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時空消失のりこさん 8 洗濯槽洗浄を回したら異世界転生!? 主婦が聖女となり、主婦の知恵で魔王と戦うこととなった物語

掲載日:2026/11/01

家電の進化って、時にありがた迷惑ですよね。

全自動洗濯機が回っている間の、ちょっとした暇つぶしにお楽しみいただければ幸いです。

第一章 家電の進化と、異次元槽洗浄



世の科学技術の進歩というものは、時にありがた迷惑な領域へ踏み込む。


先月のことだ。夫のヒロシさんが「商店街の路地裏にある電器屋で、現品限りの激安で叩き売りされてたんだ!」と満面の笑みで手配し、配送員に無理を言って我が家の狭い脱衣所に設置させた全自動洗濯機。


二十代後半、まだ子どももおらず共働きに近い我が家には十分すぎる容量だが、どこの国のものかも知れない怪しいメーカー製で、無駄にタッチパネルが青白く光る。


何より辟易するのが、やたらと流暢で感情のこもった女性の声で喋りかけてくる機能だった。


「本日の洗濯物は三キロです。すすぎは一回で十分ですよ」

「お風呂の残り湯をお使いですね。水道代の節約、素晴らしい心がけです」


いちいち小姑のように口を挟んでくる。


「最近の家電って、無駄におしゃべりよねえ……」


結婚して数年、家事の段取りにもすっかり慣れてきたのりこさんにとって、洗濯機の指図を受ける筋合いは毛頭なかったが、せっかくヒロシさんが安く買ってきた家電を粗末にするわけにもいかない。


