表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

学園でテンプレ婚約破棄騒動…が起きたらしい

 ここは、とある大国のとある貴族たちが通う学舎ーーテンプレーナ学園


 この学園には現在、とある噂があった。

 この国の皇太子殿下が男爵令嬢と浮気している、と。



 殿下の婚約者は公爵令嬢で完全無欠な美人淑女だが、嫉妬に狂った彼女が男爵令嬢を影でいじめている…とか。


 魔法の使えない殿下は婚約者が魔法使いとしては国の1,2を争う人だから男爵令嬢に癒されたんだとか。


 そんな噂の登場人物は、皇太子ハウエル殿下、公爵令嬢アリシア嬢、男爵令嬢メルティ嬢。



 そしてその日、その噂の真相が明らかになったのだった。


 煌びやかな灯火と楽の音に包まれた学園祭。は、もう終わって現在後夜祭が行われている広場。その喧噪の中、訴える声が響いた。


「彼女は皇太子の婚約者には相応しくない!ハウエル殿下の婚約者、アリシア様は――メルティをいじめているのです!」


 と、男爵令嬢メルティの取り巻きの一人が高らかに宣言して、本人を指さした。

 群衆が一斉に振り返る。

 視線の中、アリシアは冷や汗をひと筋流しながらも、完璧な微笑を崩さなかった。


「……どのようなことが、あったのですか?」


 メルティは大きな桃色の瞳にうるうると涙を浮かべ、声を張る。

「私の教科書が!真っ黒に汚されました!」


「……それは、災難でしたね。ですが、大したことでなくてよかったです」


「“よかった”ですって!?」

「聞いたか!? 完全に開き直った!」

「冷静すぎる!」


 広場がざわめく。


 メルティは泣きながらさらに声を強める。

「そして私は、“殿下の隣に立つな”と脅されました!」


「……脅しではなく忠告です。殿下の隣は危険です。どうしても望まれるなら、ご自分を守る術を身につけてくださいませ」


「ほら!いじめを認めたぞ!」

「命の危険を口にした!やっぱり脅迫だ!」

「いや、あれは愛の忠告だ!殿下を守ろうとしているのだ!」

「擁護派!?激闘の討論の行方は如何に!」


 観衆が二手に分かれ、勝手に議論を始める。


「どう聞いても脅しだ!」

「違う!忠義だ!」

「お前、隣に立つなって言われて喜ぶのかよ!」

「言われたい!むしろご褒美だ!」


 広場は裁判所どころか見世物小屋のような熱狂に変わっていた。


 メルティは勝ち誇ったように叫ぶ。

「そして極めつけは!

