Opening*
「『これは、遠い遠い昔のお話です』」
暗闇の最中に、声が響く。
朗々と堂々と、紡がれる物語。
「『遥か昔。
愚かなる神々と聡明なヒト族との間で、大きな戦いがありました』」
紡がれるのは、小さな子供でも知っている昔話。
「廃頽創世記」と呼ばれる書に記された、世界の始まりの物語。
「『世界を創り上げた神々と、世界を栄えさせたヒト族と、どちらが優れているのかを決める為の戦い』」
書の書き手の名は何処にも記されておらず、過去に行われた大戦の記録も残っていない。
それにも関わらず、全ての人々はこの物語が真実だと信じて疑わない。
『「戦いは、100年にも渡って続きました。
沢山の血が流れ、沢山の躯が出来ました。
それでも、どちらも負けを認めませんでした」』
この世界には歴史というものが存在しない。
生物が歩んできた証となる物、過去の記録。それらは全て失われ、今や歴史を知る術はない。
「『ですが、物事には終わりがあります。
それは当然、永遠に続くかと思われた戦いにも』」
だからこそ、人々は縋るのだろう。
それが例え、出処の分からない書物だとしても。
「『終幕の時は、突然に。
戦いを終わらせたのは、神々でした』」
誰もが自身のルーツを知りたがる。
世界とて、それはまた同じこと。
「『神々は自分たちの持つ知識を最大限に使い、一つの兵器を作り出しました』」
唯一見付かった過去の遺物。
使用された古代兵器に関する資料。
それがまた、この物語を真実だと思わせる。
「『山は砕け海は割れ、世界はあっという間に崩壊しました。
人々は恐怖し、自らの非力さを知りました。
自分たちの負けを認めました。
ですがそれでも、口を揃えて言うのです』」
だが、その資料は本物なのだろうか。
本当に、この物語は正しいのだろうか。
「『創り上げた世界を壊すなど、神は愚かだ』」
真相を知る者はなく、また考察を語る者もいない。
「『その行いを恥じた神々は、戦いを終えた後に何処かへと消えてしまいました。
消えた神々の行方を知る者は、誰一人居ませんでしたとさ』」
廃頽世界リシェルデューレ。
そこは、歴史を持つことのない世界。