使い始めてちょうど一ヶ月が経った日曜の朝。のりこさんは「そろそろ最初の洗濯槽洗浄をしておくか」と腕をまくった。

新品とはいえ、見えない裏側に洗剤カスやカビの予備軍が潜んでいるのを放置するのは、主婦のプライドが許さない。


のりこさんは浴室からホースを引き、四十度ほどのぬるま湯をバケツ数杯分足して槽を満たした。

棚から取り出したのは、愛用の『酸素系漂白剤』のプラスチックボトル。


「ええと、槽洗浄には……ボトルの裏の記載通り、キャップ一杯と」


きっちり計量したキャップ一杯分の白い顆粒を水面にパラパラと振り入れる。ボトルの中身はまだ八割以上、たっぷりと残っている。

ボトルを脇の棚に置こうとして、のりこさんは操作パネルの【念入り槽洗浄】のボタンをピッと押した。


その瞬間、洗濯機の挙動がおかしくなった。


ウィーンという通常の駆動音ではなく、まるでジェット機の離陸前のような重低音の地響きが足元から立ち上る。

フタを閉めようとしたのりこさんの手前で、半開きになったフタの隙間から、槽の内側が禍々しいほど鮮やかな青紫色の光を放ち始めた。


『――これより、異次元レベルの強力洗浄を開始します。フタを閉めず、決して近づかないでください』


「はあ!? 近づくなって、フタ閉めないと回らないでしょ!」


のりこさんが反射的に上から中を覗き込んだ、まさにその刹那だった。


バァン! とフタが限界まで跳ね上がり、底の回転翼が目にも止まらぬ超高速で回転を始めた。水流が渦を巻き、まるで底のないブラックホールのような引力が発生する。


「ちょっ、ちょっと何これぇぇぇぇ!?」


凄まじい風圧と水煙がのりこさんの体を前へと引っ張る。足が浮いた。

のりこさんは悲鳴を上げながら、咄嗟に脱衣所の棚につかまろうと手を伸ばした。


だが、その指先がガッチリと掴んでしまったのは――棚の柱ではなく、さっき置いたばかりの『酸素系漂白剤のボトル』だった。


「いやぁぁぁぁっ! これじゃないぃぃぃ!」


スポン。

まるで風呂の栓を抜いた時のような、間の抜けた、しかし絶対的な吸引力によって、のりこさんの視界は泡と水煙の中に吸い込まれ、真っ白に塗りつぶされた。




第二章 純白の奇跡と、ノリー・コルデス卿



「うわっ……冷たっ! 何よもう!」


背中に冷たい水気を感じて、のりこさんは跳ね起きた。

ゴシゴシと目をこする。フローリングの脱衣所でもなければ、我が家の狭い洗面台でもない。


そこは、見上げるほど高い白亜の尖塔と、幾何学模様に刈り込まれたバラの木が連なる、息を呑むほど壮大な石造りの庭園だった。

そして自分の右手には、花柄エプロン姿のまま、先ほど掴んだプラスチックの漂白剤ボトルがしっかりと握られている。中身の粉末も無事だ。


「なんなのよ……排水溝が詰まったどころの騒ぎじゃないじゃないの」


のりこさんがエプロンの芝生を払いながら立ち上がると、庭園の向こうから、重厚な金属鎧を着た兵士たちと、豪奢な衣装の一団が血相を変えて駆け寄ってきた。


「おお……! 天が割れ、光の渦とともにひとりの女性が降り立たれた……!」


先頭を走ってきたのは、黄金の杖を握りしめた白髭の老人だった。その後ろには、剣の柄に手をかけた筋骨隆々の騎士が目を剥いている。


「もしや……我がエアリスカ王国をお救いくださる伝説の聖女様か!?」

「はあ? セイジョ?」


のりこさんが眉をひそめると、老人は感極まったように両手を天に掲げた。


「我が名はヴァルガス。このエアリスカ王国の大神官にございます! ああ、神よ……! ついに我らの祈りに応えてくださったのですね!」


ヴァルガスは感涙にむせびながら、のりこさんの足元へ膝をつこうとした。

だが、のりこさんの視線は、老人の顔ではなく、彼の胸元へと釘付けになっていた。


神聖な儀礼用と思われる純白のローブ。その胸元から裾にかけて、何百年も放置されて酸化したような、油煙と脂が混ざり合ったドス黒い汚れがベッタリとこびりついていたのだ。


「ちょっとおじいさん、立ちなさい。それより何なの、その服の汚れは!」

「は、はあ……?」


神官ヴァルガスが呆気に取られて顔を上げる。


「あんなに立派な刺繍が入った一張羅を、そんなギトギトに汚したままにして! 時間が経てば経つほど繊維の奥まで固着して落ちなくなるって、教わらなかったの!?」

「め、滅相もない! これは我が国に代々巣食う魔王軍の瘴気を受け、神殿の浄化結界を維持するために引き受けた、決して落ちぬ穢れ(けがれ)の黒ずみにございます! いかなる神聖魔法でも消せぬ呪いなのです!」

「呪いだか何だか知らないけど、ただの古い油汚れじゃないの! いいから、そこの兵隊さん!」


のりこさんは後ろでぽかんと口を開けていた屈強な騎士――近衛騎士団長のレオンハルトをビシッと指差した。


「は、はっ!?」

「厨房に行って、一番度数の高いお酒と、純度の高い石鹸と、熱湯を大至急持ってきなさい! あと、乾いた綺麗な布を二枚!」

「き、騎士団長たる私に指図を……!? しかし、この迫力は一体……」


レオンハルトは気圧され、ヴァルガスに目配せしたが、大神官は「聖なる儀式かもしれん、急げ!」と叫んだ。


数分後、湯気を立てる真鍮のタライと蒸留酒、オリーブ石鹸、麻布が庭園に運び込まれた。


「いい、よく見てなさいよ」


のりこさんはヴァルガスを芝生の上に座らせると、汚れたローブの裏側に、乾いた麻布を敷き布としてサッと滑り込ませた。

そしてもう一枚の布の角に、強い蒸留酒をたっぷりと含ませる。


「擦っちゃ絶対にダメ。汚れが広がるだけだから。油分をアルコールで浮かせたら、石鹸水を少しつけて……こうやって、上からトントン、トントンとリズミカルに叩き出すの!」


トントントン、トントントン。

のりこさんの手首が、職人のような正確無比なリズムで動く。


「叩いて、下の当て布に汚れを移行させるのよ!」


ヴァルガスとレオンハルト、周囲の兵士たちが息を呑んで見守る中、みるみるうちに上の布から黒ずみが消え、下の敷き布に真っ黒な油輪が移っていく。

仕上げに熱湯を少量含ませた布で拭き取り、パンパンと叩いてシワを伸ばすと――そこには、織り目のひとつひとつまで輝くような、まばゆい純白の布地が蘇っていた。


「き……消えた……?」


ヴァルガスが震える指で自分の胸元を触った。


「三代にわたる神官長が誰も祓えなかった魔気の穢れが……素手で、わずか数分で消え去った……!? 奇跡だ……! これぞ万物を原初へ戻す、真の浄化の奇跡だ!」


ヴァルガスは芝生に突っ伏し、咽び泣いた。


「おお、大聖女様! 神の御使いよ! どうか、その尊き御名をお聞かせください!」

「え? 私? のりこです」


ヴァルガスはハッと息を呑み、目を見開いて呟いた。


「……ノリー・コルデス卿……! なんという洗練された貴族の響き……! 遥か西方に滅びたという、名門コルデス家の令嬢であらせられたか!」

「だから、のりこ! です! これからは、のりこさんって呼んでください!」

「ははぁっ! “サン”とは、コルデス家における神聖至高なる尊称にございますな! 承知いたしました、ノリコ・サン様!」

「人の話を聞きなさいよ!」


のりこさんの訂正の叫びは、天を仰ぐ神官たちの祈りの声にかき消された。


こうしてのりこさんは、エプロンを引っ剥がされ、白銀のレースと上質なシルクで仕立てられた豪奢な「聖女のドレス」を着せられ、王国の最重要賓客として遇されることになったのである。




