表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴッドキル・ザ・メサイア ~カミゴロシの救世主~  作者: 蒼露 ミレン
第一章 『舌のない少女→誘拐じゃないから!!』
17/66

1-16 『勝手』

「うわっ!?」


 僕の視界が、突如、机に遮られる。


 蹴飛ばされた机を避けると、振り下ろされた木刀を腕で防ぐ――が、


「そんなぁことしちゃぁ、腕がすっぱぁんだよぉ!」


――グギッ!


 腕が曲がるはずのない方向へ向かい、僕は悲鳴をあげそうになる。


 でも、ここに少女がいる……弱い姿を見せたくない!

 だから、叫ぶものかっ!


「このっ……!」


 腰に提げていた模擬刀を抜き、師匠に向かって振り上げる。


 剣は虚空を一閃。

 代わりに師匠の木刀の剣先が僕の頬を切り裂いた!


 それ木刀だよね!?


 つっこみいれてる場合じゃない!


壁に突き刺さった剣を蹴り上げ、模擬刀を突き出す。師匠はそれをひらりと避け、一メートルほど下がった。


 僕は立ち上がって、剣を構える。


「あぅ……」


 少女は心配そうにこちらを見ていた。


 大丈夫。


 たぶんだけど。


「ていやぁ」


 気の抜けた声と共に豪速で迫った木刀を模擬刀で防ぐ。防いだだけで、威力は吸収しきれず、壁まで吹き飛ばされたが。


「――っか」


 肺に詰まった息を吐き出すと同時に、師匠の膝蹴りが僕の腹に突き刺さる。

 意識が遠のく。

 次は後頭部を殴られ、地面にたたきつけられた!


 避けられない。


 それもそうだろ!


 だって……僕はまだ、師匠から何も学んでないんだ!


 それでも師匠は、意識を失いかけ、地面に突っ伏した僕の腹を蹴り上げた。


「うぐ……」


「うぅん……まぁだまぁだねぇ……」


「ぼ……僕はまだ……剣をおし、えて……もらってないか、ら……ぐあっ」


「いいわけぇは男らぁしくないなぁ……」


 いいわけじゃないだろ!

 本当のことだ!


 僕は瞑想以外に何もやってないんだぞ!?


 そんなんで、師匠どころか犬の一匹にすら勝てないだろ!

 いや、さすがに犬は大丈夫かな……大丈夫だよね!?


 ここまでぼこぼこにされると、不安になる。もしかするとネズミより弱いかも。いや、あいつらはある意味強いからな……しぶとさは世界一! たぶんね!


 そして僕はネズミでも犬でもオオカミでもない!


 しぶとくないし、俊敏でもない。危機能力を身につけているわけでもない! この勢いでいけば、僕は何もない人間に成り下がってしまうかもしれない!


 師匠は、気にしない。


 僕の腹を蹴って、ただ冷たい瞳で僕を見下ろしてくるだけだ。


「……つまんない」


「な、何が……ぐふっ」


「必死ならぁ、もぉっとがんばりなよぉ。妹のためにぃ、かぁみさまを殺すんでしょぉ?」


「必死ですよ……で、でも、僕はまだ……何も教え、てもらってないでしょう……? 僕は……何もできないです、よ。ぼ……僕はあなたより……弱いことは確か、なん、ですから。剣を……持っていても、その扱いを……知らな、いんですか……ら……。だから……あなたに、教えてもら……おうとしているんでしょう……?」


「だぁらから、つまんないのぉ」


 道端に落ちている小石を蹴るように、僕の腹を蹴る。


「うぐっ……」


 弱い。


 でもそれは当たり前のこと。


 騎士と普通の、田舎から出てきたばかりの人間だぞ!?


