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魔法世界の名探偵  作者: 敷座武雄
第二章 空飛ぶ殺人者
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第八話 彼女の不自然な行動

 メグ・バーリンとの会談が終わった後、三人は仁、アリシア、桜の住む家|(特別捜査局本部)に移動した。

 今日一日の捜査で得た証言の検討をするためだ。

 家にいた桜はカーターに不審そうな目を向けたが、仁が今回捜査を協力してもらっている普通警察の刑事だと紹介すると、あっさりと警戒を解き、三人を中に入れた。


「それで、ちょっと捜査会議をやりたいんで姉さんには席を外して欲しいんだけど」

「分かったわ。昨日はいろいろ話聞いちゃったけど、本当はいけないことなんでしょう? 私は部屋にいるから、何かいるものあったら呼びなさいね」


 そう言って桜は二階の自室へと消えていった。


「ジン君のお姉さんかい?」

「正確には従姉です。さて、第一回捜査会議といきましょうか」


 その言葉にアリシアが手帳を取り出し、証言の要点をまとめたメモを広げた。


「さて、今日一日で事件当日の彼女の行動を追ってみたわけだけど、二人はどう思った?」

「いくつか気になる点がありますが、テーブルクロスを買った店の店員と友人の証言は信用できると思います」

「結局、彼女は一日中王都にいたんじゃないかって思うね」


 仁の問いかけに対して、二人はそう答えた。


「そうだね、おそらくインテリア店の店員とメグ・バーリンに会ったのは本人で間違いないと思う。問題はそれ以外の三ヶ所だ。これが本人かどうかが問題なんだけど……いくつか不自然な点があるのが気になってるんだ」

「不自然な点……ですか? 服装の割に本人の顔が印象に残らなかった、ということ以外は特になかったと思いますが」

「うん。それにしたって午後の二人ははっきり顔を見てるんだし、そこに意味はあるのかな? 大体、ブランキーニ刑事が殺されたのは夜だって話だろう? 昼食前の証言を気にしても仕方ないんじゃないか?」

「それはそうなんですが、一つ一つ検討していきましょう」


 そういうと仁は、目の前のノートを三人ともが見えるように置き直した。


「まず11時過ぎ、白いワンピースと赤い帽子の金髪碧眼の女が窓口で目撃された。この時女は帽子を取らなかったので顔は良く分からない。女はバディエラ行き最終馬車の時刻を聞き、立ち去った。この時、女は大きな旅行鞄を持っていた」


 仁は指を滑らし、メモの次の欄を指差す。


「次に11時半頃、同じく白いワンピースと赤い帽子の金髪の女が雑貨店で買い物をした。やはり帽子は取らず、顔や目の色等については良く分からない。女は魔演祭の記念置時計を買った。値段は230セル。これを1000セル大金貨で払って買った。ちなみにこの置時計をマリソン・ソラナスは持ってるのか、確認しないといけないかな?」

「それについては魔法警察が調査しています。置時計と午後に買ったテーブルクロスについては確認できたそうです。もっともそれ以前に王都で買った可能性も否定できないので、証拠品とは言い難いと、魔法警察は考えているようです」

「彼女は魔演祭の時にも王都にいたし、その時に買ってても不思議はないね。じゃあ次に行こう」


 仁は次の欄に指を動かす。


「12時過ぎ、白いワンピースと赤い帽子の金髪の女はレストランで食事をした。やはり帽子は取らず、顔や目の色等については良く分からない。買ったのはサンドイッチ単品と水で、値段は30セル」

「その値段は何か意味があるのかい?」


 カーターが耐えきれずに口を挟んだが、仁は右手を上げて制止した。


「後で説明します。午後2時頃、白いワンピースと赤い帽子の金髪碧眼の女がインテリアの店で買い物。帽子は外していて、店員は念写図からマリソン・ソラナスだと断言した。買ったのはテーブルクロスで値段は160セル。これにまた1000セル大金貨を使う。そしてテーブルクロスを入れられる鞄がないということで袋に包んでもらった」

「……あ」


 アリシアが何かに気づいたかのように声を上げたが、仁は目で制して最後の項目を読み上げた。


「午後3時過ぎ、級友のメグ・バーリンと会って一時間ほど雑談。彼女は相手をマリソン・ソラナスだと断言した。そして、雑談の後はバディエラ行きの最終馬車に乗って帰った……と、マリソン・ソラナス自身は証言している。」

「で、ジン君の言う『不自然な点』ってのは一体何だい?」


 説明が終わるのを焦れながら待っていたカーターが仁に質問を発する。

 仁は一つ息をつくと、説明を始めた。


「一つ目はこれです。11時過ぎに目撃された女は大きな旅行鞄を持っていたのに、午後2時頃に寄ったインテリア店で買い物をしたマリソン・ソラナスはテーブルクロスを入れられるほどの大きさの鞄も持っていなかった。これは不自然です」

「うーん……いや、ちょっと待て。王都の馬車駅には荷物預かり所があったはずだ。最初にそこに預けた可能性は?」

「その可能性はありますが、実は彼女が大きな旅行鞄を持っていたこと自体が不自然なんです」

「……どういうことだい?」

「彼女は王都に着いてすぐにバディエラ行き最終馬車の時刻を確認しています。つまり、日帰りのつもりだったと考えることができます。そうであれば、そもそも大きな旅行鞄は必要ありません。買い物に必要なくらいの大きさの鞄くらい、持っていたはずです」