第三章 宮廷見学と、壁の筒



翌朝。

のりこさんは、案内役を申し出た近衛騎士団長レオンハルトに連れられ、王宮内の案内を受けていた。


「ノリコ・サン様、昨夜はよくお休みになれましたでしょうか」

「ベッドはフカフカすぎて腰が痛くなりそうだったけどね。それより、あの部屋、カーテンの丈が少し長すぎて床を擦ってたわよ。埃が溜まるから詰めたほうがいいわ」

「は、はあ……善処いたします」


筋骨隆々の騎士団長は、のりこさんの前では完全に気後れしていた。


「ノリコ・サン様。我がエアリスカ王国は、肥沃な大地と豊かな水源に恵まれた国でございます。しかし……」


レオンハルトは大回廊の大きなアーチ窓から外を指差した。

美しい街並みの遥か彼方、北の山脈の上に、不穏な赤黒い暗雲が渦巻いている。


「ここ数年、北の荒野に拠点を構える『魔王軍』の侵略が激しさを増しておりましてな。国境の砦を死守するため出陣されていた国王アルブレヒト三世陛下も、敵の陽動を見破り、昨夜急ぎ王宮へ帰還されたばかりです。しかし魔王軍は狡猾にも、王都そのものを内部から揺さぶろうと刺客を送り込んでいる節があるのです」

「ふーん……。王様も大変ねえ。うちのヒロシさんなんて、町内会の役員押し付けられただけで胃薬飲んでたっていうのに」


二人は回廊を進み、重厚な扉の前で立ち止まった。


「こちらは、国王陛下の政務を取り仕切る『大執務室』でございます」


中には天井まで届く本棚と、書類が山積みになった巨大な机があった。無事帰還された国王陛下自ら、留守を預かっていた宰相とともに眉間に皺を寄せて決裁に追われている。


「陛下がお戻りになられたとはいえ、国内の防衛体制と兵糧の手配でてんてこ舞いでしてな」

「紙が散らかりすぎよ。案件ごとに箱を作って分類しなさいな。書類探す時間だけで一日終わっちゃうわよ」


のりこさんの歯に衣着せぬツッコミに、宰相だけでなく国王陛下までビクッと肩を震わせた。


執務室を辞し、次に案内されたのは、地下へと続く石階段の先にある広大な「王宮厨房」だった。

数百人分の食事を賄う厨房は、熱気と活気に満ち溢れていた。


「こちらは我が王宮の胃袋を支える厨房です。総料理長のバルボアをはじめ、腕利きの職人たちが揃っております」


巨漢の料理長バルボアが、巨大な肉の塊を解体しながら豪快に笑った。


「おお、あんたが大神官様のローブを一瞬で真っ白にしたっていう聖女様かい! 見たところ、ずいぶんと包丁や鍋の扱いに手慣れたいい手をしてるじゃねえか!」

「当たり前でしょ、毎日ご飯作ってんだから。……ちょっとそこの見習いの子、ジャガイモの皮を厚く剥きすぎ! 実が半分なくなってるじゃないの、もったいない!」


のりこさんが即座に飛んでいき、見習いコックのピエールからペティナイフを奪って薄く皮を剥いてみせると、厨房中から「おおお……!」と歓声が上がった。


厨房を出て、再び大回廊へと戻る道中。

のりこさんは、壁のあちこちに一定の間隔で設置されている「ある物」にふと目を留めた。


豪奢なタペストリーの間に、無骨な真鍮製の筒が、壁掛け金具に固定されている。


「ねえ、レオンハルトさん。さっきから気になってたんだけど、あの壁に掛けてある金属の注射器みたいな筒は何なの?」

「おお、お目が高い。あれは城内で火災が起きた際、初期消火で用いる『消火シリンジ(手押し水噴射筒)』にございます」


レオンハルトが壁から一本外し、構造を説明してみせた。


「先端に細いノズルがついておりましてな。水樽にノズルを突っ込んで後方の引き手を引けば、ピストンの力で勢いよく水を吸い上げます。そして引き手を力任せに押し込むことで、水圧をかけて遠くの火元まで水を撃ち放つことができる道具です。石造りの城とはいえ、絨毯や木製家具への延焼を防ぐため、各回廊に配備されております」

「へえ……消火器の原型みたいなものね。ちゃんと備えがあるのはいいことだわ」


のりこさんは主婦の防災目線で感心しながら、真鍮の筒をポンと叩いた。


見学を終えたのりこさんは、中庭を一望できる最高級の客室へと案内された。


「ノリコ・サン様、本日はお疲れ様でした。国王陛下も後ほど改めて拝謁を希望されております。どうかこの部屋でごゆっくりお寛ぎください」


レオンハルトが恭しく一礼して去っていく。

部屋には天蓋付きの豪奢なベッド、美しい花瓶、そしてテラスからは王都の美しい街並みが一望できた。

手元には、客室のチェストの上に大事に置かれた、現代から持ってきた『酸素系漂白剤』のボトルがある。


「はあ……やれやれ。豪華なのはいいけど、ヒロシさんは今頃カップラーメンでもすすってんじゃないかしら……」


のりこさんが優雅なティーカップに手を伸ばした、まさにその時だった。




第四章 裏動線の危機と、台所の知恵



ドタバタドタバタ!

