松庄友志編‐日常‐
鈴央学園高校という学校に俺、松庄友志は通っている。私立の学校だが、少女漫画世界のお金持ち高校などでは決してない。第一志望の難関公立高に落ちたので滑り止めのこの学校に入っただけなのだ。
しかし、この学校にまったく興味がなく、いやいや入ったというわけでもないので、それなりに高校生活は楽しませてもらっている。テストで、優秀な点でも赤点でもない点数を取っても、ああ勉強しなきゃな、と思うくらいだ。絶望の底に落ちているわけでもないから、今のところ大丈夫。
こうして月日が過ぎてもう後期に入ってしまった。あっと言う間だ。あんなに辛かった前期のテストがもう昔のことのように思えてくると竹ヶ崎に言ったら、爺かと言われてしまった。俺はまだ十五歳だ。その竹ヶ崎は今十六歳。同級生だけどこういう年の差にはこだわりたい。
そして部活へ行き、春梅とペアを組んで準備運動をし、ラリーを始める。鈴央の硬式テニス部は弱いが、春梅は強敵だ。中学のテニス全国大会三位入賞を果たしているのだから、強くないはずがない。そして、元文化部の弱い俺のせいでラリーが続かない。
「ボールをよく見ろよ」
見えるが体が追いつかない。また外す。また野球部のグラウンドまでボールは逃げていく。また俺は野球部に頭を下げて、ボールを取りにいく。
「場所、交代するか?」
春梅の言葉に甘えさせてもらおう。今度はボールを逃しても、うまい具合に校舎の壁に跳ね返り、俺の近くに戻ってきた。
この後は走りこみをし、上級生の練習試合のこぼれ球拾いをし、今日の部活は終わった。疲れた。人づかいの粗い先輩だ。あっちこっちにボールを飛ばす。春梅の方が断然うまい。そう思いながら先輩を睨んだら、にらみ返された。おお、怖い。
帰り道は蘭最と一緒に帰る。蘭最は女子テニス部で、部活終了時間は俺のいる男子テニス部と同じだ。運動部は全員同じだが。
蘭最は綺麗な――目鼻立ちがはっきりした女子だ。クラスのグループの中でもリーダーシップを発揮していたりする。男女からの人気が高い、本当に羨ましい奴だ。
そんな彼女と俺が一緒に帰るのは、住んでいるマンションが一緒なことと、偶然にも共通した趣味を持っているからである。
「今日さ、『地獄のサターニャ』が発売するね」
「ああ、そういえば。シンカイ社のゲームだよな」
こういった他愛のない世間話を繰り広げて帰るのが俺たちの日課だ。彼女はゲームが好きだ。俺も好きだが、彼女ほど詳しくないし、持っている数も少ない。
「サターニャが現代の学校の異変を探しだす物語なんだって」
「どういう異変だよ」
「学校が最近の漫画だと、秘密基地みたいになってるじゃん。そういうの」
「そうか。鈴央には絶対来ないよな、そのサターニャ」
「そうだね」
だってこの学校は普通だから。秘密の部屋なんてものもないし、生徒会は秘密結社みたいになっていないし、裏サイトやスクールカースト制度もない。つまり、普通の学校だ。
「今度、学校でサターニャでも探してみる?」
蘭最はいたずらっぽくほほ笑む。俺はそれを軽く受け流す。
「また今度な」
でもこの学校は、そんなサターニャがやってきそうな学校だった。そう気づいたころには、何故もっと早く気がつかなかったと自分を責めることになるのだった。
まだ何が起こるか分からない段階です。ゆったり話を進めていきたいと思います。




