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ゴッドキル・ザ・メサイア ~カミゴロシの救世主~  作者: 蒼露 ミレン
第二章 『竜と巨人とシカと』
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2-1 『暇人』

 今朝の目覚めは、正直言って、悪かった。


 昨日、師匠に折られたと思っていた腕は、もう痛くもなんともない。

 でも……今日からでも修行が出来そうだったけれど、なんだか気分が乗らない。


 師匠の昨日の言葉を反芻してみると、やはり彼女は、進んで修行をしたいという風じゃないように感じた。


 しばらく修行は無理そうね――


「……こうなることが分かっていれば……僕は修行できたのに……っ!」


 早くカミゴロシをしたい。


 それをさせてくれない、師匠。

 そして、僕が守ると決めた少女だって、ひどいことを言う。


「僕は焦ってもないし、間違ってもいない。僕は正しいんだ。だってそうだろ? 僕は妹のためにここにいるんだから。妹の復讐のために、僕は剣の修行をしているんだから」


 それが違っていて、何が正しいっていうんだ。


 僕は、守れなかった彼女の最期の願いだろうことを叶えてあげたいだけなんだ。


 自分の中にいた神が原因で殺された、妹。


 きっと、その神を許せないはずなんだ!


 神さえいなければ、妹はもっと生きられた。


 僕の隣で、いつも笑顔でいられた!


 僕の嘘に気づかず、愛想笑いを振りまいて、みんなから愛されて生きたはずなんだ!