静かな客室の廊下を、けたたましい足音が揺るがした。


「ノリコ・サン様ぁぁぁぁっ! お助けください、聖女様ぁぁぁ!」


扉が勢いよく開け放たれ、転がり込んできたのは、先ほど厨房でジャガイモを剥いていた見習いコックのピエールだった。顔面を蒼白にし、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしている。


「ピエール! ノリコ・サン様のお部屋に無礼であろう!」


駆けつけたレオンハルトが怒鳴るが、ピエールはのりこさんのドレスの裾に縋り付いた。


「貯水槽が……城の命である地下貯水槽がやられました! 料理長が、料理長が倒れて……!」

「なんですって!?」


のりこさんはドレスの裾をたくし上げ、レオンハルトとピエールを従えて王宮の最深部、地下給水所へと駆け下りた。


そこには、王都の地下水脈から汲み上げた清らかな水が湛えられているはずの巨大な石造りの貯水槽があった。

水槽の脇では、総料理長のバルボアが腹を押さえてうめき声を上げ、床に倒れ伏している。


「バルボア! しっかりしろ、何があった!」

「うぐっ……腹が、ねじれるように痛ぇ……。夕食の仕込みに……水を味見したら……このザマだ……」

「水が真っ黒に毒されたのか!?」


レオンハルトが剣を抜いて水面を睨みつけた。だが、のりこさんは貯水槽の縁に身を乗り出し、目を凝らした。


「いいえ、真っ黒なんかじゃないわ。……よく見なさい」


水は一見すると透明に見えた。しかし、水底の白い石の反射を透かすと、ごくわずかに油膜のような虹色が浮き、底の方にドロッとした黒ずんだ澱みが淀んでいる。


「本当に真っ黒なら、料理長だって飲む前に気づくはずよ。……無色に近く、かすかに生臭い刺激臭。そして底に沈殿するこのぬめり……。これ、鉱物性の毒じゃなくて、魔物の体液か何かを使った『有機性の毒』ね!」

「ゆ、ゆうきせい……!?」

「生き物の油やタンパク質が腐敗して混ざったような毒よ! だから味が馴染んで気づかなかったのよ!」


のりこさんは即座に客室へ取って返し、チェストの上に置いてあった『酸素系漂白剤のボトル』をひっ掴んで戻ってきた。


「ノリコ・サン様、それは一体……!?」

「私の国のお掃除の知恵よ! 過炭酸ナトリウム……酸素系漂白剤はね、水に溶けると活性酸素の細かい泡を出して、有機物の汚れや雑菌を根こそぎ強力酸化分解するの!」


のりこさんはボトルのキャップを外し、貯水槽の水量を見極めながら、粉末をサーッと投入した。

投入された瞬間、水底の黒ずんだ澱みが、激しい反応を起こした。


シュワァァァァァァァッ!


炭酸のようにきめ細やかな純白の泡が無数に湧き上がり、水槽全体を包み込む。有機毒の油膜とぬめりが、酸素の泡に包まれてみるみるうちに分解され、無害な茶色いカスとなって水面に浮き上がってきた。


「ピエール! 厨房から細かい網と、木炭の粉を持ってきなさい! 浮いたカスを網ですくい取って、出口に炭と布を詰めて濾過するの! そのあと、料理に使う分は必ず一度グラグラ沸騰させなさい!」

「は、はいぃっ!」


ピエールたちが必死に動き、わずか数十分で、貯水槽の水は水晶のように澄み渡った。

バルボアに白湯を飲ませると、激しい腹痛は治まり、巨漢のシェフは涙を流してのりこさんの手を握り締めた。


「あんたは……あんたは命の恩人だ、聖女の姐さん……!」

「はいはい、お腹を冷やさないように寝てなさい」


だが、魔王軍の嫌がらせはこれで終わらなかった。


翌日の午後。客室で紅茶を飲んでいたのりこさんの元へ、再びピエールが悲鳴を上げて飛び込んできた。


「聖女様ぁぁぁ! 今度は食品庫です! 通気ダクトを破って、魔物が!」


急行した地下食品庫では、緑色のドロドロとした巨躯を持つ『粘液悪魔(スライムジェネラル)』が暴れ回っていた。

駆けつけた近衛兵が剣を振り下ろすが、刃はスライムの体をズブズブとすり抜けるだけで、傷ひとつつかない。それどころか、守ろうとしたピエールがそのネバネバとした触手に絡め取られ、宙吊りにされていた。


