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ゴッドキル・ザ・メサイア ~カミゴロシの救世主~  作者: 蒼露 ミレン
第一章 『舌のない少女→誘拐じゃないから!!』
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1-12 『巨躯』

このバイトのもう一人って……ずっと壁と同化していたのかっ!?


 全然気づかなかったぞ!? 隠密スキル高くない!?


 驚く僕を、彼は静かにみおろしていた。

まずい……怒らせた?

 もしかして、僕はここで殺されるんじゃないだろうか!?


 身長は5メートルほどだから、巨人族の人間なのだろうけれど、僕は初めてこんな人を見た。

種族の違いがここまで現れるものなんだなぁ……。


 そういえば、昨日拾った少女も耳が少しとがっていた。なんの種族だとは断定できないけれど、おそらく彼女もただの人間ではない。


 目の前の巨人の彼は、天井で頭をぶつけないように身を屈めていたのだけれど、それでも天井よりも背が高いせいで壁を覆い尽くしていた。そのせいで僕が見つけられたなかったまでもある。

 でも、仕方ないよね。

 壁同然なんだから。


 服装は逞しい体つきを見せびらかすように、白い帯状の布を腰に巻いているだけだった。

 上半身は裸。

 でも、そこにある筋肉のせいか、不思議とその恰好に違和感はなかった。


 不動で立ち尽くす彼はまさに壁。

 僕が壁と見紛うのも仕方がないことだと思う。

 自分で言うのもなんだけど。

 マジでごめんなさい。


 今の今ままで、壁のように立って僕やエーレンティカさんを見下ろしていた彼は、黙っている。

 気づくはずがない。

 もし途中で入ってきたなら、さすがに気づくけど、最初から動かない銅像はわりと気づかないものである。


 すごい言い訳じみてるなぁ。


 巨人は、別に怒っているわけではなさそうだけど、無言なので、何を考えているか分からないところは同じだった。ぼ、僕を食べても美味しくないぞ!


 まともな人格であってほしかったけれど、あまり期待できない。

 まともな人なら、僕がここにやってきた時点であいさつくらいはしてくれるだろう。

 コミュ障でない限りは。


 初対面の人と話すのが苦手なのは、僕だって同じだ。

 図体がでかくあろうとも、心の大きさは小さくて、人と話すことすらも苦手な人だっているはずだ。


 僕はそう決めつけて、巨人を見上げた。


 本当にでかい。

 このまま成長が続けば、そのうち砦に囲まれた街を襲うかもしれない。それ、どこの進撃?


 失礼なことを考える僕の顔を上から覗き込んでいた巨人は、やがてにっと唇の端を上げて、身体を少し起こした。

 お、おい。今天井ミシミシって軋んだぞ!?


 両手を広げて、小屋を軋ませながら、巨人は空気が震えるほどの大音声で話しかけてきた!



