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ゴッドキル・ザ・メサイア ~カミゴロシの救世主~  作者: 蒼露 ミレン
第一章 『舌のない少女→誘拐じゃないから!!』
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1-15 『言語』

「……へぇ、その子がぁ」


 師匠が僕の隣に座る少女に顔を近づけて、感心したように微笑んだ。少女は初対面の師匠に緊張して、身を強張らせる。


「ふふぅ、安心してぇね。食べちゃったりはぁ、しぃないからぁ。わぁたしより、タグと一緒にいるときのことをぉ、心配しないとダメェよ、ダメダメェ」


「なんです、それ……ぼ、僕だって、な、何もしませんよ……」


 無断で服を脱がして身体を拭いたくせに、何を言っているんだ僕はっ!? 

 そうも思ったけど、あれは不可抗力だったからノーカウント! 

 結果的に少女は元気だったし、風邪も引いた様子もなかったからいいんだよ!


 僕は心の中で自分にそう言い聞かせて、無理矢理納得させた。


 師匠の部屋に来た僕らは、師匠(パズリィ)に今朝目覚めた少女を紹介した。

 街中で少女を歩かせるのは少し心配だったけれど、誰も気にした風もなく、そして、少女も別に何か気にしていたわけでもなかったので、よかった。


 僕が心配しすぎているだけなのかな。


 うん。きっとそうだ。


 僕の目の前で、定位置となった椅子に座って、師匠は微笑んでいた。


「よかったわねぇ、タグ。これでぇ、やぁっと修行に集中できるわぁ!」


「……そうですね。今日こそはちゃんと集中しますから」


 でも、僕は認めていないから。

 昨日、師匠が言ったこと。


 自分勝手で神を殺そうとしているんじゃない。


 僕は妹のために――


 僕は不満を顔に出さないように、少女が起きてくれてよかったと笑っていた。

 今は、たとえ信用ならない師匠であっても、この子を守る人がもう一人欲しかった。


 と、いうのも、僕と少女はいつも一緒にいられるというわけじゃないからだ。

  

 僕はエーレンティカのところで、仮にも働いている身なのだし、その時に少女を連れて行くわけないは行かない。エーレンティカに会って、悪影響を及ぼされかねないからね! 


 不良娘になってほしくなかった僕は、せめてバイトをしている間だけでも少女を師匠に任せようとしたのだ。


「……でもねぇ、わぁたしもいつもここにいるわけじゃぁないからねぇ。街を守るのがぁ、わぁたしたち騎士のぉ役目だからねぇ」


「……分かってますよ。でも、あんなところにこの子を一人にしておくのはどうも心配で……僕の修行のためにあんな危ないところにテントを建てているのに、僕がいない間にこの子が襲われたりなんかしたら……」


