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ゴッドキル・ザ・メサイア ~カミゴロシの救世主~  作者: 蒼露 ミレン
第二章 『竜と巨人とシカと』
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2-5 『飛竜』

「仕事……」


「わはは! 目覚めたか! 目覚めてすぐなのは不幸なことだが、なに、案ずるな。オデもともに向かおう」


「向かう? って、どこに?」


「行きながらクイムに説明してもらえ。俺はここで客人の相手をしなきゃぁいけねぇ」


 ただ自分がサボりたいだけだろ、とはもちろん言えず、僕は素直に頷いた。クイムと共に小屋を出ると、人の視線が鋭く突き刺さる雑踏を物憂げに歩き始めた。


「なんだ、人の視線がいつも以上にこちらに向いておるな」


「……気にしなくていいよ」


 たぶんね。

 でも、そうじゃないと、このままじゃ精神的にやられてしまいそうな気がする。

 だから気にしないでおこう。うん。


 僕は歩くたびにこちらを見てひそひそ話をしている人々の脇をすり抜けて、クイム先導の下、街を出た。というより、クイムが盾になっていて、人が避ける避ける。モーゼの背後で村人Aになった気分!


 街は森に囲まれた盆地にあったらしい。

 街を出ると、森と田畑くらいしかなく、人の姿は旅人や商人くらいのものだった。その数も少ないから、街の中よりだいぶ歩きやすい。まだ噂を聞いていないおかげか、視線も普通だし。


 ただ、森に入ると、そこらで生物の鳴き声が聞こえて、いつ襲われるのだろうかとびくびくしないといけなくなった。街にくる直前の出来事が、いまやかなりのトラウマになっているようだった。


「――で、僕たちは何をするの?」


 街からだいぶ離れ、森の道を進んでいきながら、僕はクイムに訊ねる。前を走ってきた馬車を避けながら、クイムはそうか話していなかったな、と思い出したかのように頷いた。


「先日言ったとおり、オデらの仕事は、万屋も同然だ。今日、来ていたあの女性……彼女は街でも有名な宝石商でな。その宝石が、とんでもなく珍しいものらしいのだが、珍しく、高いのと引き換えに、かなり危険な場所にある。そこで、オデらはその宝石を取るために、その採掘場所へ向かっているのだ」


「宝石を取るために僕らは遣わされるのか……」


 それも危ない場所にある宝石。もしかすると、その宝石も採取禁止的な危ないものだったりするかもしれない。


 僕たちのリーダーがあんな危なそうな顔をしているせいか、類は友を呼ぶというか、朱交われば赤くなるというか……まあとにかく、僕らはエーレンティカさんの下へ来た依頼によって、危ない目に遭わされそうな気がする。


 それはきっと気のせいなんかじゃないから、なおさら恐ろしい。


 事実、僕は目の前の光景に、酷く不安感を覚え、額に汗を流した。


 辿り着いた場所は、滝だった。勢いよく流れる水が重力に従って落ち、穿った地面に大きな湖畔を作りだしていた。ゴゴゴという轟音と共に流れる水の一部が、遥か高くで水蒸気と化して、辺りにもうもうと霧をたちこませていた。


 それだけなら、ただの滝で済む。


 が、ただの滝ではないことがすぐに分かる。


「見ての通りだ。ここには、飛竜の巣がある」


 湖畔の中心に隆起した岩の上で、大人の人間ほどの大きさのある卵が孵化するのをじっと待っていた。そして時折、膜を張ったような翼を広げた竜が舞い降り、我が子の様子を見ては再び上空へ飛び上がる、というのを繰り返している。


