第2話「昼下がりの無人城」
第2話「昼下がりの無人城」
朝の食事を終えたリッチは、いつものように魔王軍本部へ向かう準備を整えていた。
「坊ちゃま、本日は幹部会議が長引く見込みです。戻りは夜になります」
「気をつけていってらっしゃい」
吸血鬼はソファに寝そべったまま手を振る。リッチは黙ってワイバーンにまたがり、飛び立っていった。
静寂。
いつもより深い、空っぽの静けさがダンジョンに降りる。
吸血鬼は大きく息を吐いた。
「さて、今日は久々にゆっくりできそうだ」
本を片手に日陰のベンチに座る。
紅茶はぬるいが、静寂の中ではその温さすら心地よい。
中庭では、ゴーレムが延々と敷石の並びを整えている。
ゴリ、ガリ、ガン。
「……うるさいな、読書の邪魔しないでくれと言っても無駄だな」
声をかけても反応はない。ゴーレムはただ与えられた作業を忠実に続けるだけ。
吸血鬼は紅茶をひとくちすすり、目を閉じる。
静けさ。空気の流れすら音を立てない、完璧なひととき。
読書、散歩、昼寝。時折、ゴーストが天気予報のような報告をしてくるのも、無機質で面白い。
「外気温、現在14.2度」
「……ここダンジョンだけどね」
夕方、ワイバーンの影が戻ってくる。
翼をたたむと、リッチが淡々と降り立つ。
「坊ちゃま、ただいま戻りました」
「おかえり。今日も静かで素晴らしかった」
「それは結構です」
吸血鬼は微笑み、そっと本のページを閉じた。
今日も、穏やかな一日だった。
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