部外者だったはずの俺は魔法少女に選ばれる。
「変身って言えばいいのかよ...?」
ステッキを片手に、雪緒は空中に向かってステッキを振った。雪緒は後悔をしていた。まず、遅刻をしなければ、と。
「なんで...俺がこんなことを...!」
「じゃあ電話切るわ」
「一個だけ質問があってさ...」
「どうした?」
「なんで魔法少女とかの変身シーンって攻撃されないんだろ...?この前のゲームの...」
「決まってるだろ?悪役は対等な立場で戦いたがってんだよ。卑怯な勝利とかはいらないだろ」
「...そっか。じゃあね...」
「たまには休めよ?じゃあな」
島崎雪緒千日高校1年生。何か才能があるというわけではない。平凡な一般高校生。現在は、同級生だった竜司からの電話を終えたところだ。
住田竜司紫陽花高校1年生。竜司はいじめなどが度重なり、紫陽花高校に転校してしまった。雪緒にとって、唯一本音で語れる相手は竜司だけであった。
「はぁ...」
雨が降っている。折り畳み傘を広げた雪緒は鞄を持ちながら、駅に向かう。ここから雪緒の家はかなり遠い。千日高校に通うためだけでも電車通学で30分はかかるため、毎日早起きだ。明日は月曜日、学校である雪緒は俯いて溜め息を漏らした。
(ま...頑張るか...竜司のためにも...)
雪緒は親友の敵を恨む感情を押し殺すように両手で拳を握り、顔を上げて前を向いた。その時だった。
「ん...?」
雪緒は足を止めた。原因はすぐ雪緒の近くにあった。背後から、奇妙な音と共に。
(俺の背後に...何かがいる...?でも何でだ...?)
真後ろにいるということは確信していた。それでも雪緒は振り返らない。理由はただ一つ。怖いから。両足が震え、顎から離れてしまった震える右手を再び戻す。
(全力で走るか...?いや、追いつかれるだろ。何もできないのか...?)
後ろにいるものが人間だった場合は、すぐに逃げていただろう。しかし、奇妙な音を発するものに関しては、雪緒は人間ではないと結論を出していた。
(やるしかないか...)
雪緒は少し目を閉じた後、覚悟を決めたように意を決して振り返る。
「っ...はっ?」
雪緒は息を呑んだ。それは、誰も見たことがないような紫色の光を漏らしているゲートであった。ゲートはまるで、催眠術をかけるような回転速度で、神々しい音を出しながら右回りの渦を作っている。雪緒はゲートに釘付けになっており、目から離せず、同時に声が出なくなっていた。
「うわっ...!や繧√m縺」??シ∝勧縺代※縺上l縺」??シ」
突然、素早く突っ込んできたゲートに雪緒は片手を前に突き出し、驚いて尻餅をついてしまう。ぞわっと体中が一瞬震え、目を閉じる。真っ暗な時間は、雪緒の思考時間を与えていた。
「...あれ?」
数分後、神々しい音が消えたと感じ取った雪緒は、手をどかしてゆっくりと目を開けた。起き上がって急いで周りを見渡す。さっきまでのゲートのようなものは消えていた。しかし、雪緒は違和感を抱いて目をぱちくりとさせた。
「なんでベッドの上に居るんだ...?」
昨夜のことが何もなかったかのように、ベッドから起き上がった雪緒はゆっくりと時計を見る。雪緒は絶望した。頭が真っ白になった。そして思わず口から出てしまっていた。
「...遅刻するっ!!」
目覚まし時計は7時40分を指している。雪緒は毎日徒歩で通っており、通学時間は約30分。そう、このままだと間に合うわけがない。雪緒は急いで制服に着替え、朝食も取らずにそのまま学校に向かった。
「はっ...はっ...はっ...!」
雪緒は走りながら、片手でお腹を少し押さえる。朝食を取っていないせいで、酸素の供給が足りておらず、息が上がり始めている。走らないと間に合わない。しかし、走るのが辛い。究極の選択だ。そして十字路に突入し、横断歩道を渡るだった。
「っ...!?」
雪緒は、横から歩いてきた通学バッグを持っている女子高生らしき人と肩がぶつかった。雪緒は急いで立ち上がり、遅刻覚悟でその場に留まる。
「大丈夫ですか!?すいません!」