私は魔法で階段から突き落とされかけました! 助けてくださったのは殿下ですわ!」


「……大事に至らず、本当によかったです」


「また“よかった”だ!」

「冷静すぎる!逆に怖い!」

「見ろ、汗が光ってる!動揺の証拠だ!」

「いや、冷や汗すら気品に見える……!」


 群衆が口々に叫ぶ中、取り巻きたちが次々と証言を積み重ねた。


「理科室で煙が充満したとき、殿下を心配して駆け寄ろうとした心優しいメルティに“どきなさい”と強く言ったのを聞きました!」


「……火急の際に安全を優先しただけです」


群衆は盛り上がる。

「即答!やはり後ろ暗いところなどない!」

「完璧答弁!悪役令嬢そのもの!」


「図書館の本棚が崩れたとき巻き込まれた殿下とメルティに何故かその場にいたアリシア様が“殿下の側に寄るな”と!」


「……混乱を鎮めるためにいただけです」


「見たか!指先が裾を握った!震えてる!」

「動揺してる!黒確定だ!」

「いや、その仕草が美しすぎて白に見える!」


「メルティが殿下と見ていた温室の薔薇が一夜で枯れた事件!現場を仕切っていたのはアリシア様!」


「……花を惜しむ気持ちは、皆さまと同じです」


「詩的にごまかしたぞ!」

「逆に芸術的で白だ!」

「派閥が割れた!乱闘開始!」


「メルティが滑って転んだ湖が一瞬で凍った日!魔法を放ったのはアリシア様!」


「……その場にいたことは否定いたしません」


「来た!自白だ!!!」

「違う!潔白ゆえの堂々たる認めだ!」


 観衆はもはや裁判員ではなく実況者。


「現在のスコア、黒派二十点、白派二十五点!」

「いや、審美眼で見れば百点満点で悪役!」

「愛ゆえに仕方なし、という説を提唱する!」

「勝手に論文書くな!」


 広場は完全にお祭り騒ぎとなった。


 ――そのとき。


「ごめんね〜アリー!」


 お気楽な声が夜空に弾む。

 皇太子ハウエル殿下が、笑顔で手を振りながら現れた。


「……殿下。いずれ賠償金で国家が傾きますわ」

「だいじょーぶ!僕が稼いでるから!」

「そういう問題ではありません!」


 観衆は一斉に息を呑み――そして勝手に盛り上がった。


「見ろ!悪に殿下まで取り込まれてる!」

「国家ぐるみの陰謀だ!」

「いや違う!愛の共同戦線だ!」


 夜会の華やぎは、今やカオス。

 完全にゴールすら不明の熱狂の渦に呑み込まれている。


 アリシアは眉間に手を当てた。

 殿下の朗らかな声が広場に響く。


「いや〜本当にごめん!男爵令嬢?の教科書を真っ黒にしたのって、何故か隣に彼女がいたから僕の実験油がこぼれたせいだし!」


「……!」

「じゃあ……アリシア様のせいじゃない……?」


「階段で突き落とされたっていうのも僕の実験で爆発で床が揺れたのに何故か隣にいたから巻き込まれてただけだよね。実際に支えたのはアリーだったんだ!」


「支えた……アリシア様が……?」

「じゃあ“助けたのは殿下”って……」

「え、メルティ様が間違えてただけ……?」


「工房の煙も僕の失敗、図書館の本棚も僕の魔道具のせい。

温室の薔薇が枯れたのも、うっかり試薬をひっくり返しちゃったせいだし。湖が凍ったのは試作の氷結魔道具が暴走しちゃってさあ〜!」


 あっけらかんと並べ立てる殿下。

 観衆は揃って呆気にとられる。

 空気と化していたメルティが震える声で言う。


「……でも、アリシア様は“殿下の隣に立つな”と」


「それはさ!!アリーが正しいよ!」

ハウエルは笑顔で断言した。


「だって僕、魔力が多すぎて魔法を制御できないんだ。だから昔から魔道具を作ってるけど、普段から実験ばっかりしてるし…失敗も多い。失敗は成功のもとっていうけど、やっぱり魔力量が多くて大きな失敗を結構するしね!

…それに巻き込まれたら危ないでしょ?」


「……!」

「アリシア様は……メルティ様を遠ざけるためじゃなくて……」

「殿下から庇ってた……!?」


「そうそう。男爵令嬢は身を守れないのに勝手に僕のそばに寄ってきてたからね〜。アリーは“危ないから離れたほうがいい”って、ずっと忠告してただけだよ」


 広場に、どよめきが走る。


「じゃあ……アリシア様は被害者を守っていた……?」

「むしろ殿下に近づいた人を庇っていた……?」


 先ほどまで非難していた視線が、今や尊敬と憧憬へと変わっていく。


「……すごい」

「本物の淑女だ」

「殿下の爆発からすら人を守るなんて……」


 真相が明らかになり、広場は静まり返っていた。


 アリシアは殿下の前に立ちながら、ひときわ静かな声で口を開く。


「……ですが、殿下」

 白い指がドレスの裾をきゅっと握る。


「わたくしでは、殿下を本当に支えきれないかもしれません。で、殿下はっ!魔道具でこの国を豊かにしておられます。でもわたくし……ちょっとだけ魔法の才はあっても……殿下には、もっと愛らしく誰からも慕われる、メルティ様のような方の方が――」