「うわぁぁぁ! 助けてぇ!」

「ええい、斬っても突いても手応えがない! 魔法士を呼べ!」


焦るレオンハルトの横で、のりこさんは食品庫の棚を見回し、腕まくりをした。


「何をモタモタしてんの! 水分と油分でネバついてるなら、吸わせて固めちゃえばいいじゃない!」


のりこさんは棚から、パン用の小麦粉の大袋と、オリーブオイルの甕を力任せに抱え上げた。


「ピエール、目と口を固く閉じなさい!」


ドサァッ! と大量の小麦粉をスライムの頭上から豪快にぶちまける。

さらにオリーブオイルを回しかけた。


『ギョエッ!? な、なんだこれは……粉っぽい!?』

「こねるのよ! パン生地の要領で、グルテンを形成させなさい!」


のりこさんは素手でスライムの巨体に飛び込み、体重をかけてグイグイと練り込み始めた。

呆気にとられていたレオンハルトや兵士たちも、「う、うおおおっ!」と叫びながら加勢し、スライムの体を寄ってたかってこねくり回す。


水分と粘液を小麦粉に奪われ、油分で乳化したスライムは、みるみるうちに弾力を失い、ただの巨大なパン生地の塊へと成り果てた。


「ピエールを引っ張り出しなさい! あとはこれ、暖かい部屋に放置して過発酵させるか、中庭でカチカチになるまで天日干しにしちゃいなさい!」

『も、動けん……! 体が発酵して膨らんでいくぅぅぅ……!』


小麦粉まみれのスライムジェネラルは、床に転がされて完全に行動不能となった。


そして三日目の朝。

またしてもピエールが、今度は全身に煤を被った姿で転がり込んできた。


「聖女様! 今度は石窯オーブン室です! パン職人たちが丸焼きにされちまいます!」


王宮厨房の巨大な石窯。その煙道ダクトを突き破って現れたのは、全身から業火を噴き上げる魔王軍の幹部『火炎魔導士ヴォルクス』だった。


『ハーッハッハ! 王宮を焼き尽くし、灰にしてくれるわ!』


ヴォルクスが放った火球が、厨房の作業台や油瓶に引火し、猛烈な炎が広がり始めていた。パン職人たちがエプロンに火の粉を浴びて逃げ惑う。


「水を! 水樽を運べぇっ!」


水桶を担いで突っ込もうとする兵士の頭を、のりこさんがスリッパ代わりのパンプスで引っぱたいた。


「バカッ! 油やオーブンの火に水をかけたら、油が飛び散ってかえって大延焼するでしょ! 厨房で火を使う基本がなってないわね!」

「な、なにィ!?」


のりこさんは呆然と立ちすくむ料理人たちへ即座に指示を飛ばした。


「ピエール! そこらの料理人! 棚にある乾燥塩の大袋と、ベーキングパウダーの原料の重曹の樽をありったけ持ってきなさい! 早く!」

「は、はいっ!」


料理人たちが転がるようにして運んできた塩と重曹を、のりこさんは受け取るや否や、火元へと豪快にぶちまけた。


バサァァァッ!


塩が油を吸って冷却し、熱分解した重曹から大量の炭酸ガス(二酸化炭素)が発生して酸素を遮断。勢いよく燃え上がっていた炎が一瞬で小さく萎んだ。


「仕上げよ! 洗い場にある分厚い麻布を水に浸して持ってきなさい!」


手渡されたびしょ濡れの生ハム熟成用麻布を広げ、のりこさんは煙を上げる火元へバサリと覆いかぶせた。


完全なる窒息消火。酸素を断たれた炎は、ジュウゥゥという音とともに完全に鎮火した。


『な、なぜだ……我が至高の魔炎が、ただの粉と濡れ布ごときに……ゲホッ、ゴホッ!』


煙に巻かれて目を白黒させている火炎魔導士の頭上から、のりこさんは空になった重曹の樽をスッポリと被せた。


「厨房で火遊びするんじゃないの! 反省しなさい!」


ドカッと樽の上から座り込んだのりこさんに、パン職人たちと兵士たちから割れんばかりの拍手が湧き起こった。




第五章 魔王ゼノヴァル降臨と、アルカリの看破



裏動線から送り込んだ刺客がことごとく主婦の手腕によって返り討ちに遭った報せは、ついに魔王軍の頂点へと届いた。


その日の夕刻。

王都の上空を覆い尽くすほどの漆黒の雷雲が渦巻き、天地を裂くような轟音が響き渡った。


ドォォォォォォン……!