雪緒は謝罪を込めて深く一礼をした。が、しかしその女子高生は反応しない。雪緒のことは気にせず、ずっとどこか一点を見つめている。雪緒は疑問に思い、女子高生と同じ方向を見つめるが、その先は何もない。
「あ、あの...?」
雪緒は女子高生の前で手を振るが反応がない。雪緒は戸惑いながらも振り続ける。その後、女子高生が何事もなかったかのように雪緒を凝視した。
「え?」
雪緒は手をゆっくり下ろして女子高生を見つめた。その女子高生はというと変わらず雪緒を見つめ、バッグを漁って何かを取り出した。
「ワタシガ...ミエルノ?」
「え?見えますけど...」
突然の質問に雪緒は唖然とした。女子高生が発した声は何かに包まれているように低く、カタコトであり何かに操られているような感じだ。そして女子高生は鞄から何かを取り出し、雪緒に向けた。
「えっ」
目を見開いた。向けられているのはステッキ...のようなもの。よくある魔法系アニメの変身道具みたいな、星型の黒いステッキだ。そしてその女子高生の手首の部分には、脳みそのようなイラストがタトゥーのように書かれていた。
「なんっ...まさか...魔法しょ...」
「ヘンシン」
雪緒が言いかけた瞬間、その女子高生の全身が輝き、一瞬でアニメとかゲームでよく見る魔法少女...の服装になっていた。しかし、服装全体が暗く、変なオーラが漂っている。
「繧キ繝」
「なんっ...」
その魔法少女はステッキを振って何かを生み出した。黒く、闇に染まった球体を。その間、雪緒はそれが何か分からず、酷く混乱していた。そしてステッキを振り下ろしたかと思うと、その球体が雪緒を目掛けて真っすぐ飛んできた。
「まじかっ...!?」
砂嵐が発生し、雪緒は瞼を閉じてその球体を避けようと横に跳んだ。その瞬間だった。
「たくっ...こんな朝っぱらからこんなことしなきゃいけないなんて...!!」
「...は?」
雪緒は倒れた状態で瞼を開けた。砂嵐が晴れると、目の前には、桃色の服装をした魔法少女が、雪緒を庇うように半透明な壁を出現させていた。
「あんたがなんでこいつに襲われてるか知らないけどさー!私たちは忙しいのっ!!」
「いや知らないが!?」
魔法少女はその言葉と同時にステッキを振って何かを唱えた。
「除化っ!!」
「ガガッ...ああああ!!」
魔法少女が何かを唱えた瞬間、あの謎のオーラやあのタトゥーが粉になり、空に向かって次々と消え始め、代わりに明るい赤色をした服装へと戻っていった。そして、何かが切れたように、地面へ倒れた。
「お前は...?」
雪緒は後ずさりながら、助けてくれた魔法少女に聞いた。突然襲われ、助けられ、何もかも追いついてないまま、聞いた。
「私は西園寺日向、趣味で魔法少女を...いや、魔法少女をさせられてる」
「は...?」
雪緒が驚き、口を開こうとする暇もなく、それを遮るように日向は言葉を続けた。
「突然だった...ある日に変な渦に襲われて...気が付いてから...ポケットに違和感があった」
「ポケットに...?」
日向は片手に持っているステッキを雪緒に見せた。雪緒はそれを見て、瞳の中の光が消えた。そして、ポケットを探り始める。
「っ...!!」
雪緒は手触りで何かを感じた。そして、それがポケットから落ちる。
「アンタは呼ばれたの...この地獄に」
「嘘...だろ...」
視線をそれに向けて雪緒は頭を抱えた。唇が震える。そして、汗がそれに滴った。
「嘘だ嘘だ嘘だ...!!俺はこんな事はしない...!!!ふざけるなっ!!」
「あっそ、でもそのうち後悔するわよ」
雪緒はその星のステッキを取り、ポケットに押し込んだ。そして立ち上がり、学校に向かって走り始めた。
「アイツ...襲われないか心配だわ...」
日向は、走り去った雪緒の背中を見守り、溜め息をついた。
「クソクソクソクソ...っ!!!」
雪緒は無我夢中で走った。『あり得ない。現実でこんな事が起きるはずがない』雪緒は心の中で、そう叫んだ。
「んん...私は...?」
「あ、やっと起きたわね」