 そこまで言って、アリシアの瞳にかすかな涙が滲んだ。

 今まで必死に我慢していた感情があふれ、目尻から光がこぼれる。


「……っ」


「ちょ、ちょっと待ってよアリー!?」

 ハウエルが飛び上がるように慌てた。


「泣かないで!僕、なにか間違えた!?ごめんねえ!?」


 普段は飄々としている殿下が、必死にアリシアに手を伸ばし、うろたえる。


「アリーはすっごく可愛いよ!?それに、アリーは可愛いだけじゃないんだ!」

「……殿下……」


「誰より頭が良くて、魔法は国で一、二を争うほど強くて!僕の爆発にも冷静に対応して、何度も国を救ってくれて!それでいて、こうして涙を見せるのがまた可愛くて……!」


 殿下は息も継がず、焦りを燃料にしたかのように滝のようにまくし立てた。


「僕の才能を信じてくれるのも!暴走を止めてくれるのも!支えてくれるのも!笑って叱ってくれるのも!世界でたった一人、アリーだけなんだよ!僕の才能はアリーのためにあるし!?そもそも魔道具作りもアリーが教えてくれたし!?いや、とにかく!!

他の誰かじゃ絶対にダメだ!アリーじゃなきゃダメなんだ!」


 群衆「…………」


「もしアリーがいなくなったら……僕は皇太子なんて面倒くさいの絶対やめてやる!」


 広場はしんと静まり返った。

 あまりの溺愛宣言に、群衆はぽかんと口を開けるばかり。


「…そっ、それはいけませんわ!ハウエル様はこの国の主力事業となる予定の魔道具工房の責任者っ…!」

アリシアが真面目に言う。

「し、知らないよ!そんなの!アリーが喜ぶから作ってるだけだよ!」

「…ハウエル様…」


がばっとハウエルはアリシアに抱きつく。まるで大型犬のようだ。

「…とにかくっ!アリーは僕のだからっ」

アリシアは顔を真っ赤にして混乱していて、ハウエルはぐりぐりと頭を擦り付けている。


「…………」

「…………」


 やがて誰かが小声でつぶやく。


「……帰ろうか」

「……お幸せに」


 人々は熱狂が覚め、気まずそうに目をそらし、そそくさと解散していった。


 その最後尾で、取り巻きに引きずられていくメルティが歯ぎしりをする。

「な、なんでそうなるのよおおおっ!」


 怒りの声も空しく、広場には抱きしめられるアリシアと抱きしめているハウエルだけが残る。


「……殿下」

「アリー……泣かないで。僕は本気なんだ。大好きだ」


 月明かりの下、完璧な淑女は規格外の皇太子の腕の中にそっと受け止められていた。



 その後、テンプレーナ学園は落ち着きを取り戻した。

 

 少しだけ開き直ったアリシアは最近ハウエルの隣で実験を見守っている。※その二人の様子は学園中が生暖かい目で見守っている。


「……ねえ、ハウエル様。先日の騒動は、わざとなのですか?」


「なんのこと?」

 にこりと笑う。


 だが次の瞬間、彼は真剣な眼差しでアリシアを見つめ、両手で頬を包んだ。


「僕の失敗を全部引き受けて、笑顔でかばって……そんなことできるのはアリーしかいないよ?こんなに変な僕を愛してくれるのも、ね」


そしておもむろにアリシアに深く深く口付けをした。


「僕は皇太子なんていつでもやめて構わない。でも、僕がアリーを手放すことは一生、絶対に、ありえない」


 強く、まっすぐに。

 その声は、重く甘く響いた。


「だから――アリーじゃなきゃダメなんだ」


 と、規格外の皇太子は婚約者にクラスメイトが全員いる教室のど真ん中で愛を捧げた。婚約者は処理落ちして気絶してしまっていたので、後日やり直したらしい。


 以上、テンプレーナ学園のあんまりテンプレじゃない婚約破棄騒動でした。

ハウエルは激甘激重でアリシアを振り回す設定です。気に入っていただけましたら、リアクションやブクマ、評価をお願いします!

ご好評いただければ連載にしようかなと思っています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
面白いけど連載反対。 たまに短編で続きを希望。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