王宮の中庭に、隕石が落下したかのような衝撃とともに、一体の巨魁が姿を現した。


体長は四メートルを超え、全身がぬめるような暗紫色の甲殻と筋膜に覆われている。その巨体からは、陽炎のような紫の蒸気が立ち上っていた。


『小癪な人間どもめ……! 我が精鋭を愚弄した報い、その命で購うがよい! 我が名は魔王ゼノヴァル! この国を骨の髄まで溶かし尽くしてくれるわ!』


迎撃のため、レオンハルト率いる近衛騎士団が剣を構えて突撃した。


「怯むな! 王宮を守れ! であえ、であえぇぇっ!」


だが、先頭を走った精鋭の騎士が、魔王の振り払った腕を盾で受け止めた瞬間――


ジュウウゥゥゥッ!


「ぎゃあああああっ!?」


騎士が絶叫を上げて転がった。金属の盾に異常はない。しかし、魔王の腕がかすかに触れた騎士の手首から二の腕の皮膚が、まるで熱湯で煮崩れたようにズルリと剥け落ち、ただれ爛れていた。


さらに魔王が獰猛に口を開き、ゴォォッ! と息を吹き出す。

その爆風を浴びた前線の兵士たちが、一斉に首を掻きむしって倒れ伏した。


「カハッ……! 息が……喉が焼ける……!」

「触れれば皮膚が溶け、吐息を吸えば気道が焼かれる……! な、なんという呪いか! 強酸の毒か、目に見えぬ業火か!?」


レオンハルトの顔が絶望に染まる。近づくことすらできない敵に、剣も槍も意味をなさない。


その時、避難を促す声を無視して、中庭の回廊からトコトコと歩み出てきた人影があった。

豪奢なドレスの裾を邪魔そうにたくし上げ、腕組みをしたのりこさんだった。


「ノリコ・サン様! いけません、下がってくだされ! あれは触れるものをすべて溶かす怪物です!」


レオンハルトが叫ぶが、のりこさんは倒れた兵士の元へスタスタと近づき、その爛れた腕をじっと見つめた。


「……ちょっと傷口を見せなさい」

「だ、だめです聖女様、触れては……!」


のりこさんは兵士の傷口の表面を、エプロンの端でそっとぬぐった。


(……おかしいわね。もし強酸や炎で焼かれたなら、皮膚の水分が奪われて黒く炭化するか、カサカサに乾燥するはずよ。でもこの傷口……異常にヌルヌルしてる)


(これって……そうよ! 前にお風呂の頑固なカビ取り洗剤を素手で触っちゃったとき、指の皮膚がヌルヌルになってひどくかぶれた、あの感触とまったく同じだわ! それに学生のころ理科で習った……タンパク質を溶かすのは、酸じゃなくてアルカリ性よ! このツンと鼻を突く刺激臭も……!)


のりこさんの直感が確信へと変わった。


「ピエール! そこにいるでしょ、ピエール!」


回廊の柱の陰で震えていたピエールが顔を出した。


「は、はいっ!」

「厨房へ走って! 今日の晩餐の仕込みで使った赤キャベツのマリネ、あの紫色の漬け汁をスプーン一杯、大至急持ってきなさい!」

「えっ!? あ、赤キャベツですか!?」


ピエールは理由も聞かずに厨房へダッシュした。

その間、魔王ゼノヴァルがのりこさんを見下ろし、嘲笑の笑みを浮かべる。


『フハハハ! 女一人が出てきて何を喚くか! 我が肉体は触れる者を溶かす絶対の神体! ひれ伏すがよい!』

「うるさいわね、ちょっと待ちなさいよ!」


魔王を一喝して黙らせるのりこさん。そこへピエールが息を切らして小皿を運んできた。


「も、持ってきました! 赤キャベツの汁です!」


のりこさんはスプーンを受け取り、魔王の足元――彼が歩いた石畳に残る、ドロドロとしたぬめりの跡へ、紫色の汁をタラリと垂らした。


紫キャベツに含まれるアントシアニン色素。学生時代の理科の実験を思い出す。

紫色の液体は、粘液に触れた瞬間――


スウッ……と、鮮烈な青緑色、そして黄色へと変化した。


「やっぱりね! 酸じゃないわ! こいつ、全身がド級の『強アルカリ』よ!」


のりこさんがビシッと魔王を指差した。


「きょう、あるかり……!?」

「そうよ! 超強力なカビ取り剤のお化けみたいなもんよ! だからタンパク質である人間の皮膚をドロドロに溶かして、アルカリ性の蒸気で喉の粘膜を焼いてたのよ! 兵士たちに酸性の軟膏を塗って洗い流させなさい!」


そしてのりこさんは、中庭に響き渡る大音声で号令を下した。


「アルカリの天敵は、酸に決まってるでしょ! おい近衛兵! 回廊の壁にかかってる『消火シリンジ』を全部外して持ってきなさい! ピエール、厨房の野郎どもを全員叩き起こして、地下倉庫から一番酸っぱい年代物のワインビネガーの大樽を、あるだけここに転がしてくるのよ!」