雪緒が去った後、日向は自分が浄化したその魔法少女の前にしゃがみ込み、目線を合わせた。
「あんた操られてたわよ」
「...え?」
日向から発された言葉に、その魔法少女は目を丸くした。
「あんた、名前は?」
「林田未来...です」
名前を口にした後、未来は顔をしかめながら立ち上がった。そして、遅れて日向が立ち上がった。
「次は気をつけなさいよ?」
「...はい。ありがとうございました...」
未来は頭を下げたや否や、変身を解除してその場を去った。
「さてと...ほかの奴らもちょっと捕獲して、学校行こうかしら」
「おかしいおかしい...!!」
走るたびに、見えなかったものが見えるようになっていた。雪緒は息を切らし、その場に立ち止まった。膝に手を置き、息を整える。
「なんなん...だよ...!!」
誰も居ないはずなのに、沢山の冷たい目線を向けられているような感覚に襲われた。
「...違う違う...俺には関係ないんだ」
息を整えた雪緒は顔を上げ、視線を感じながらも、それらを気にしないようにして走り出した。日向の『魔法少女をさせられてる』という発言は、雪緒の中で何度もリフレインした。
「はぁっ...はぁっ...!!遅れましたっ!!」
「1分遅刻だぞー、次はしっかりしろー」
「はい!!すいません!!」
雪緒は椅子を引いて座り、HRに集中した。...はずだった。
「あ、それと転校生が来たから紹介するぞ。入ってこーい」
「...は?」
雪緒は目を丸くして、口をパクパクとさせた。だって、見たことがある奴だったから。
「今日から千日高校に通うことになりました。西園寺日向です。よろしくお願いします」
魔法少女とは何も縁が無いと思っていた雪緒は、強制的に繋がれてしまっていた。
「じゃあ、島崎の後ろなー」
「...まじかよ」
雪緒は隣を通る日向と目が合ったが、すぐに逸らした。
「アンタいたのね」
未来の呟いたような声は、雪緒の耳にしっかりと届いていた。雪緒は溜め息をついて、頭を抱えた。
「ふざけんな...」
「で、なんでお前いんの...?」
「この近くにブレイン・ウオッシュのアジトがあると思ってね...」
「ブレ...なんて?」
先ほどの件もあってか授業に集中出来ずに、昼休みに入った。雪緒は日向を校舎裏に呼び出し、壁に寄りかかっていた。
「人の弱った心をエネルギーとした怪物を作る悪の組織なの。最近ここは異様に増えてて怪しいと思ってた。しかも、魔法少女が、魔法少女を襲うことが増えてる。あのブレイン・ウオッシュ...」
「さっきから見える奴らか...てか、名前...ダサすぎないか?」
日向が右手を握りしめる中、雪緒は寄りかかるのをやめた。そして、お互いが対面した。
「脳を洗うって...なんだよそれ...」
ブレイン・ウオッシュを直訳して『脳を洗う』しかし、雪緒に引っかかった。雪緒の顔が曇る。
「脳洗う...のうあら...のうせん...洗脳...?」
段々変化させて、『洗脳』という単語が出来上がった。日向の眉がピクッと動いた。
「...確かに洗脳なら合点がいくわ。さっきもアンタ襲われてたでしょ?」
「...アレか」
「操られてる魔法少女は何人か見た。それが洗脳だとしたら、小賢しい...」
日向は顔を曇らせながら、額に手を当てて少し唸った。
「ま、でも俺には関係ないし。じゃ」
雪緒は背を向けてその場を去ろうと、一歩地面を踏みしめた。すると、後ろから声が掛かった。
「魔法少女に選ばれた時点で、化け物に狙われるのは確定してるわ」
雪緒の足が止まった。それを見て、日向は言葉を続けた。
「化け物は私たちの事は臭いで分かるの」
「...は?でも襲われてないじゃ...!!」
「活動時間」
振り返った雪緒に、日向はキッパリと言った。
「あいつらは夜じゃないと動くことは出来ない。人が最も気分が落ち込む夜に。そして、人から独立し、集団で動く。それから、魔法少女を片っ端から襲う...」
「...」
「力を貸してほしい...この地域を守りたい。アンタも同じでしょ?」
「無理だよ!!魔法少女!!だろ!!俺が出来るわけないだろ!!」