 そのすべての願いが……神によって断たれた。


 くそ……ふざけんなよ。


「……ま、こうして考えるのも無駄か。僕の考えは、誰が何と言おうとも変わるものじゃないし」


 だから、修行しよう。


 嫌な師匠でも、剣を教えてくれるなら、いや、教えてくれるかどうかも分からないけれど、僕は彼女に頼るしかないんだ。


 だから、今日も行こう。


 そして、得意の嘘で、今日を乗り切ろう。


 自分の感情すらだます嘘で、嫌なこと一つないっていう、幻想の表情で、彼女の下へ行き、その内彼女を追い越して、跪かせるのも悪くない。


 剣で、彼女を超えればいいだけの話。


 無理だとは思わない。


 無理だと思うなら、今、この時点でカミゴロシすらやめている。


 やめるべきじゃない。


 神は絶対に殺す。

 神は絶対に殺す。


 何度も何度も、僕は自分にそう言い聞かせて、やがて、ふぅと息を吐いた。


 その時、服の袖が引っ張られた。


『おはよう』


 振り返った僕に、少女はメモ帳を見せてきた。


「おはよう。よく眠れた?」


 社交辞令を述べると、少女は頷く。まあ、君がよく眠れたかどうかなんて、僕には関係のないこと。

 どうでもいいこと。


 僕を否定する君は……やっぱり妹とは違う。


 でも、どうしてか。僕は君を守りたい。


 それは、たぶん、妹と君を重ねたからだろう。

 守れなかった妹の代わり。

 君が僕の隣にいる理由はそれだけ。


 だから、カミゴロシさえ済ませてしまえば、君は――。


 ……。


「……さて、とりあえず朝食にするか。ていっても、乾パンしかないけど」


『大丈夫。味、感じない』


 そうだった。


 この子は舌がないから味を感じないんだった。


 僕はそっか、と言うと、乾パンを取り出して少女に渡した。小さな口で咀嚼する姿が、まるでリスのようで、僕は薄く笑った。


 乾パンを食べ終わると、出かける支度をして、テントを出る。念のため、少女も連れて行くつもりだった。

 この子を一人でこんなところにおいておけるわけないからね。


 街へ向かう小道を進み、街へ入ると、雑踏に呑みこまれそうになった。


「うわっ! 人多いな……」


 僕は少女の手をつかむと、はぐれないように身体を添わせた。人の波に逆らわないように進んでいき、やがて街で一番高い建物の前に到着する。


 その建物の最上階まで登っていくと、僕は扉をノックした。


 しかし、いつもならバスローブ姿でもお構いなしに出てくる家主が、いつまで経っても、何度ノックしても、出てこなかった。


 妙だと思った僕は、辺りを見回した。


 廊下には、高級そうな絨毯が敷かれているだけで、ほかには何も見当たらない。天井からつりさげられたシャンデリアの明りは眩しく、視線をそらした先に、師匠の部屋がある。


 その扉の隣に、一枚の紙が貼られていたのを発見し、僕は少し落胆する。


『たっだいま、公務ちゅぅ! ごよぉうの方は騎士館(ギルド)までっ!』


 騎士館……って、たしか、騎士を総合管轄してるとこだったな……。


 公務中だからそこに行けってことか。


 それよりも、手紙でもこの調子なのか、あの人。

 よく疲れないなぁ……。


 僕はため息を吐く。


 仕方がない。

 さすがに公務中だと、修行はできない。


 彼女は自分で僕の腕を折っていないと分かっていながら、公務に出かけたんだ。もしくは、その口実をつくるためにわざとやったか……。


 まあ、今になってみればどうでもいいことだけど。


 僕は踵を返すと、どうするか迷いながら、マンションを出た。


 すぐにエーレンティカのところに行くことも考えたけど、あまり行きたくない。というより、あのギャングに会いたくない。

 あの巨人もうるさいからなぁ……。


 …………。


 そんなことを思っていると、雑踏の向こうで一際目立つ身長の男がこちらに向かって歩いてきた。


 クイムだ。


 目立ちすぎだろ!

 

 そして彼は、僕の存在に気づくと、どすどすと地面を揺らしながら小走りで手を振りながらやってきた。


 おい、止めろ。


 巨漢の乙女か、お前はっ!!


「やあ! こんなとこで会うのは奇遇だ! わはは!」


「そ、そうだな……まさか、こんなとこで遭うなんてね……」


 本当にツいてない……。


 僕はポーカーフェイスで、彼に微笑みかけた。


 クイムはでかい図体を揺らして笑い、僕の隣にいた少女を見下ろして目を丸くした。


「おお、何だ。デートの最中か? なら、オデはすぐに退散しよう。ゆっくりこの街を探索するがいい! がはは!」


「いや、違うから。デートでも何でもないから」


 さっき用事がなくなったんだよ。


 だから暇人。

 暇人っていうな!


 自分で自分に突っ込む余裕すらある暇人な僕は、少女とのデートではないことを伝えたことを後悔した。 


「そうか! なら、今からこの街を探索するとしよう! なに、心配するな! オデが教えてやろうぞ! タグはまだこの街に来たばかりなのだろう!? なら、分からぬことも多いはず。オデならいろいろなことを知っているぞ!」


「そ、そう……ありがたいけど、これから用事が……」


「では行こう! この街は素晴らしいぞ! がはは!」


 聞いちゃいねぇ……。


 僕はあっけにとられる少女の手を握って、しぶしぶ彼について行くことにした。


 クイムが隣にいると、目立つ目立つ。騒音同然の大声で話しかけてくるから、人の批判する視線が突き刺さって痛い!


「この街はなぁ、もうすぐ祭りがあるのだ!」


「祭り?」


「ああ。『慰労祭(いろうさい)』と言ってだな、一週間あるのだ。明後日から一週間、この街をつくった神に感謝する催しなのだ!」


「……へぇ、そう」


「だからみな、今から張り切っておる。ほら、出店だって出ているだろう? そこらで音楽が奏でられているだろう? 開催は明後日だがな、みなその一週間を楽しみにしておる! がはは! 愉快はいいことぞ!」


「そうだね……」


 もしかすると、慰労祭で妹の仇が取れるんじゃないか?


 神に感謝する祭りなら、その神が現れたって不思議でもなんでもない。


 慰労祭で祀られるのが、僕の目的とする神なのかは分からないけれど、可能性はゼロじゃない。もし、奴なら……僕は必ず、神を殺す。


 僕はそう思って、「本当に、楽しみだね……」と、呟いた。



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