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四友  作者: 燈野
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松庄友志編‐純白‐

 水曜日。俺の苦手な選択科目がある日だ。

 一応俺は美術をとっているが、絵なんて描けたものではない。美術がなくても生きていけるとこの前竹ヶ崎に話したら、「お前の好きな漫画やゲームのクオリティは、美術を習うことによって成り立っているんだ」と言われた。その時は適当な相槌しかうたなかったが、今ここでは反論の言葉が思いつく。やりたい奴だけやったらいいじゃん、と。

 そういった戯言を美術時間中に思い浮かべ、また沈めては、窓の外をボーッと眺めていた。青い空に白い雲。そして透明な雨。狐の嫁入りだ。こういった日には、虹がでることを期待してしまう。

 いや、よく見てみると雨ではない。雪だ。白い雪。

 この首都圏は雪なんて殆ど降らない。二月あたりに偶に降るくらいだ。しかし今は十一月。少し早くないか? 北海道ではないのだ。

 積もったりするかな、と思いふと校庭に目を落とすと、雪の山ではなくて白い服を着た人たちが三、四ほどいた。校庭の隅で何か話している。リーダーのような人物が、身振り手振り説明しているようだ。他の人たちがうなずいたりしてリーダーの言葉に反応している。

 あの人たちは誰だろうと思いながらも、俺は美術室の黒板にまた目を戻した。どうせ学校に工事などに来た作業員だろう。生徒に報告無しに校内を工事してしまうことは、偶にあることだ。今のままで不便なことは無いのだから、何もしなくていいのに。しいて言えば、一年生の教室が四階にあり、階段をのぼるのが大変なことだ。こういった話は、また竹ヶ崎に馬鹿にされるので心のなかにしまっておこう。

 いろいろなことを考えているうちに鐘が鳴った。俺のスケッチ用の紙は真っ白だったが、次回の選択授業で描きあげればよいだけだ。それよりも、考えるだけで辛くなるのが、新校舎一階にある美術室から本校舎四階にある一年教室まで長い道のりだ。工事する費用があるならばワープ装置でも開発してくれと思いながら席を立ちあがる。そしてまた窓を見た。

 あの白い服を着た人たちはもう見えなかった。雪は降っていたが。

 どうでもいいか、と思いながら速足で教室に向かうと、階段の踊り場で春梅と遭遇した。彼は確か、音楽を選択していた気がする。

 踊り場の窓から雪がちらちら見える。

 「雪、降ってるな」と俺が言った。

 「そうだね。なんか、十一月ってまだ秋みたいな感覚なのに」

 「だよな。ちょっと前まで秋の風物詩やってたじゃん! みたいな」

 「秋の風物詩って?」

 「ハロウィンだよ」

 ああ、それか。と春梅は軽く笑った。秋の風物詩と聞いてハロウィンと連想する人はなかなかいないだろう。紅葉なら風物詩だろうが。秋のイベントと言えば、ハロウィンと思いつくかもしれない。

 「異常気象かな」と、春梅が独り言のように言う。

 「地球温暖化って、本当に迷惑だよね」

 いきなりそんなことを聞かれても「そうだな」としか返せなかった。「そうでもない」なんて言ったら、春梅はどんな顔をしたのだろうか。この世界がロールプレイングゲームならば、そうした返事もできるのに。しかし、寒くて降る雪は温暖化と関係があるのだろうか。

 「積もらなきゃいいな、この雪。部活が外でできないよ」

 本当に春梅はテニスが好きなのだなと思った。俺なんて毎日サボることばかり考えているのに。

 「でも、じゃあさ、雪がよく降る地方はどうなるんだよ。冬は毎日できねーじゃん」

 確かに、と少し春梅は考えたが、すぐに答えてくれた。

 「きっと体育館が広いんだ。これなら雪が降ってもスペースが不足しない」

 ああ、なるほど。北海道とか岩手県とか、広いからな。体育館が広いと、全校朝会の時にぎゅうぎゅう詰めにならずにすむな、と同時に思った。白い服とか、異常気象についてなどは、それと引き換えに忘れていったが。

 北海道の体育館は、確か中学のときは狭かった気がします。まあ、学校によるんでしょうね。

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