雪緒の響いた声は、虚しくも空に向かって消えた。日向は表情を変えずに、雪緒を見つめた。
「出来る。その為に、呼ばれたんでしょ」
当事者として、この場に居なければならなかったという事実に、雪緒は絶句した。
「練習するわよ」
「俺、何も言ってぇぇぇ!!」
放課後になり、早めに帰ろうと急いでいた雪緒は、日向に服を掴まれ、どこかへ引きずられたのだった。
「あ、いまさっきの人じゃ...」
「拒否権は...?」
「ない」
雪緒は恐る恐る聞いたが、即答された。肩が重く感じた。そして、近くの公園に着いた。
「まずは魔法少女の世界について知らないといけないわ」
「...はい」
突然始まった講習会に、雪緒は流れるまま受けらされていた。気を取られてない内に、その場を去ろうとしても、妙な視線を感じていた。
「ま、簡単に言えばアンタは魔法少女に選ばれたの」
「詐欺広告かな...」
「...そうね」
「良くなさすぎるだろ...誰だ選んだ奴は...」
雪緒は呆れたような顔をして、両手のひらを空に向け、『もうわからん...』と言いたげなジェスチャーをした。
「魔法少女の世界は簡単に言えばMRよ」
「MRって...なんだそれ」
「Mixed Realityの略、複合世界とも言うわ。現実世界と仮想世界を高度に融合する技術よ。おそらくこれが使われてる」
「見られてる気配がするのも...?」
「そう」
「えぇ...っと?」
「私たちは変身することで、化け物を見れることが出来るの」
「さっぱり...分からないんですが」
雪緒の頭にははてなマークが浮かんでいた。日向は溜め息をつき、何回も教えた。
「あーはいはい!つまり、悪の組織は仮想現実の奴らで、お前らは魔法少女に変身した時に、現実世界から仮想空間に移動出来て、化け物と戦えるってことか!!魔法少女は奴らを食い止めないと現実世界にも支障が出る!!そういうことだな!?」
「やっと分かったわね...」
「すいません」
日向には息切れが発生していた。何十回も教えたせいなのかもしれないが。
「でも矛盾してないか...?」
「何が?」
「さっき変身すれば、化け物を見れるんだろ?でも、あの魔法少女...?に襲われてた時、俺何もしてなかったぞ?変身しない限り、攻撃されないはずだろ?」
変身すれば、攻撃されない。しかし、襲ってきた魔法少女は例外だった。それが、違和感を呼んだ。
「魔法少女...だからかもしれない」
日向が雪緒を見つめて言った。それに対し、雪緒は...
「もう分かりません。普通の生活に戻らせてください」
考える事を放棄したのだった。
「次は変身よ」
「嫌d...」
「ステッキ出して」
雪緒が何か言おうとすると遮られ、主導権は完全に日向に握られていた。雪緒は、渋々といった感じでステッキを取り出した。
「変身って言えばいいのかよ...?」
「そうよ。こんな感じで」
日向はそう言って、ステッキを振った。次の瞬間に日向の服が光り、さっき見たような桃色の服装をした魔法少女に変身していた。そして、あまりにも眩しい光で目を閉じて、何故か構えていた雪緒は、ゆっくりと目を開けた。
「次はアンタね」
「す...すごいけどさ...やっぱ拒否権は...?」
「ない」
「なんで...俺がこんなことを...!」
雪緒は少し溜め息をつき、決心して空中に向かってステッキを振ろうとした。
「すぅっ...へん...!」
その時だった。
「あのっ...!!」
「ん?」
「えっ」
雪緒の口から出ていたはずの言葉は、途中で止まった。固まった雪緒と、変身していた日向が声のした方向を向く。傍から見れば、異質な光景だ。
「って...見たことある顔のような...」
雪緒がじっと顔を見つめた。そして、雪緒が『あっ―』と言いかける前に日向が言った。
「あら、林田じゃない」
「未来でいいです!さっきは助けていただきありがとうございました!!」
「全然いいわよ...それさっきも聞いたし」
「...?」
未来が頭を下げて言った。雪緒は手を止めたまま、その様子を見ていた。
(さっき襲ってきた奴だよな...?)