 勝てるわけない。


 勝てるわけが……。


「……やぁめた」


 つまらなさそうにつぶやいて、師匠は木刀を放った。

 からんと落ちた木刀は数度跳ねて壁のほうまで滑っていった。


「はぁ……」


「安心してる?」


「そりゃ、そうでしょ……。僕は……剣を教えて……もらってない。だから……何も、で、できるわけが……ないんですから……」


「そ……」


「殺されるかと……思いましたよ……。でも、そ、のつもりじゃない……みたいなので……安心しました。はぁ……冗談も……大概に、してく、ださい……」


「うふふぅ。そうねぇ。じゃあぁ、今日は終わりねぇ。その怪我じゃぁ、しばらくは無理そぉうだからねぇ」


 いつものにこにこ笑顔に戻って、師匠は言った。


 確かに、師匠が言った通り、しばらくは修行なんて無理そうだ。

 腕が折られたのだから当たり前だ。


 ……それを分かっているなら、折らないでほしかった。


 早く妹の復讐をしたいのに、遅くなってしまう。


 師匠のせいだ。


 教えてもらっていることは感謝するけれど、この師匠の無計画さ……というより、無責任さにはほとほと呆れる。

 怒りすら覚える。


 僕は不機嫌な顔を、できるだけ晒さないようにした。


 それでも、師匠にはすべて見透かされているような……そんな気がしてならなかった。


「今日はぁ、エーレンティカのところにもぉ、いかぁなくていいわぁ。わぁたしからちゃぁんと説明しておぅくからねぇ」


 ゆったりと、師匠はそう言うと、部屋を出て行ってしまった。


 残された僕と少女は互いを見合って、僕だけはため息を吐いた。


 少女が手帳に何か書いて、僕に見せる。


『大丈夫?』


「大丈夫だよ……心配も……しなくていい……」


 そうだ。心配だってしなくていいよ。


 君は僕が守るから。


 絶対に強くなって、君を守る。そして、妹の仇を取るんだ。


 でも……遅くなる。


 師匠に折られた腕が、痛い。動かせない。


「……強く、ならねぇと……」


 呟いて、僕は服の袖を握りしめた。


 あそこまでぼこぼこにされて、醜態晒させられて、このまま、何もしないわけないだろ。

 次は絶対に勝つ。

 ちゃんと修行してもらって、師匠を超す。


「次は勝つから……絶対に……強くなるから……君は、心配し、なくて……いいよ……」


『違う』


「え……?」


 少女は困ったようにうーんと唸ると、顎にペンを当て、しばらく考えた。答えが分かると、さらさらと何か書き始めた。


 僕は痛む体に鞭を入れ、少女に近づき、やがて見せられた文章に、驚愕する。


『心配、してない。不安、してない。焦燥、してない?』


「……僕が、焦ってる……?」


 一体何を?


 そして、なんでこの子は……まだ妹のことすら話していないはずなのに、まるで、僕が何のためにここにいるかを知っているかのように、そんなことを言うんだ?


 少女は僕の顔を見上げて、再び何か書く。


『私、何も知らない。でも、焦ってる、わかる。あなた、焦ってる。恨み、連ねて、感謝、忘れて、ただただ、自分のため、何か、焦ってる』


「……違う」


 単語だけを連ねる少女の言葉を、僕は否定する。しかし、少女は止まらない。


『私、知らない。あなた、目的。それ、焦ってまで、すること? それが、あなた、苦しませる、要因、なってない?』


「僕が・……苦しんでるって? 違うよ……違うっ! そして、僕は自分のためだけにこうしているんじゃない! 僕には守るべき人がいて、でも守れなくて、それで……僕は……」


『ほら、自分勝手』


「何がわかるっていうんだよっ!!」


 ダンッ!!


 壁を殴りつける。ああ、こっちの腕はさっき折ったほうだった。


 いや、折れたわけじゃなかったのかもしれない。


 もしかすると、師匠もそれを分かってやったのかもしれない。


 僕は、折ったと、勝手に思い込んで、師匠を悪者扱いして、そして、いつまでも進まない修行を、全て他人のせいにして、自分では何もせず、全く動かず、ただ誰かが僕に施しをしてくれるんじゃないかって、そう思っていただけなのかもしれない。


 でも、僕は間違っていない。


 妹は死んだ。


 僕は復讐するんだ。


 それを間違っているなら……僕は何のためにここにいるんだよっ!


「僕は間違ってない! 僕は自分勝手なんかじゃない! 僕は焦ってなんかない! 僕は、僕は、僕は……殺すんだ……神を、この理不尽さを生み出した、あの神を殺すんだよ!」


『どうでもいい』


「何がどうでもいいって、言うんだ!?」


『あなた、目的。だって、あなたは――』


 そして、少女はペンを止めた。


 ほら……続きの言葉を書いてみろよ! 

 書けないってことは、僕が正しいってことだ!


 僕は正しい!


 僕の目的は、正しい!


 妹の復讐は、僕のためだけなんかじゃなくて、妹のためで、そして、僕に何もしない、何も教えてくれない、師匠がすべて悪いんだ!


 腕が折れてないことを知っていたなら、彼女は僕を嗤っているんだ……僕を弄んで、嗤っているんだ!


 修行なんて、最初からする気なんてなかったんだよ。

 それもそうだ。


 だって僕は、彼女に救われた身。


 ただ、それだけの関係で、師匠が僕に何か教えてくれるわけがないんだ!


 少女は、本当は書き連ねた言葉を言わず、否。見せず、僕の顔を覗き込んで、諦めたように瞑目した


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