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第5話「夢の断片」
第5話「夢の断片」
暗闇の中、足音だけが響いていた。
冷たい石畳の廊下。青白い灯りが揺れている。
足は自然と前に進んでいるが、ここがどこなのかは分からない。
誰かが、こちらを見ている。
振り向いた。
そこに、黒衣の吸血鬼が立っていた。 無表情のまま、こちらへ歩み寄ってくる。
剣を持っている。その姿に、かつてどこかで見た記憶が重なる。
逃げようとしても足が動かない。
声を出そうとしても喉が塞がれる。
吸血鬼が目の前に立つ。
その右手が、ゆっくりと剣を振り上げた——
……目が覚めた。
吸血鬼は、椅子に腰掛けたまま、ゆっくりと息を吐いた。
「夢、か……」
周囲は静かだった。ゴーストもゴーレムもいない。 ただ、胸の奥に残る妙な感触だけが、残っていた。
彼は立ち上がると、書棚の前に向かい、何かを探すように指先で背表紙をなぞった。
そして、小さな声で呟いた。
「……あれは、エリセの視点だったのか?」
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