口を開きかけたが、その言葉は出なかった。
「今は、何されてるんですか?」
「アイツの魔法少女の特訓」
「...はい?」
未来は雪緒と日向を交互に見た。それはそうだ。魔法少女を男がすること自体が、あり得ない。というかそもそも、魔法少女が居る自体おかしいことだが。
「あっ、私は林田未来っていいます!!未来って呼んでいいです!」
「よ、よろしく...俺は島崎雪緒...」
日向にも言ったような典型文が、雪緒にも飛んできた。異常なほど近づいてきた未来に、雪緒は反射で一歩後ずさる。
「島崎さん...ユッキーって呼んでいいですか!?」
「どんなあだ名だよ...」
何故か、否定はしなかった。
「男の子が魔法少女...」
未来は雪緒の顔を覗き込んだ後、雪緒の周りを何回か回った。
「てか...これバレて大丈夫なのかよ?」
「未来も魔法少女だから大丈夫よ」
「はい!私も魔法少女です!」
「いやそういう意味じゃなくて...普通の人達にも変身するところ見られていいのかよ?」
「さっきも言ったけど、変身すると仮想空間に移るから見られないの」
「俺お前見れるけど...」
「魔法少女だからでしょ」
やっぱり理解していなかったと言うべきか。もしくは、日向の説明不足か。雪緒の頭は、パンク寸前で止まっていた。
「...」
「男の子が魔法少女になるって事例ありましたっけ?」
「ないわね...私も初めて見たわ」
「だって魔法少女だもんな」
「ま、いいや。とりあえず変身してみて」
「やる気失せたんだけど...」
興味があるのかないのか。日向の声色が変わらない返事に、雪緒は少し虚空を見つめた後、改めてステッキを空中に上げ、振りかざした。
「変身っ!!!」
迫力のある声が雪緒から出された。すると、雪緒の全身が発光し、服装が変わっていく。雪緒は目を閉じ、それを仕方なく受け入れた。そして、光が収まった頃には...
「...は?」
女になっていた。
「えっ...?」
「...」
2人は口を開いたまま絶句し、雪緒を見つめた。雪緒は、自分の白い服装を見下ろそうとしたが、突き出た胸が邪魔をしていた。
「何だこ...って声が...!!」
胸の違和感を指摘しようとしたが、高い声に変化していた。首元を押さえると、喉仏が引っ込んでいる。
「な、まさか...!」
これらの現象から嫌な予感を感じ、下半身を探った。無い。アレが、なかった。額から汗が滴る。
「いやあああああ!!最悪!!ない!!アレが!!」
普段からは出すことが出来ない高音が、雪緒から発された。
「なにこれ!!俺女になってんの!?」
「す...すごい!!完全に女の子じゃないですか!!しかも可愛い!!」
未来が興奮気味に言った。雪緒の汗は相変わらず、流れ続けた。
「戻れる!?ちゃんと男に戻れるの!?」
「焦り過ぎでしょ」
「だって女になってるんだよ!!あり得ないだろこれ!!」
日向はすぐに無関心そうな声に戻っていた。そして、普段は低い怒号が発される雪緒だが、今の外見はただの少女であり高い声のせいでまったく説得力が無くなっていた。
「あり得ないけど...魔法少女になるためには、そうなるしかなかったんじゃないの」
「んだこの設定は...」
慣れない体と信じがたい理由のコンボで、雪緒は呆れて溜め息をついた。そして、魔法少女というものにイライラするのも束の間、突然雪緒のステッキが光り出した。
「なっ...なんだ急に!?」
『ようこそ、EGHへ』
機械のような声がステッキから発された。雪緒は驚いてしまい、ステッキが手から滑り落ちた。
『登録が完了しました。あなたは現在レベル1、共有魔法はナシ、現在の所持魔法は、冷凍です』
無機質な声が続く。雪緒は時間を掛けながらステッキを拾い、少し目を輝かせていた。
