松庄友志編‐昼食‐
竹ヶ崎光次。彼は俺の前の席に座っている。
竹ヶ崎はよく後ろを向き、俺と話す。授業中に。
今現在は現代国語の時間なのだが、お構いなしに俺と気象の話をする。
「そんなに寒くねぇよな? しかも、雲だって少ねぇのに、雪とか降られたら迷惑なんだって」
「俺じゃなくて雪に言えよ」
「雪に訴えるよりは、お前に訴えた方がいいだろ。お前は俺の愚痴を聞いて、今から除雪をしてくれるかもしれない」
「除雪するほどの雪もねーよ」
その後、現国の原先生にチョークを投げられ、ぶつけられた。ちゃんと授業を聞きなさい。
こうして四時限目が終わった。
四時限目終了ということは、昼食の開始だ。さて、購買部にパンでも買いに行くか。
「俺の分も買ってきて」
「いいぜ」
竹ヶ崎にそう頼まれたのでしかたない。……仕方なくない。絶対に買わない。
「アンパンがいい」
うるさいな。買わないって。
俺は三階の購買部に行き、自分のアンパンだけを買って一の五の教室に向かった。
別に俺は五組に属しているわけではない。春梅を昼食に誘っただけだ。
「春梅。飯食うぞ」
「早いよ松庄君。僕まだ買ってないって」
春梅は困った表情になる。この顔がまた面白い顔なのだ。
そのあと、何かを思いついた顔に変わる。
「蘭最さんも誘わない?」
何故蘭最が出てくるのだ。
「仲いいんでしょ?」
いいかもしれないけど、あいつとの話は気を抜くと弾み過ぎて物を食べることができない。でもまぁ、春梅がそんなに言うなら。
「じゃあちょっと呼んでくるか」
「おお!」
何故少しテンションが上がるのだ。
自販機の前のベンチで待っていろ、と春梅に命じ、俺は一の一に行く。
「蘭最、お前を誘拐する」
「はいはい、ちょっと待ってね」
弁当を持って蘭最は俺の方へ来た。何なのだろうこの会話。
俺と蘭最は自販機へ向かう。冷たい廊下を歩きながら。
自販機前のベンチには、もうすでに春梅がいた。寒そうである。
「遅いよぉ」
さっきは早いといっていたが。
「あ、蘭最さん。はじめまして」
そういえば、この二人は初対面である。確かに会う機会なんて滅多にない。
「はじめまして」
一瞬たじろいだが、蘭最もあいさつする。
そして、静かになる。違うクラス三人でベンチに並んで座っているこの奇妙な図。しかも、何を話したらいいかたがいにわからないので、何も話さない。
それに俺は知っている。蘭最はゲームが好きなのだが、春梅はゲームをよく知らない。趣味が合わないかもしれない。
しかし、この物理的に冷えていて静かな廊下に会話もなく座っていれば、俺もついでに凍えてしまう。なので、会話をすることにした。ムードメーカーになろう。
「『地獄のサターニャ』にさぁ、『リヴァイアサン』のキャラが出てくるらしいなー」
『リヴァイアサン』とは、シンカイ社のゲームのタイトルである。何故俺は春梅に通じない話題を振ってしまったのだろうか。
「あー、それ知ってるー」
春梅の頭にクエスチョンマークが浮かんでいる。
「今日さ、サターニャ探しに行こうよ」
唐突に蘭最は切り出した。
え、行くの?
高校の自販機の前って、ベンチがあるものなのだろうか?