「なるほど。そこには気づきませんでした」

「う、ううん……言われてみれば、そうかもしれないけれど……」


 アリシアとカーターの対照的な反応を流し、仁は次に向かう。


「二つ目の不自然な点は、買い物に使ったお金です。最初彼女は230セルの置時計に1000セル大金貨を使いました。そうすると財布の中はどうなりますか?」

「どうって、100セル大銀貨7枚、50セル小銀貨1枚、10セル大銅貨2枚になるんじゃないかな?」

「そうでしょうね。次に彼女は昼食でサンドイッチを頼みました。値段は30セル。では財布の中身は?」

「50セル小銀貨を使ったとすると、100セル大銀貨7枚に10セル大銅貨4枚ってところかな」

「おそらくそうでしょう。100セル大銀貨を使ったかもしれませんが、その場合でも彼女の財布には100セル大銀貨がまだ6枚あります。ところが彼女は午後2時に寄ったインテリア店で、また1000セル大金貨を使った。160セルの買い物で、手元に100セル大銀貨が6,7枚はあるはずなのに、です」

「それが捜査官の言うもう一つの不自然な点ですか」

「もちろん山ほど1000セル大金貨を持ち歩いてたって可能性もゼロじゃない。だけど、日帰りで買い物して友達と話すだけでそんなに大金貨を持ち歩くとも思えない」

「……確かにおかしいけど、でも実際に彼女はそうした。どうしてなんだろう?」


 カーターの疑問に仁ははっきりと答えた。


「最も簡単な答えはこうです。午前中から昼食までの『白いワンピースと赤い帽子の女』と午後の『白いワンピースと赤い帽子の女、マリソン・ソラナス』は別人だった」


 むっとカーターの眉が釣り上がる。アリシアはある程度予想していたのだろう、仁の推理にも特に動揺した気配はない。


「それは、つまり……共犯者がいたということか?」

「そう考えるのが妥当だと思います」

「……だが、何のためだろう? 実際にブランキーニ刑事が殺されたのはその日の夜だと言われてる。午前中に別人のふりをする必要があるのか?」

「それは分かりませんが、共犯者がいると仮定して、彼女がどのように行動したのか、それを調べるべきだと思います」

「でも、どうやって調べればいいんだい? 『黒薔薇騎士団』の中に共犯者がいるとなると、調べるのはかなり難しいと思うよ?」

「そっちは僕がゲーリング警部にでも連絡して調べてもらいます。カーターさんにはマリソン・ソラナスの友人の範囲に共犯者がいないかを調べてほしいんです。そうですね、今日会ったメグ・バーリンをとっかかりにして、彼女の友人に彼女と同じ金髪碧眼の女性がいないかを調べてほしいんです」

「捜査官、共犯者がかつらを使っていた可能性はないのですか?」


 アリシアの指摘に仁は思わずうなる。その可能性も考慮すべきだろうか。


「……とりあえず金髪碧眼に限定してください。それで該当者がいないようなら、捜査範囲を拡大していってください」


 そう言いながら、やはり共犯者も金髪碧眼だったのではないかという予感が仁にはあった。

 詳しく調べるといくつか不自然な点が出てくるということは、事前に計画する時間がほとんどなかったということではないか、と仁は考えていたのだ。

 そうであれば金髪のかつらを用意する時間もなかっただろう、というのが仁の推理だった。


「ちょっと待ってくれ。僕にマリソン・ソラナスの友人関係を調べてほしいって言ってたけど、君たちはどうするんだい?」

「僕らは西部諸都市を回ろうと思います。最低でもブランキーニ刑事の所属していたメルクの魔法警察と、犯行現場のクラージンのホテルには行くでしょう。あと、もしかしたらマリソン・ソラナスの自宅があるバディエラにも行くかもしれません」

「一日、いえ、二日くらいかかるかもしれませんね」

「ああそうだ、アリシア、明日の午前の魔法学校への報告って省けないかな? それやってると時間の無駄が多くって……」

「分かりました。あとでシーダー卿にお願いしてみましょう。警察省大臣からの要請であれば通ると思います」

「……なるほど、君たちは西部諸都市を回るから、僕は引き続き王都の調査をしてほしい、ってことだね」

「お願いできますか」

「分かった。力を尽くそう」


 カーターが大きく頷いたのを見て、仁は話を再開する。


「共犯者がいるという前提で今後の方針を立ててたところで話が止まっちゃったな。実はもう一つ、不自然な点がある」

「共犯者がいること以外に? なんでしょうか?」

「メグ・バーリンとの話の内容だよ。」


 首を傾げるアリシアにそう言った後、仁はカーターに話を振った。


「カーターさん、最近部署の中ではどうですか?」

「え、どうって?」

「レイチェルさんとの話とか、ありませんか?」


 途端にカーターが情けない顔をした。


「それか……あまり思い出させないでくれよ。ただでさえ嫉妬の類がすごくて、雑用とか任される度に『レイチェルさん獲ったんだからこれくらいいいよな』とか言われたりするんだよ」


 その言葉と泣きそうな声に、仁は笑いを堪えながら自分の推理を述べる。


「とまあ、人の色恋沙汰ってのはとにかく話のネタになりやすい。彼女が極端な秘密主義者だったのかもしれないけど、付き合ってる男性の話が一言も出なかったってのは変だろう?」

「……確かに。捜査官はそれがマリソン・ソラナスが犯人である証拠になると?」

「これから殺そうっていうのなら、その人の話題ってのは出しにくくなると思わないか?」

「……そうですね。あくまで『かもしれない』程度だとは思いますが」

「だが、不自然な点には違いない」


 そう言って仁はアリシアの手帳を閉じる。


「とまあ、いくつか不自然な点がある以上、さらなる調査が必要だと思っています。明日からはカーターさんは王都で級友への聞き込みを。俺とアリシアは西部諸都市を巡っての調査をしましょう。一日で帰れるか分からないので、三日後の午後にもう一度、ここで捜査会議を開くということでよろしいですか」


 仁の提案に二人が同意し、第一回捜査会議は終了することとなった。


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