「我が同胞よ! やっと気づいてくれたか! オデはクイム。クイム・ウォーッデッドだ! まだ活気盛んな十七歳。種族はネフィリム……巨人族の一人だッ!」


 み、耳が痛い……。


「ど、どうも……僕はタグ。普通に人間です」


 対して僕は、小さな声で答えた。

 彼の声に恐縮させられたまである。


「なに。そんなに硬くかしこまる必要などない! なぜなら、タグはすでにオデらの同胞ゆえ、平等なのだから!」


「は、はあ……」


 こんな大音声の中、エーレンティカさんはよく本を読んでいられるなぁ……。


 エーレンティカさんの集中力は神レベル。

 こんな、ヘッドホンで最大音量を聞いているような状況でもこちらを見向きもしない。


 本のページがぱらりとめくられる。


「タグよ! よくぞここに来てくれた! オデは歓迎するぞ!」


「そ、それは……どうも」


「なぁに、気にする必要はない! 聞きたいことがあれば、何でも聞くがいい! …ぐぼっ!」


「うるせぇ。ちょっとは静かにしろ」


 あ、やっぱりうるさかったんだ。


 機嫌悪そうにするエーレンティカは、持っていた分厚い本を閉じてクイムの頭めがけて投げつけていた。乱暴だなぁ。


 しかし、クイムはまるで気にした風もなく、わははと笑っていた。

 その笑い声もうるさい。

 反省してないなー。


「すまないすまない、オデの主よ! ところで、いつになれば薬をくれるのだ? 今日はずっとここで待っていたが、オデは薬を待っていたんだぞ!」


「ん? ああ、忘れてた。そこの引き出しにあるから勝手に取って帰ってくれ」


「薬?」


 ま、まさか怪しい薬じゃ!?

 エーレンティカさんならあり得る。


 いや、さすがにそれはないか。


 鬱陶しそうに言ったエーレンティカさんに、クイムは笑顔で頷き、整頓された部屋の隅に置かれていた棚の引き出しを開けた。


 そこにあった小石ほどの大きさの錠剤をとると、クイムは礼を言って立ち去ろうとした。

 薬でか!?

 普通の人間には嚥下出来ないだろう大きさだ。


 僕はエーレンティカさんに形だけでも頭を下げて、クイムを追った。彼に訊きたいことはいくつもある。


 クイムは歩幅も大きくて、少ししか時間が経っていないにもかかわらず、危うく見失いそうになった。


 何とか追いついた僕に、クイムは立ち止まって振り返った。雑踏の中でも目立つ彼の身長が、今はありがたい。


「なんだ? タグはオデに何か用があるのか?」


「あ、ああ……ちょっと訊きたいことがあって」


 僕は弾む息を整えると、クイムと歩きながら話すことにした。クイムにとっての一歩が、僕には遠い。僕は少し小走り気味でクイムの隣を歩いていた。


「何が訊きたい? オデに答えられる範囲なら、なんだって答えようぞ!」


「いや、エーレンティカに何も教えてもらえなくてさ。……あそこって、結局何をするところなの?」


 クイムは、なんで仕事内容も知らないのに働き始めたんだ? みたいな顔をしたのち、ふむと顎に手をやって話し始めた。


「……正確に何をするということは決まっていない。言うなれば、万屋と言ったところだろうか」


「万屋?」


「ああ。あそこの場所を知っている、裏の人間が来て、オデらに何をしてもらいたいかを依頼する。今日みたいに誰も来ない日ももちろんあるが、それは珍しいことではないゆえに、基本自由にしている」


「はあ……」


「何もなければ何もしない。何かするときも、エーレンティカを怒らせてはならない。これは、このバイトの裏のルールだ。客が来た時には、その客に対して詮索しない。深く知ろうとせず、言われたことだけをやり、頼まれたことのみ完遂し、それ相応の対価を得る。無論、客人の情報は他言無用だ」


 なんだか、クイムの話を聞いていると、すごく危険な臭いしかしないのはなぜだろうか。


 気のせいじゃないよね。


 主があれなら、そこに集まる者もそうなってしまうのかもしれない。


 妹よ。お兄ちゃんは今、とんでもない仕事をしようとしているかもしれないよ。


 街を守る騎士が関わっていたから、街からは黙認されているのかもしれないけれど。そうじゃないと僕が困るわけだけど。


 正当な仕事かどうかはさておいて、僕はほかに頼る人がいないから、僕はほかに仕事ができない。それに、パズリィが言っていたんだ。


――タグには、エーレンティカの仕事があっている。


 今の僕には分からないけれど、パズリィには彼女なりに考えがあるのだろう。いつか分かる日が来ればいいな。


 明日仕事が入っていればいいな。クイムは言って、僕とは違う道へ歩き去った。


 具体的に何をするのかは分からないけれど、よし。僕も頑張ろう。


 そして、いつか神を殺すんだ。


 僕は心の中でそう決意し、テントのある方向へ歩き始めた。


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