「……まさか、あの中心にあるの?」


「いかにも」


「いかにもじゃねぇよ。絶対とれねぇよ。まさか、その宝石って、飛竜の鱗とか、そういう類の物?」


「いかにも」


「いかにもじゃねぇよ。それって、危険を冒してあそこへ行ってもないかもしれないってことじゃんか」


「いかにも」


「いかにもじゃねえよ。何回繰り返すんだよ、この会話っ!?」


 同じ言葉を壊れたラジオよろしく言うクイムに叫ぶように言うと、はるか上空から、甲高い鳴き声が聞こえて、僕はビクッと身を震わせた。


 恐れる僕をしり目に、クイムは笑う。


「がはは! 心配せずとも、奴らは盲目! オデらの相手ではない!」


「いや、思いっきりこっち見てるけど。『やった! ごちそうだ!』みたいな顔でこっち見て涎垂らしてるけど!?」


――ギィィィィィイイィッッ!!


 大きく口を開けて、飛竜は哭く。


 ……絶対無理だ。


「わはは! 威勢のいい飛竜だ! さあ、大人しく、オデらに貴様の鱗を差し出すのだッ!」


「交渉できる相手じゃないよ!」


 それに、こちらが威勢がいいって言うなら、向こうだって『生きがいい』とか思っているはずでしょ!?


 飛竜は翼をはばたかせると、一気に滑空して、僕たちの目の前まで下りてきた。


「うわっ! 来たッ!!」


「案ずるではない! ここはオデが守る。だから先に行け!!」


「なんでここで死亡フラグ建てるの!? 不吉すぎるわ!!」


 そうこうしている間にも、飛竜は僕たちの目の前へ着地する。


 飛竜は僕らを品定めするように見下ろし、やがて身体を前へ傾かせた。


 く、喰われる!!


 とっさに、僕は模擬刀を抜き放ち、構えた。


 飛竜は僕の姿を視認すると同時に、一つ翼をはばたかせて、風を起こした。


 吹き飛ばされそうになるのをこらえるために、地面に模擬刀を突き刺したとき、飛竜が鳴いた。


「ゆゆゆゆゆ許してください!! 子どもは……子どもの命だけはご勘弁をぉぉぉぉぉぉッッ!!」


「……え?」


 飛竜は、泣いた。


 土下座して。


 ていうか、しゃべれるのかよ!?


「お願いします! 何でもいたしますから!! 子どもの命だけは……あ、あと私の命も、あ、あと、ここらの環境を変えることも勘弁してください!! あと、食糧だって取らないでくださいぃっぃぃ!!」


「図々しいな、おい!」


「ごめんなさい! すみません。何度だって頭を下げて謝りますから、どうか……どうか子どもの命だけは……あ、あと――」


「もういいよ! 大丈夫だから! 分かったから頭上げて!!」


 なんだこの竜は……。


 子どもが大事なのは分かるけど、度が過ぎてない?


 あと、子どもの命だけじゃないよね、それ。


 まあ、僕だって別に子どもの命を狙いに来たわけじゃない。この様子なら、こちらの話も聞いてくれるかもしれない。


 僕はクイムとアイコンタクトを取ると、頭を下げ続ける飛竜に言った。


「子どもの命は取らないから安心して。僕たちが欲しいのは、宝石だから。持ってない?」


「はい、持っておりますとも。それは我が子!! っは! やはりあなたたちは我が子を狙いに来たのですね!?」


「違うから!」


「違うのですね、違うのですね! 神に誓って、己の身に誓って、それが違うとおっしゃられるのですね!!」


「だからそうだって言ってるでしょ!?」


「はぁ、よかった……でも、残念ながら、私は宝石なんてもの、一つたりとも持っておりません。他をあたってくださいな」


「いや、オデらが欲しいのは、おぬしの鱗だ」


「鱗……っは! あなたたちは、こ、こんなか弱い飛竜に裸を見せろと申すのですか!? なんて外道!! 変態! 痴漢! 淫乱夫!」


 常に裸みたいなものだろ、お前ら……。


 そして、か弱くない。


 僕は口にしようとした言葉を呑みこんで、飛竜の説得を試みる。


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