「は、ははぁっ!」

「ピエール、急げぇぇぇっ!」




第六章 中和反応と、お洗濯の終了



だが、樽を転がしてくるには時間がかかる。


魔王ゼノヴァルには「アルカリ」などという言葉の意味はさっぱり分からなかったが、目の前の小娘が恐れもせずに指図を飛ばしていること自体が許せなかった。


『小娘が、喚き散らしおってェェェ! 貴様から先に溶かしてドロドロの肉塊にしてくれるわ!』


巨体が地響きを立てて突進してくる。


「ノリコ・サン様に指一本触れさせはせん!」


レオンハルトが叫び、残った騎士たちが盾を構えて立ち塞がった。


「時間を稼げ! 樽が来るまで、死力を尽くして耐えるのだ!」


騎士たちは剣を交差させ、魔王の足元へ泥や砂を蹴り込んで視界を奪い、槍で甲殻の隙間を牽制した。

魔王が腕を振るうたびに石畳が砕け、衝撃波で騎士たちが吹き飛ばされる。


「ぐああっ!」「隊長、持ちこたえられません!」


傷だらけになりながらも、レオンハルトたちは決して退かなかった。のりこさんが示した「弱点がある」という確信が、彼らの心を支えていた。


「どけぇぇぇぇ! 樽が通るぞォォォッ!」


中庭のアーチから、バルボアを先頭にした厨房軍団が、巨大なオーク樽を四人がかりでゴロゴロと転がしてきた。その数、五樽。

さらに反対側の回廊からは、若い兵士たちが腕いっぱいに真鍮の消火シリンジを抱えて雪崩れ込んできた。


「ノリコ・サン様! ビネガー樽、到着いたしました!」

「シリンジ、三十本揃いました!」

「よし、よくやったわ!」


のりこさんはレオンハルトの横にいた屈強な兵士へ叫んだ。


「そこのあんた! 斧でも剣の柄でもいいから、ビネガー樽の木栓を力任せに叩き割りなさい!」

「はっ!」


兵士が戦斧の峰を振り下ろすと、ゴキィッ! と鈍い音とともに木栓が砕け散り、プシャッ! と鼻が曲がるほど強烈に熟成された酢の匂いが中庭中に充満する。


「騎士たち、シリンジのノズルを樽に突っ込みなさい! ピストンを引いて、限界まで酢を吸い上げるのよ!」


三十人の兵士が一斉に真鍮の筒を樽へ突っ込み、引き手を力強く引いた。ギュウゥゥッと真鍮のシリンジの中に濃縮ビネガーが満たされる。


「構えなさい! 狙いはあのデカブツの口と全身よ!」


魔王ゼノヴァルは、騎士たちを蹴散らし、大きく胸を反らせた。

口腔の奥が不気味に発光する。すべてを溶かし尽くす破壊の吐息を放つ気だ。


『消え失せよ、蛆虫どもがァァァァッ!』


魔王が顎を限界まで広げ、息を吸い込んだ――まさにその瞬間。

のりこさんが右腕を振り下ろした。


「全筒、放水――ッ!! 中和しちゃいなさいッ!!」


ズバババババババババッ!!


三十本の消火シリンジから放たれた高圧のワインビネガーが、白条の矢となって魔王の開いた口内、そして全身の甲殻へと一斉に突き刺さった。


極限の強アルカリと、超濃厚な強酸。

二つの物質が激突した瞬間、化学の法則が牙を剥いた。


ジュワァァァァァァァァァァァァァッ!!


『ギョ、ギョエェェェェェェェッ!? な、なんだこれはぁぁぁぁぁッ!?』


魔王が絶叫を上げた。

口の中から、皮膚の表面から、まるで巨大な発泡入浴剤を熱湯に放り込んだかのような、凄まじい勢いで真っ白な泡がブクブクと噴狂い始めた。


激しい中和熱と炭酸ガス。魔王を構成していた強アルカリの細胞が、酸によって急速に中和され、結合を失っていく。


『あ、熱い! 体が、泡になって……溶けていくのは我の方かぁぁぁぁッ!?』

「シリンジ、第二波! 残さず撃ち尽くしなさい! 汚れは根元から中和するのが基本よ!」


兵士たちが再び樽からビネガーを吸い上げ、容赦なく追撃の放水を浴びせる。


シュワシュワシュワシュワ……!


