どもよりも大切な子どもたちをォォォォォォっ!!」


「待って! 慌てすぎておかしいことになっちゃってるよ!?」


 落ち着いて話してもらえなければ、僕も対処のし甲斐がないんだけど……。


 これが子どもをなくした親の姿っていうやつか……。

 僕も妹を亡くして、こうなっているのかな?

 その事実に気づかない間に、僕も……。


 ……って、そんな話じゃないよ。


 このまま誤解を抱かれていても困る。事実、僕は彼女の子どもたちのことなんて知らないし、狙う理由も、心当たりもない。


 僕は街の人々から目の敵にされているから、僕を困らせようとしているのかな?

 いや、そんな人間があの場で師匠に剣を挑まないわけがない。そして、僕を恨むわけもない。

 意気地のない奴が竜の卵を盗むとは思えないしね。


 今回の件は、そのことと関係ないと思っていい。


 じゃあ、なんで卵は狙われたのだろうか。


 盗賊かな。だとすれば、僕はオオカミよりもさらに厄介なものを相手に戦わないといけなくなる。


 まだ師匠には、ちゃんと剣を教えてもらってない。


 型も何も分からないまま、実力も未知数な相手……いや、まだ戦うとは決まっていないけれど、それが不安なことには変わりはない。


「認めないつもりですか?」


 竜は、何も言わない僕を睨み付けて、低い声で言った。無論、僕はそんなことを認めるつもりはない。

 ただ、心配しないわけでもない……。


「僕はやってないよ。でも……卵を探す手伝いくらいはできるよ」


「ははっ! 人間と一緒に私の大切な大切な子どもたちを探すだなんて! 私の子どもたちにもしものことがあっては、親失格です!」


「でも、人手はいたほうがいいと思うよ? それに、僕だって濡れ衣を着せられて、そのままっていうわけにも、ね」


「……ふん」


「それに、早く見つけたほうが子どもたちのためだと思うよ」


「……」


 竜は考え込む。


 彼女は分かってくれると思う。


 どこにいるかも分からない子どもたちを探すのは、一匹の竜だけでは無理なんだ。何の手がかりもなく、ただ闇雲に探していても時間の無駄になるだけ。


 人間を信用できないとしても、人手があったほうが早く見つかるだろうし、それに、早く見つけてあげることこそ、親の役目と言うものではないだろうか?


 親になったことのない僕が言っても仕方ないことだけど。


「……分かりました。ですが、もし、明日の明朝までに見つからなければ、あなたを土に還して差し上げましょう。責任を、その小さく愚かで汚らしい命で償ってもらいます」


「たとえ小さくとも愚かでも汚らしくても、重い命であることは変わりないんだけどなぁ……」


 竜にとっての人間の価値観が分かる一言に、僕が軽くショックを受けていると、背後から足音が聞こえた。一歩進むごとにズドン、ズドンと地面を揺らす足音……僕が知っている限り、当てはまる人物は一人しかいない。


 振り返ると、僕の視界は壁に遮られた。


「どうかしたのか? お客人よ」


「いや、今話がついたところだよ、クイム」


「まだ終わっていませんわ」


「確かにそうだけど……というより、まだこれからだった……」


「? 何の話かよく分からぬが、オデに何かできることはないだろうか?」


「いや……これは僕と彼女の問だ――」


 いや、待てよ。


 クイムの巨体を見上げて、僕は考える。


 もし、クイムが手伝ってくれるなら、子どもたちも早く見つかるかもしれない。

 空を飛べる竜がいるけれど、背が高いクイムなら、僕よりは遠くを見渡せられるはずだ。


 一応、クイムも容疑者の一人だし。


 今もなお、竜はクイムを睨み付けていることだし、ちょうどいいかもしれない。


 一つ頷き、僕はクイムに人間の恰好をした竜のこと、竜の大切な卵たちがどこかへと消えたこと、僕たちにその容疑がかかっていることを話した。


 クイムは驚いたように竜を見下ろして、ふむと顎に手をやって考え始める。


「そうか……念のため、言っておこう。オデもタグも、お主の子どもたちを盗んではおらん。そして、その心当たりも、残念ながらない。だが、オデも手伝おうぞ! このまま濡れ衣を着せられていてはたまらぬ!」 


『私、行く』


 クイムに続いて、いつの間にか僕の目の前に立っていた少女が、メモ帳を見せつけてきた。近づけすぎて、最初は読めないのはいつものこと。


「でも……危ないよ。君はここにいるべきだよ」


『あの、ギャング、とこ?』


「あ……」


 どちらにしろ危ない。


 この子があの人に悪影響を及ぼされるわけにはいかないし……でも、街の外に出て行くのは危ないんじゃないかな? 


 二者択一。どちらも危険が伴う。


 どうすればこの子を安全な場所においておけるだろうか!

 

 悩む僕に、少女は再びメモ帳に何か書いて見せた。


『危険、なら、あなた、私、守る』


「な、なるほど……でも、僕は剣を使えないし、危ないことが起きても対処できない。君を守ることが出来るかどうか……」


『私、信じる』


「信じるっていっても……」


「んーっ!」

 少女は何か言いたげに、同じ言葉が書かれたページを見せ続けてきた。

『私、信じる』


「信じる、か……」


『あなた、私、守れる。だって、あなた、目的、強くなる、こと。毎日、頑張る、あなた、私、知っている。だから、信じる。あなた、私、守れる。絶対』


「絶対?」


『絶対』


「……」


 それでも僕は……悩む。


 少女は信じてくれている。たとえ強くなくても、僕なら自分を守れると、彼女は信じてくれている。


 僕はその期待に応えてあげなければならない。


 ……できるか?


 相手の正体は分からない。もしかすると、人間ですらないのかもしれないんだ。集団かもしれないし、単体かもしれない。


 僕は、少し前までオオカミにすら負けていたんだ。

 今はどうかわからないけど……いや、今もオオカミに勝てることはないだろう。


 それなのに、僕は少女を守れるだろうか?


 街の人々の視線が痛いのも、みんな、僕が弱いって、それなのにあの場で無謀な戦いを挑んで、さっさと負けて……それがバカらしくて、でもそれをバカにできない自分たちがいて……だからああして、僕みたいな弱い奴を貶して自分を守っているんだ。


 僕は弱い。


 けれど……この街の人たちよりは強い、はず。


 それは実力じゃなくて、ただの思い込み。 


 力じゃなくて、気持ちの問題。


 ……できるか?


 少女を守ることが出来るか?


 いや、できるかどうかじゃないな。


「――じゃあ、やってみよう」


「……」


 少女は柔らかく笑って、メモ帳に何やら書いた。


『よろしく、お願いします』


「もちろん。絶対守るから」


 君は、僕が守れなかったものの代わりなのかもしれない。


 それでも、ここ数日、一緒に過ごして、君はそれ以上に大切なもののような気がしてきたんだ。


 君は、僕にとってかけがえのない、何より大切なものになったんだ。


 だから守ろう。


 絶対に、この大切な宝石は、誰にも渡さない。壊させない。


 まあ、最悪の場合、僕が身を呈して彼女を守ってあげればいいだけなんだ。それだけは避けたいから、やっぱり、僕は強くなりたいわけなんだけど。


「よし、じゃあ、行こう」


「うむ」


「なぜ、あなたが仕切るのですか? 私の住処ですよ?」


「うーっ!」


 不満げな竜をさておいて、僕らは街を出て行った。


 もう、嫌な視線も気にならなくなってきた。


 それは、隣にいる少女が僕を認めてくれたからかもしれない。


 この子さえいれば、僕は僕であり続けられる。


 そう思うんだ。


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