第6話「考える吸血鬼」
第6話「考える吸血鬼」
石造りの部屋に、静かに時計の針が鳴る音が響いていた。
吸血鬼は椅子に腰をかけ、薄暗い照明の下で紅茶を口に運んでいた。
目の前の机には、開かれたままの記録帳。だが、彼の視線はその上をさまよい、ページの文字を追っているようで、追っていなかった。
エリセ――あの名前。
夢の中で見た光景。あれは本当に夢だったのか?
彼女の視点で自分を見ていたことが、妙に頭から離れなかった。
(……あれは、恐怖だったのか?)
僕は短く息を吐くと、椅子の背もたれに身を預けた。
「いや……与えていたのは、僕か」
静寂。誰も返事はしない。だが、この場所に言葉を投げることが、時折必要になる。
考えてみれば、彼女が記録帳に記されていた時点で、あの任務は記録帳に記された時点で“完了”していた。なのに、なぜ――夢の中で、あんなにも無意味に剣を振り上げていたのか?
恐怖を与えるため? エリセは生きているの……か?
何か違和感が残るが分からない。
僕はそっと立ち上がり、部屋の隅にある本棚を眺めた。 ……彼女が記された記録帳。
取り出そうとはしなかった。ただ、そこにあることを再確認するだけで十分だった。
「……何をいまさら……エリセは死んだはず……」
だがそのつぶやきは、僕自身を納得させるためだった。
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