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ゴッドキル・ザ・メサイア ~カミゴロシの救世主~  作者: 蒼露 ミレン
第二章 『竜と巨人とシカと』
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2-4 『羞恥』

『大丈夫?』


「大丈夫だよ……たぶん」

 

 メモ帳を差し出してきた少女に、僕は力なく答えた。


 あんな集団観衆のただなかで、僕はあっさり負けてしまったんだ! 恥ずかしい! 

 師匠と戦うのを避けていた人が大勢いたのに、僕は無謀にも彼女に勝負を挑んで……で、瞬殺って……恥ずかしすぎるだろ!


 瞬殺された僕は、ひとまず、師匠の部屋まで連れてこられた。僕の後を次いで、師匠と戦おうという人物が現れなかったので、剣舞は僕との一戦で終わった。


 兵士でもこの街の者でもなんでもない、ただの田舎者な僕は、街のそこらに作られた救護所を使うことが出来なかった。街の人たちが使うところなので、僕も文句は言わない。


 代わりに宛がわれたのが、師匠の部屋、というわけだ。


 気絶した僕を背負って、師匠がこの部屋まで連れてきてくれた。


 そして現在――意識を取り戻した僕は、半身を起こすと、ベッドの隣でパイプイスに座った少女に、メモ帳を見せられて慰められているのだった。


『落ち込む、必要、ない』


「落ち込んでなんかないよ。ただ……あんな大見得切ったくせに負けたから、恥ずかしいだけ……」


『恥ずかしい、必要、ない。あなた、立派』


「……そうかな?」


 少女は頷いて、あー、と声を出した。


『無謀、無策、無知……それでも、挑む、強者へ。それ、立派。強く、なる、願い、叶える、ため、挑む、立派。現状、抗わない、それ、違う。でも、あなた、抗う……要は、バカ』


「君は僕を励ましたいの? 貶したいの?」


 言うと、少女はむぅと目を閉じて考え出した。いや、そこは考えるところじゃないでしょ?


 答えを導き出した少女は、メモ帳に何やら書き始めた。


 その時、最後の仕事がある、と言って出ていた師匠が帰ってきた。はぅっと小さく悲鳴を上げた少女が慌ててメモ帳を隠して赤くなる。何を書いたのだろうか……。


「たぁだいまぁ! あ! タグ起きたんだぁ」


「すみません……あんな生意気言って……」


 師匠は鎧をガチャガチャ鳴らせながら近づいてきて、優しく微笑んだ。


「うぅん。あのときぃ、タグがちゃぁんと挑んできてくれぇたから、よかったよぉ。見直しぃた! さぁすがわぁたしの弟子ねぇ」


「それはどうも」


「まぁ、瞬殺だぁったのはどうかとおもぉうけどねぇ」


「うっ……返す言葉もありません……」


 少女は励ましてくれたけど、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。このまま街に出てみろ。ああ、今から笑い声が聞こえる。


 ……いや、その心配はしなくてもいいのかな。


 師匠が僕との剣舞の前で、観衆たちに言った言葉は、彼らに大きな衝撃を与えたことだろう。


 だから、陰で何かと言われることはあっても、面と向かって何か言ってくることはないと思う。


 ひとまずは安心かな。


 これも師匠のおかげなのだから、頭が下がる。


「さぁて、タグも起きたことだしぃ、わぁたしは公務に戻るわぁ」


「まだあるんですか?」


 あれほど広場で、兵士や強者をばったばたとなぎ倒していたくせに、師匠はまだまだ元気だなぁ……他人事のように思いながら、僕は訊ねた。


 師匠は疲れたように微笑んで、ふぅと息を吐いた。


「今の時期ぃ、騎士はぁ忙しいのよぉ。慰労祭の準備でぇねえ……」


「そう、ですか……」


 なら、僕はとんでもない時期に師匠に弟子入りしたんじゃないだろうか?

 忙しい時間の合間を縫ってまで、こんな田舎者の僕を師範してくれる師匠には、一生頭が上がらないだろう。


 しかし、師匠は気にしなくていいと手を振るのだ。


「だぁいじょうぶよ! 心配もぉ、遠慮もしなくてぇいいからねぇ。わぁたしがタグに教えたぁいからやっていることなんだぁしねぇ」


「……本当に、ありがとうございます」


「うんうん。人に感謝することはいいことよぉ。タグはぁ、きぃっといい騎士になれるからぁね」


「いや、僕は騎士になろうっていうわけじゃ……」


「たとえよぉ。騎士じゃなぅくたぁって、兵士でもいいわぁ。とにかく、タグはぁ、強くなれぇるからねぇ。わぁたしは信用してるわぁ」


「……その信用に、絶対応えますよ」


「信用じゃぁなくて期待よぉ」


 師匠はそう笑って言って、部屋を後にした。


 師匠の部屋に残された僕と少女は、少しの間、師匠がいなくなったことを寂しがっているかのように物思いにふけっていた。


 やがて、このまま沈黙を貫くのも、つまらないなぁ。僕は少女に訊ねた。


「そういえば、クイムはどこに行ったの? あの巨人の」


『タグ、運ぶ、それで、帰る。バイト、と、言っていた』


「エーレンティカさんのところか……」


 気を取り戻したので、僕は彼の下へいかなければならない。


 働かないと、いつまで経っても乾パン地獄。


 たまには、違うものとか、好きなものとかを食べたい。働かぬ者食うべからず。そして、働くほど、食事は美味しくなるものだ。


 師匠はいないけれど、少女はここに置いていくことにしよう。テントで何かあったらいけないし。あんな街の辺境じゃ、助けに行こうと思っても、相当時間がかかる。


 少女にその旨を伝えると、うんと頷いて、メモ帳に何やら書いて見せてきた。

 

『私、気にしなくて、いい。だから、行って』


「ごめん……できるだけ早く帰ってくるからさ、それまでここで待っててくれる?」


 少女は頷いて、柔らかく微笑んだ。


 少女のことは少し心配だったけれど、ここにいるなら、たぶん安全だ。僕は部屋を出ると、少し早足でエーレンティカさんのところへ向かった。


 相変わらずの雑踏の中で、僕に向かった視線が痛い。師匠との剣舞を見ていた観衆は大勢いたから、うわさが伝染していって、今や僕は、街の有名人!

 ぜんぜんうれしくないね!


 中には批判的な視線も交じっていて、歩くとわざと肩をぶつけられたりなんかもした。そこまで悪いことした覚えはないんだけど……。


 それでも、エーレンティカさんの小屋の近くまで来ると、人の気配はなくなっていって、やがて、人の存在すら消えてしまった。いるのは野良猫とカラスくらいなものだろう。


 念のため背後を確認して、誰もついてきていないことを確認すると、僕は小屋の扉を開けた。誰かがついてきていたら、また嫌なうわさが流れかねない。


 こんな人の少ない道だと、背後から襲われる可能性もないわけじゃない。ただでさえ人気のないこの道だ。助けの声も、雑踏の音でかき消されてしまう。なんて裏世界だ……。


 仕方ないことだけどね。


 所詮よそ者の僕に、働ける場所は残されていないんだ。だから贅沢は言えない。


 いまだに何をするのか分からない仕事だけど、何もしないで金がもらえるなら、それはそれでいい。


 今日もどうせ、仕事はないだろう。


 高をくくっていた僕は、エーレンティカさん座る机の前に、一人の女性がいることに気づいて、考えが甘かったことを思い知った。


「おい、新人。初仕事だ」


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