「だぁいじょうぶよぉ? オオカミはぁ、どうせ夜にしかでてぇこないからんね」


「絶対ですか?」


「たぶん」


「そんな不確かな情報を信用できるわけないじゃないですかっ!?」


 それに、あそこにいるのはオオカミだけじゃないと思う。


 夜中になると、木がカサカサとささやくのだ。揺れ動いた草むらの中から何かが飛び出して、見つからないように颯爽と走って逃げていくのだって見たことがある。


 それは夜だけの話だけど、昼間にはまた別に危ない生物がいるかもしれないのだ。

 たとえば、クマとか、シカとか……その他もろもろ……。


 だから、僕は心配なんだ。


 でも、師匠は自分のことじゃないからね! みたいな雰囲気で、


「だいじょぉうぶよぉ? タグは心配しすぎぃね」


「さっき言った言葉が、信用にたる情報ならよかったんですけどね……ま、そこまで言うなら、たぶん大丈夫なんでしょう」


「そうよぉ。もし何かあったときはぁ、タグが、助けてあげればいいのよぉ。その子をぉ拾った、保護者なんだしぃ」


「……はい」


 当たり前だ。

 今度こそ、少女を守ると決めたんだ。


 それがたとえ、妹を守れなかった罪滅ぼしだったとしても。


 だから僕は頷いて、隣に座った少女に視線を向けるのだ。


「大丈夫。僕が守ってあげるからね」


「……?」


 少女は話についていけていない様子で、小さく首を傾げた。


「あをう……?」


 舌先のない少女は、やはり何を言っているのかよく分からない。

 それを見かねた師匠は、眉をひそませた。


「……それじゃぁ、不自由ねぇ……ちょっとぉ、待っててねぇ」


 師匠はおもむろに立ち上がると、僕と少女の前から姿を消した。


 この広い部屋の中で、強盗が入ったようなガタンゴトンという大きな物音が聞こえ、僕は少し心配になった。

 彼女は、自分の部屋で強盗のまねでもしているのだろうか?


 やがて戻ってきた師匠は、手に持っていたものを少女に渡した。


 それは、小さな手帳だった。


「しゃぁべるときは、それを使ったほうがぁみんなからも怪しまれなくて済むからねぇ。文字、書ける?」


 この世界では、まだ教育が行き届いていないところもある。

 だから、段ボールにいた少女は、文字を書けない可能性が高い。

 書けたとしても、使う文字が違えば、僕らは理解できない。


 少女は少し困ったように師匠を見上げると、やがて手帳に何か書き始めた。

 書き終えた少女はそれを師匠に見せる。


『少しだけなら』


 少女は文字を書くことが出来たみたいだ。


 しかし、今度は師匠が困ったような顔をした。


「うへぇ……わぁたしの知らなぁい言葉……タグはぁ、分かるのぉ?」


「分かりますよ。たぶん、たまたまだと思いますが、使う言語が同じみたいです」


 タグが分かるなら、それでいい。


 師匠は言って、椅子に座りなおした。


「さぁて。じゃあ、当面の問題はぁ解決ねぇ。保護者さんがぁ、ちゃぁんと守ってあげられるならぁ、これ以上は何もぉ言わないわぁ」


「守りますよ、必ず」


「そう……ところでぇ、お腹空かないぃ? ご飯たべぇる?」


 師匠はそう訊ねながら立ち上がり、僕たちの返事を待たず、キッチンへと消えていった。まずい。また富士山が来る……あの殺人的量のカレーがくぅるぅ!


 やがて戻ってきた師匠は、やはり両手と頭の上に山盛りのカレーを持ってきた。器用だな……。

 片方は自分に、そしてもう片方は僕の前に置いた。


 少女には普通量のカレーを渡した。僕もそのくらいの量でいいんだけど……。


 富士山級のカレーを前にして、その姿を見事に隠した師匠は、ついに席を立ちながらカレーを食べている。そこまでして山にしなくてもおかわりすればいいのに……。


「さあ、食べて食べてぇ! 遠慮とかいらないかぁらねぇ!」


 師匠がそう言うと、少女は頷いて、僕の服の袖を引っ張った。少女に顔を向けると、手帳を僕に向けて掲げた。


「えっと……『ありがとう』だそうです」


「ううん、遠慮とかしなくていいからねぇ!」


 師匠は目をきらっきらに輝かせて、すでに僕たちの話を聞いていなかった。すごく子供じみている。


 カレーをほおばるたびに、師匠はううんと感嘆の声をあげて、にこにこ笑う。その幸せそうな表情を見ていると、自分のことのようにうれしくなってしまう。


 僕もカレーを食べ始めたとき、ヒュッと耳の横を何かが通り過ぎて行った。


――短剣だ。


「うわっ!?」


 投げられた短剣は壁に突き刺さって、コンクリートの壁にヒビを入れた。どれだけ強く投げればそこまでできるんだ……?


 視線短剣から正面へ向けると、師匠がにこにこ笑って、言った。


「はぁい。修行開始ねぇ!」

 

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