松庄友志編-潜入-
学校。夜の学校。
うわぁ、暗い。めっちゃ暗い。
俺がこんな暗くて怖い思いをするのは、蘭最のせいだ。けっして、話を振った俺ではないし、適当に同意してしまった春梅のせいでもない。
「おお、来たね」
来たよ。蘭最が明るく手を振る。声も昼と大して変わらない。勇敢ですね。なんなのだ。
「さあ、行こうか!」
行きたくない。春梅も同じ顔をしていた。春梅が怖さか寒さか、小刻みに震えている。
「蘭最さん、その、さたあにゃ? ってどこにいるの?」
ああ、まずそこか。
「春梅。サターニャはゲームのキャラだ」
「え、じゃあ、実在しないんじゃないの?」
もちろん。だって、サターニャのいる学校だって実在しない。
「やだなー春梅君。人を動かすのはいつだって好奇心だ。って格言知らない?」
蘭最が春梅の方を向く。「いるかもしんないし、いなくても夜の学校って燃えるよね」
「知らない。燃えないし、寒いし」
即答だ。俺も知らない。
「我思う、故に我あり。とかなら知ってるけど」
ああ、それ俺も知ってる。カエサルだっけ。違うか。
「牡羊座じゃん」
コメントに困ること言うな。
「牡羊座のキーワードだよ」
春梅も困った顔(面白い顔)をしている。キーワード? なんだそれ。
「どうでもいいや」と、蘭最は背を向け、校舎の方へ歩みだす。「行こうよ」
行きたくない。
しかし、蘭最に今更帰りたいと言っても帰してくれるはずもない。俺たちは暗闇の中へ入っていった。
*
さて、ここでいきなり、蘭最に予知能力が備わったらどうしたと思う?
答えは簡単、ダッシュでにげる。
つまり、この学校に深夜は近づかなくなるということだ。
おぞましい犯罪者が、夜の学校を占拠していたのだから――――。