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ゴッドキル・ザ・メサイア ~カミゴロシの救世主~  作者: 蒼露 ミレン
第一章 『舌のない少女→誘拐じゃないから!!』
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1-13 『迷想』

 テントに着いた僕は、少女がまだ眠っていることに、またも落胆する。


 息はしているし、苦しそうにうめくといったこともないけれど、こうずっと目を覚まさないままだと、さすがに心配になってくる。


 いつも心配していたけれど……それは雪のように積もり、しかし、全く解けずに残っている。いつか解けることを約束された雪が、そんな常識は関係ないといわんばかりに積もり続けるのだ。


 この先も目覚めることがない、ということはないだろうけれど、こう何日も眠ったままの彼女を、こんないつ獣に襲われるかわからないような危ない場所に置いておくわけにはいかない。


 少女が目覚めてくれないと、僕はきっと剣の修行に集中できない。


 それじゃあダメなんだ。


 僕の目的は、この少女を守ることじゃない。


 妹の復讐をすること。


 それは、妹を殺した神を殺す、ということ。


 この少女に構ってい続けるわけにもいかない。

 だけど放置するわけにもいかないことは分かってる……ああ、もしかすると、僕がカミゴロシをしないように、神がこの眠り姫と僕とを引き寄せたのかもしれない。


 こんな状況でも、明日になれば師匠の下へ行って、剣の修行……まだ瞑想だけだけど、集中できないなら意味がない。


 こんな状況で集中できるほうがおかしいと思う。


 だって、放っておけないじゃないか!


 師匠に剣の修行を頼んだのは、確かに僕だけど……贅沢も言えないことくらいは分かる。

 こうして少女のことを心配していても、いつまでも剣に集中できないのでは意味がないのは分かっている。


 分かっている……でも……。


「……心配なんだよ。だから、早く目覚めてくれ」


 僕は少女の柔らかな金色の髪を梳いた。


 妹に似ている……あいつも、死んだときにはこのくらいの身長だった。

 幼くて、元気で、人に頼られていた、僕とは正反対の妹。


 だから、僕はこの少女のことが心配なんだ。


 いつ消えるか分からない、幻なのかもしれない。


 妹に会いたくて、謝りたくて、僕が頭の中で勝手に作った幻覚なのかもしれない。


 こうして触れられるなら、幻覚ではないんだろうけれどね。

 

 幻覚ではないなら、なおさら心配になる。


 いつまでも目覚めない少女……。


 いつまでも集中できない僕……。


 僕は少し後悔していたのかもしれない。もし、あの時この少女を拾わなければ、きっと僕は違っていた。


 そう、心で思っている自分が、人間ではないようで嫌だった。


 しかし、どれだけ嫌でも、僕は僕だ。

 立派じゃないことくらいは最初から分かっている。


 だから、これはせめてもの償いなのかもしれない。


 死んだ妹と、この少女を重ね合わせて、僕は彼女の面倒を見るだろう。


 自分の過去をひた隠して、彼女を守るだろう。


 少女の額の汗をぬぐいながら、僕はそんなことを思っていた。





 ガタッという異音で、僕は目を覚ました。


 なんだろう、と、テントの中を見回してみると、何かが動いていた。


 ま、まさかオオカミが中に入ってきたのか!?


 僕は自分の隣で眠っていた少女の姿を探した。

 しかし、辺りはすでに夜。

 テントの中の闇はさらに暗い。

 これほど視界が悪いのに、少女の姿なんて見つかるわけがない。


 まだ師匠に剣を教えてもらっていないけれど、仕方がない。


 僕はテントの天井にぶら下げていたランタンを照らした。

 これで異音の正体が分かると同時に、もしオオカミなら、僕の居場所を知らせてしまうけれど、それでもかまわない。


 今は少女のことが心配だった。


 しかし、ランタンを照らした僕は、目を見開いた。


 テントの片隅で、何かが動いていた。

 でも、それはどう見ても毛布にしか見えない。


 いや、毛布だ。


 少女にかけていた毛布が動いていた!


 とっさに、少女が眠っていたほうを見る。


 そこに人の姿はすでになく、僕は茫然と毛布をかぶった何かに視線を戻した。


 その毛布をかぶった何かが、ゆっくりと僕へ振り返る。


「っ!」


 少女だ……金色の髪をした、妹に似ていた少女が目を覚ましていた!


「あ……ああ!」


「ぃっ!?」


 寒そうに震える少女の緑の瞳からは、畏怖の念が見えた。

 僕を見て、何か恐れているような……。


 少女はせわしなく、そして不安そうに、まるで初めてのところに連れてこられた小動物のように、テントの中を見回していた。

 ずっと眠っていたせいで、今の状況を分かっていないのだろう。


「だ、大丈夫だから。僕は君を助けただけだよ」


「……」


 僕は何もしゃべらない少女の前に座ると、彼女に事情を説明してあげることにした。


 落ち着きのない少女に、僕はここへ連れてきた経緯を教えた。

 少女は何もしゃべらなかったけれど、身体で示す反応が大きかった。

 身体全体で頷くのが少しおかしくて、僕は笑いをこらえて話した。


「……って言うことなんだけど、何か覚えていることない?」


 質問すると、少女は困った顔をした。

 そうか……彼女自身も自分のことを分かっていないらしい。


 ずいぶん長く眠っていたせい、というのもあるかもしれない。


 それにしても、なぜこれほど長い間眠っていたのだろうか? 


 僕が見つけるまでに、この子は何をされていたのだろうか……?


 ……いや、考えるのは止めよう。


 この子が目覚めてくれた。それだけでよかったのだ。


 今覚えていることだけでも教えてもらおうと、僕は少女に問いかける。


「君の名前は?」


「…………」


 首を振る。


 名前がないのか、それとも覚えていないのか……僕には判断しかねるところだ。


 僕はふぅむと顎に手をやって考える。

 覚えていないのは仕方ないこととして受け入れるにしても、名前が分からないならこの子をなんと呼べばいいのか分からない。


 その時、少女の小さな手が僕の服の袖を引っ張った。


 僕は少女を見て、口を開いた彼女を見て、叫びそうになった。


「あろぉ……はすへへふへえあいあおう」


 少女の舌が、半分切られていたのだ。


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