「ゲ...ゲームみたいだ...」
「目輝かせてるじゃない」
「名前変えた方がいいかも、雪ちゃんに!」
「う、うるせぇ...!!動きずらい!!」
輝いている目を隠すように片手で両目を覆った。慣れない体に違和感を感じながらも、全身を慣らしていく。そしてようやく慣れた所で、日向が口を開いた。
「で、何か変わったところは...?」
「変わりまくってるよ色々と!!」
「えっと...周り見て」
「周り...?ってなんだこれっ!?」
周りを見渡すと、化け物が見えた。大きさがバラバラで沢山だ。そして、視線の原因が分かった気がした。
「これが言ってた化け物か...しかもめっちゃ見てきてる...」
「ちゃんと見えてるわね。そうこいつらよ」
「でも、今は活動しないんだろ?」
日向は化け物たちを一通り見た後、小さい奴を指差した。
「あの小さい奴は弱いけど、あの大きい奴は強い」
「大きさ...?」
「今はまだバラバラだけど夜になれば集団に――」
顎に手を当てて日向の話を聴いている雪緒を横目に、未来は自分のステッキを持って呟いた。
「話ついてく為に私も変身した方が良いのかなぁ...」
「てかさっきこれが言ってた共有魔法ってなんだよ?」
「例えば...」
日向は自分のステッキと雪緒のステッキを向かい合わせさせ、何か操作を始めた。
『共有魔法を受け取りました』
雪緒がステッキを覗くと、そこには『近炎』という新しい魔法が増えていた。
「自分の所持魔法を共有することが出来るの」
「なるほど...?」
「私のも要りますか?」
「じゃ、じゃあ要る...」
いつの間にか変身していた未来はステッキを持って向かい合わせた。そして、流されるまま魔法は3つに増えていた。
『共有魔法を受け取りました』
「防御...?」
「はい!結構強いですよ!」
「ちなみに、1人一つずつしかもらえないからね」
「うーん...魔法ってどうやって使うんだ?」
「試しにあの小さい化け物にステッキ振ってみて」
「え...うん」
雪緒は冷凍と画面に出たステッキを、小さな化け物に振りかざした。
「ウギャァ!?」
「凍った!?」
魔法を掛けた本人自体が驚いているのが分からないが、その魔法を喰らった化け物は驚いた表情を保ったまま、氷に包まれた。
「す、すげぇ...」
「つ、強い!!」
「ま、いいんじゃないの?」
口を開いたままステッキを見つめた。まだ非現実的で受け入れがたいが、慣れていくしかないと思った。
「やっと解けた...」
日は沈みかけていた。あの後は戦い方やステッキの使い方を一通り学んだ。そして、変身を解除し、自分に戻ることが出来た。いつもの声、いつもの体、そしてアレの存在が、雪緒を安心させた。
「やっぱ自分の体だよな...」
「あ、ユッキーに戻っちゃったー」
「だからなんだそのあだ名」
「ま、良かったんじゃないの」
「素直に褒めてほしいんだが」
他愛のない会話を繰り広げていると、突然雪緒のスマホが鳴り出した。
「あ、電話きたわ。先行っててくれ」
「わかった」
「はーい」
雪緒はポケットからスマホを取り出した。画面には『竜司』と書かれている。そのまま通話ボタンを押し、耳に近づけた。
「もしもし?」
...返事が返ってこない。
「縺溘縺吶縺代縺ヲ」
「竜司...?」
「縺溘縺溘助縺代縺ヲ縺溘縺溘縺溘縺溘縺吶縺代縺ヲ」
スマホから流れたのは竜司ではなく、何かの言葉を逆再生されたような声とただの雑音だった。嫌な仮説が、頭をよぎった。
「まじかよ...?」
魔法少女になった代償なのかどうかは分からないが、雪緒の危険信号が強く作動していた。
服の名前が分かんないから変身シーンは簡潔に書くことしか出来ない。あと長い短編が途中から手抜きになってしまった。
好評だったら連載予定かなぁ...?