白い泡の山に包まれた魔王は、みるみるうちに縮んでいった。

四メートルの巨体が二メートルになり、一メートルになり、五十センチになり――


やがて泡が弾けて消え去った石畳の上には、手のひらサイズにしおしおと縮み上がった、ピクピクと痙攣する紫色の干からびたナメクジのようなものが、ポツンと転がっていた。


……シーン。


中庭に、完全な静寂が訪れた。

酢の酸っぱい匂いと、白い泡の残骸。


そして次の瞬間――


「う、うおおおおおおおおおおっ!!」


地鳴りのような大歓声が爆発した。


「勝った……! 魔王を倒したぞ!」

「聖女様万歳! ノリコ・サン様万歳!!」


レオンハルトが剣を掲げて叫び、バルボアがピエールを抱き上げて回し、駆けつけた大神官ヴァルガスが涙を流して天に祈りを捧げる。

兵士たちも料理人たちも、誰も彼ものりこさんを取り囲み、割れんばかりの喝采を浴びせた。


だが、その喧騒を切り裂くように。

どこからともなく、中庭の青空の彼方から、耳に馴染んだ軽快な電子音が鳴り響いた。


『♪〜 ピピッ、ピピッ、ピーピーピー』

『お洗濯が終わりました。大変お疲れ様でした。中の洗濯物を、お早めにお取り出しください』


「あ、やだ」


のりこさんが思わず呟いた瞬間、彼女の足元が激しい青白い光の渦に包まれた。

身にまとっていたレースとシルクの聖女ドレスが、淡い光の粒子となってほどけ、着慣れたいつもの花柄エプロンへと戻っていく。


「ノリコ・サン様!?」「聖女様、どこへ行かれるのですか!?」


手を伸ばすレオンハルトやピエールたちの姿が、遠ざかる。


「みんな、元気でねー! 水回りはちゃんと換気して、火の元には気をつけるのよー!」


のりこさんが大きく手を振った瞬間、足元に現れた巨大な排水口のような渦へ、スポンと吸い込まれた。




第七章 日常の帰還と、今夜の献立



「……っと!」


ふらつく足を踏みしめた時、のりこさんが立っていたのは、我が家の脱衣所だった。

目の前には、見慣れた全自動洗濯機。


カチャリ、と静かな音を立てて、フタのチャイルドロックが自動で解除された。

恐る恐るフタを開けて中を覗き込むと、そこにはカビひとつない、鏡のようにピカピカに磨き上げられたステンレス槽が広がっていた。洗いたての清々しい香りが、ふわりと鼻をかすめる。


ガラリと脱衣所の引き戸を開け、リビングへ向かう。


テレビからは、気の抜けた野球中継の歓声が流れていた。ソファの上では、夫のヒロシさんが缶ビール片手にポリポリと頭を掻いている。


「お、洗濯終わったのか? のりこ、さっきから脱衣所でやけに静かだったけど、居眠りでもしてたのか?」

「居眠りなわけないでしょ!」


のりこさんは仁王立ちになり、ヒロシさんの前へ詰め寄った。


「ちょっとヒロシさん、聞いてよ! あなたが買ってきたあの洗濯機、中が異世界につながってたのよ! 私、庭園に転移して聖女に間違えられてドレス着せられて、刺客を小麦粉でこねて、最後は消火器でお酢をぶっ放して強アルカリの魔王を中和退治してきたんだから!」


息もつかせぬマシンガントーク。

身振り手振りを交え、酸とアルカリの化学反応の素晴らしさを力説する妻を、ヒロシさんは薄笑いを浮かべながら見上げ、手元のリモコンをポチッと押した。


「はいはい。洗濯槽クリーナーの匂いでも吸いすぎて、ラリって変な夢でも見たんだろ。安物買ったからって、変な言いがかりつけるなよな。それよりさー、今日の夕飯なに? 肉がいいんだけど」

「もうっ! 本当なんだから! 信じないならいいわよ!」


ぷりぷりと怒りながら、のりこさんはエプロンのポケットに手を突っ込んだ。

その指先に、カサリとした硬い感触が触れた。


「……あら?」


ポケットから引き出してみると、それは手のひらに収まるほどの、小さな革の巾着袋だった。

紐を解いて中を覗き込む。


そこには、異世界の料理長バルボアと見習いピエールが、感謝の印としてそっとポケットに滑り込ませてくれたのであろう、見たこともない異世界の『最高級乾燥ハーブ』がぎっしりと詰まっていた。


柑橘の爽やかさと、ピリッとした胡椒のようなスパイシーな香りが、リビングいっぱいに広がる。


ヒロシさんが「おっ、なんだその美味そうな匂い?」と鼻をひくつかせた。

のりこさんはフッと不敵な笑みを浮かべ、台所のまな板の上に鶏モモ肉を叩きつけた。


「ふん……今夜はね、鶏肉の香草焼きよ。異世界の魔王も泡吹いて縮むくらい、とびきり美味しいやつを作ってあげるわ!」


包丁をリズミカルにトントンと響かせながら、のりこさんは異国の空へ思いを馳せ、楽しそうに鼻歌を歌い始めた。



(了)

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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